005



「あいつと付き合うの?」
「···あいつって」
「意識してんの?」
「にろ、どうしたの?怖いよ」
「俺が今から告ったら意識してくれんの?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「みょうじは俺のこと意識してなくても、俺はずっとみょうじのこと意識してんだよ」

 これまでの関係性なんてお構いなしに言われた言葉は、今まで予想もしていなかったものだった。そして、相変わらず怒っている二口の顔には悔しそうな表情が混ざっていた。
 高校入学してから今まで味わったことのない二口との雰囲気に耐えきれなくて廊下をダッシュした。つまりありえないタイミングで逃げたのだ。

 そしてたまたま逃げ込んだのはD組だった。
 遊びに来ていた他のクラスの女の子と話す舞ちゃんは教室の隅にいて、滑り込むように舞ちゃんの後ろにしゃがんで隠れる。

「なに?かくれんぼ?誰が鬼なの?」
「···にろ」

 状況の飲み込めていない舞ちゃんとそんな会話をして数秒、舞ちゃんに鬼役だと思われている二口がD組のドアから教室を覗き込んで、ズカズカとやってくる。半ギレどころじゃない。もうブチギレの表情。

「隠れられてねぇから」
「A組かくれんぼ流行ってるの?」
「違ぇ。滑津、みょうじ貸して」

 二口の気迫にさっと私の前からいなくなった舞ちゃんに助けを求める視線を送ると、見えなかったふりした舞ちゃんがごめんねとでも言いたげな表情をしていた。

「話の途中で逃げんなよ」
「にろがびっくりさせるからじゃん···」

 また手首を掴まれ、下を向いて話しながらさっきまでいた廊下の隅に戻される。

「い、いつからなの?」
「ずっと」
「ずっとって······ずっと?」
「で?あいつはどうすんの?」
「先輩にはもう断ったよ」
「···は?ずっと悩んでたじゃん」
「違うんだって。告白されても意識できないんだなーって思って。恋愛できないまま死ぬのかなって思ってただけ」
「はぁー、紛らわしい雰囲気出すなよ」
「それはにろたちが勝手に···!」

 顔を上げたその瞬間。視界に入った二口を見て言葉が詰まった。これは紛れもない。早速二口を意識しはじめてる。
 先輩にはきっぱり断ったというのに、この違いはなんなんだろ。お互いの事をちゃんと知ってるからかな。いやまてよ、私って結構チョロい···?

「···にろのこと見れない」
「みょうじ、意識してんの?」

 言葉通り二口をまっすぐ見れないのを伝えると、私の目の前にしゃがんで下から表情を見上げる二口と目が合った。

「知らない奴と付き合うくらいなら俺と付き合えばいいじゃん。俺は絶対みょうじがいいけど」
「···でも」
「お前が何心配してるかくらいすぐわかんだよ。別に今までと同じでいいだろ。普通に3人で行動して、普通に弁当食って。でも時々特別扱いしてくれればいい」
「それってアリなの?」
「特例だろうな」
「青根くんは気まずくない?」
「ないだろ。みょうじのこと友達以上に思ってねぇし」
「そこまではっきり言われるのも複雑だけど」
「で?付き合ってみる?」

 軽そうなその言葉、私をわかってるからこその言い方だ。後戻りができるような言い方。裏を返すと真剣で、一途なのは考えなくともわかる。二口がどういう性格かなんて十分に知ってる。
 片足を突っ込んでしまった私の気持ちは二口に向いていて、断る要素がない。

「にろとなら付き合ってみたい···かも」

 私の曖昧な返事を受け止めた二口が、しゃがんだまま伸ばした両手の間に顔を埋めた。

「耳、赤くなってる」
「···うっせー」

 曇った声。一瞬だけ見えた二口の瞳にどきっとしたのは簡単に口にできない。だってもう最高の友達とは違うから。


モドル