カミングアウト5秒前※ 照島視点
「こんにちはー」
「みょうじさん、髪伸びたねー!」
カットで散らばった髪をほうきで集めながら入口の方を見ると、来店したお客さんが安斉さんとめっちゃ仲良さげに話している。多分俺と同じくらいの年齢っぽいけど、常連さんっぽいな。そう予想しながら余所見でとりきれていなかった髪をまた集めた。
カウンターで今日の予約の確認をしていると、楽しそうに話す安斉さんの声が聞こえた。誰のカット中かと思えばさっきの子か。なんとなく気になって、隣で印刷したパンフレットを半分に折っている先輩に声をかける。
「安斉さんがカットしてるお客さん、常連さんッスか?」
「みょうじさん?私が入った時にはもう通ってたよ」
「へぇ〜」
「てるしーと同じくらいじゃない?年」
ふーん、やっぱり。でも別に、タメのお客さんなんて沢山いるけどね。そう思ってから、手元の作業を再開する。
暫くして安斉さん指名のお客さんが来店した。予約の時間より少し早かったが、席に案内して選んだ雑誌を並べて、安斉さんのいるみょうじさんの席へ行く。
楽しそうに話している時は、正直割り込むようで好きじゃないけど、仕方ないよな。呼び掛けるわけでなく安斉さんの後ろに立つと、めちゃくちゃ楽しそうに話すみょうじさんを鏡越しに見て、急に思ってしまった。
なんかこの子、すっげー可愛い。
さっきは遠かったし、よく見てなかったから気付かなかったのか。急にドン!って何か刺さったみたいだ。というかお客さんに対して髪型以外にこんな思ったの初めてだわ。
俺に気付いた安斉さんが近付いてくれ、簡単に報告をする。
「次の予約の方、案内済みです」
「ありがとう。じゃあみょうじさんのシャンプーお願いしていい?」
「わかりました」
みょうじさんは安斉さんに声をかけられて「はーい」と軽く返事をしたのを聞いて。高校の時の、よくナンパしてた時の気持ちを思い出した。あの時は可愛ければ良かったけど、これは違う感じだ。さすがに23にもなればわかる。
シャンプーを始めると、自然に軽く話をする。どんどん上がるテンションを抑えながら。
はっきりわかる、心臓がうるせえ。いつもバニラで、常連さんで、笑うと可愛い。言葉の整理がつかない。同い年か、年下か、年上か。ちょっと今はまだ聞けない間柄だ。
キレイ系とか可愛い系とか。そういうのは色々あるにしてもそんなの抜きにしてこんなまっすぐに、しかも急に、こんな気持ちになったのは初めてだと思う。
安斉さんに頼まれてドライをしていると、俺を少し見てからみょうじさんに質問をした。
「そういえば、みょうじさんいくつだっけ?」
「23ですね」
マジか!タメじゃん!割り込みそうになって我慢する。
それでも仕事中だし、会話を聞き逃すわけにもいかずに返事をしたり、俺にしては願望と現在がうまいこと共存できていると思う。
「あだ名呼びなんだ」と楽しそうに言ったみょうじさんが可愛くて、ついグイグイいってしまいそうになって、どうにかさっきよりはマシに言えたはずの言葉はこれ。
「みょうじさんもいつか呼んでください!」
おかしい。だだ漏れだ。もう遅いけど。ケラケラ笑う安斉さんのフォローがなかったらヤバかったと思いながらみょうじさんを見ると、普通に笑っている。あっぶねえ。
アシスタント業務は一旦なくなったから、カウンターに入る。しゃがんで両頬をバチンと叩いてみたが効果はない。
安斉さんの声がして、すぐに立ち上がるとみょうじさんがお会計をするところ。その表情をこっそり見ては、ぐんぐん気持ちが育つ。めっっっちゃ可愛い。
こ の前来たカットモデルの子は美人だったけど、美人だな〜って一回だけ思って、普通に仕事したし。それだけだ。みょうじさんは、何か違う。
「デートかー、相手がなぁ」
カウンターでの話の一部始終を聞き、心の中でぴょんぴょん跳び跳ねる。彼氏いないっぽい!
こうなったら何か言いたくて、でもここは店だし。でももう帰っちゃうし。
「高校ん時の俺だったら、みょうじさんに絶対ナンパしてますけどね〜」
「うわ、てるしーチャラ男」
「今は違いますよ!」
くそ〜、間違えた。何やってんの、俺。
カウンターに置きっぱなしになっていたみょうじさんの書きかけのカルテが見えて知る。職場もこの駅にあるらしい。そして、安斉さんが見送りから戻って小声で言う。
「てるしー、やけに見てなかった?」
「……みょうじさん、スゲー可愛いんすけど」
「そうなんだよ、笑うと可愛さ倍増するよね」
「安斉さん」
「えー、嫌な予感」
「今度みょうじさんにライン聞いていいすか」
「特に禁止とかじゃないし、みょうじさんが良いならいいんじゃない。わかってると思うけど、無理にはやめてよ。あと、お店で聞かないでよ」
「…じゃあいつ聞けばいいんだよ〜」
「それは知らないけど」
「ひっでー」
「…ていうか一目惚れした人、実際に見たの初めてだわ」
そうか、一目惚れなのか。この感じは。
しっかり心臓に刺さった矢は、多分もう抜けない。