逆転サヨナラホームラン

※ 照島視点


 飲んだあとラーメン食いたくなんだよなぁ。
 すっかり常連になっている職場の前のコンビニに入り、カップラーメンを選ぶ。辛いのもいーけど、飲んだ後はあっさりしたのもいい。コンビニにしては種類が多いのは嬉しいけど、明日も仕事があるしさっさと帰らなきゃいけない。早く選ばねーと。
 コンビニの壁にかかっている時計で時間を確認すると、終電が過ぎたころだった。あいつら終電乗れたんだろうか。逃してもう一件行ってるかもしんねーな。
 深夜をまわるといつも思う。なまえちゃんはもう寝てるだろうか。今日も電話できなかったなって。入店のチャイムが耳に入ると、俺が入ってきたときと全く同じトーンで店員があいさつをした。
 棚の向こうを入ってきた人が通る。俺はしゃがんでカップラーメンを真剣に選んでたから、何かが通りすぎたくらいにしか思わなかった。

 バタン、という音に反応して冷蔵庫の方を見ると、さっきまで頭に浮かんでた相手がいた。あいつらのことじゃない。なまえちゃん。
 ……なんでこんな時間にこの辺にいるんだろ。誰か一緒なわけでもなさそうだし。

「終電なくなっちゃって」

 危なげなくそう言ったなまえちゃんは、ネカフェに泊まると言っている。あの大きい看板のところ。俺も前に一回行ったけど、あそこは女の子が泊まれるようなところじゃない。マジでやめた方がいい。第一あんまり綺麗な訳じゃないし。

 俺んち泊まれば?

 一瞬言いかけて、やめた。なまえちゃんは俺の彼女ではないし、今誘うのは余計にチャラいと思われる。例え目の前に据え膳が置かれてもなまえちゃんが良しと言うまでは食わないと決めていた。

「遊児くんのそういうの珍しいね。言いづらいこと?」

 時折とろんと瞬きをしながらそう言われる。まだ酔いが残ってるみたいだ。
 ……なんだこの可愛さは。このままなまえちゃんを置いて帰るのはやっぱりできなくて、言いかけた言葉を口にした。


▽ △ ▽ △



 気を紛らわすようにシャワーを浴びにきたものの、視界に収まった光景に動揺せずにはいられなかった。だって、なまえちゃんがうちにいる。
 あー、部屋あんま散らかってなくてよかったー!勢いのまま指の腹でシャンプーを泡立てて一気に流した。

 出した下着とTシャツと短パンを履く。家にいるとだらだらしてリラックスしきっているが今日は話が違う。さっき買ったカップラーメンはもう食える気がしない。また今度だ。髪を乾かして、脱衣所を出ると、なまえちゃんが俺を見て笑った。
 え、俺なんか変?なんで笑ったの?スゲーかわいいんだけど。
 冷蔵庫から出した水を飲むと、一応シャワーを浴びるか声をかけた。いやらしい意味じゃない。一応聞いただけだ。

「いいの?入りたい!」

 付き合ってない男の部屋にきて無邪気にその返事はよくない。まじで襲われる。俺じゃなかったら。
 クローゼットからなまえちゃんが着れそうな服を選んで出して渡すと、素直に受け取られて湯だりそうな気持ちになる。なまえちゃんが彼女になったらこんな感じで泊まりにきたりするんだろうか。


 暫くして脱衣所から出てきたなまえちゃんは、俺が渡した服を素直に着ている。最近オーバーサイズの服流行ってるし大して違和感はないけど。いや何がクるって、俺の部屋で俺の服をなまえちゃんが着ているってことだ。多分、かわいいとか、感想を言ってはいけないような気がする。
 不意に視界に入ったまだ乾ききっていない髪のことを口にすると、躊躇なく俺の前にしゃがんだ。なまえちゃんは気づいてないかもしれないけど、明らかに会ったばかりの頃よりも距離感が近くなっている。ドライヤーのある洗面台の前に二人で立つと、髪を乾かしてあげた。甘えられているみたいで、顔がにやけそうになる。鏡越しになまえちゃんと目が合うと、一瞬で空気が変わった。このまま近くにいたら、多分約束を守れなくなる。


▽ △ ▽ △



 なまえちゃんに背中を向けて窓の外を見る。いつもと同じ。電気を消しても少しだけ見える部屋の中で、なまえちゃんが呟く。

「遊児くん明日何時起き?」
「……8時」
「いつも何時にいくの?」
「んー……8時半」

 天井が光る。アラームでもセットしてるんだろうか。

 なかなか寝付けない。それも当たり前だ。どのくらい時間がたったかはわからない。目を瞑っても全然だめ。なまえちゃんはもう寝たのかな。
 後ろをこっそり見ると、静かに息をしている以外に動く様子はない。2杯ほど飲んだアルコールのせいで、トレイに行きたくなってゆっくり起き上がった。

 ソファの後ろを通り、用を足してからベッドに戻る。ちょっと見るだけ。欲が出て、なまえちゃんの頭の方にしゃがんだ。体を丸めてソファにすっぽり収まり、気持ち良さそうに寝てる。触りたくなるのを我慢して、頬に向けて出かけた手を引っ込めた。
 あー…やっぱり近づいちゃだめだな。せっかくベッド譲ってくれたんだし、さっさと寝ないと。


▽ △ ▽ △



〜〜♪


 あれ、もう朝?そっか、あのあとすぐ寝れたんだ、俺。
 頭がぼーっとする中、ベッドの端でわめくアラームを止めて振り返ると、なぜか隣になまえちゃんが寝ていた。
 え!?なんでこっちにいんの!?跳ねるように起き上がってなまえちゃんを見ると、ぼんやりと目を開けて髪をさわりながらゆっくりなまえちゃんもベッドに座った。冷静になれない中、手を伸ばせば捕まえられるところにいるなまえちゃんに声をかけると、とろけそうな目で言った。

「起きて暇だなぁってなって。遊児くんの寝顔みてたら寝てた」

 なに?どういうこと?まだ気になる事が多すぎるが、結果から言えばなまえちゃんは一時間近く俺の隣で寝ていたらしい。な、なんで?

 とにかく時間がない。いつも通りの時間ではあるけど、状況がいつも通りじゃないのに。なんであと30分早く起きなかったんだろう。マジで俺なにやってんだろ。

 いつも通りに仕度を済ませると、なまえちゃんもあっさりと準備を終えていて、洗濯機の上のかごに丁寧に畳まれたなまえちゃんが着ていた俺の服を突っ込む。
 ……やっぱりわかんねぇ。なんで俺の隣で寝てたんだろ。ていうかなまえちゃんは今俺をどう思ってるんだろうか。

「じゃあ遊児くんは私のことどう思ってる?」

 なまえちゃんの言葉に対して、思ってることを全て。いや。ひとつだけ隠して言うと、なまえちゃんが楽しそうに笑う。

「……私も。私も遊児くんのこと好き。顔を見たくなったのも、隣に寝たくなったのも、好きだなぁって思ったからだよ」

 実は、淡く期待はしていた。でもまさか本当にそうだなんて想いもしない。あ。そっか。じゃあ我慢しなくていいんじゃん。体が勝手に動き、触りたいと思っていた彼女を抱き締める。
 仕事行きたくねぇなー。明日も忙しいしなぁ。なまえちゃんの感触を味わってから離れると、なまえちゃんは少し怒っているみたいだ。時間がないって。怒ってもかわいいけど。抱き締めただけじゃ足んねーなぁ。
 なまえちゃんにダメだと言われても我慢せずにキスをすると、怒ったまま顔を赤くして俺を見ていた。

 ヤベーな。やっぱり言うこと聞けばよかった。
 一回味わったら、もっと欲しくなるなんて考えればわかるはずだったのに。