006



 水玉模様の包みを開けると、子供の頃使っていた小さなサンドイッチケースからおにぎりを出した。

「はい。ご注文のおにぎり。食べる?」
「何味?」
「おかかと、子持ち昆布と、ツナマヨ2つ。にろと青根くんで2こずつね」
「······もらう」
「どーぞ」

 マスキングテープに味を書いて張り付けてきたから、どれが何かわかるように一応気も使ってみた。マスキングテープってあんまり使い道ないから正直昨日封開けたけど。
 二人がどれを取るのか見ていると、二口が先に手を伸ばしてツナマヨとおかかを取った。なんだおかか食べたかったんだ。

「あ、うまいわ」
「······にろ。頭でもぶつけた?」
「素直に褒めちゃ悪いかよ」
「ううん、いつもそうならいつも嬉しいのになぁって思っただけですー。青根くんは?」

 青根くんは子持ち昆布を食べ終え、ツナマヨのラップを開けてるところ。まだ口におにぎりが入ったまま、縦に頷かれると、素直に受け取る。口数は少なくてもだんだんわかってくるものだというのは青根くんでものすごーく実感している。

「私ね、思うんだよ。青根くんは小さくて可愛くてふわふわした女の子と気付いたら結婚してるんじゃないかなって」
「だってよ青根。ていうか2回目じゃね?」
「この間、昔読んでた少女漫画見つけて読んでたら、青根くんみたいな男の子とちっちゃい女の子がくっつく話でさ。青根くんだと思って読んでたら妙にしっくりきたんだよねー」
「なんだみょうじの妄想か」
「幼馴染みとかでいない?小柄なふわふわした子!」
「·········」
「青根が困ってるからもう終わり。そろそろ行くぞ」

 おにぎりを口に詰め込んだ二口がペットボトルのお茶を飲んでそう言った。水玉の包みをぎゅっと結んでチャックが開いたままのバッグに突っ込むとドアの前で待っている二口を追った。


▽ △ ▽ △



 付き合おうとなってから、時々昼休みの時間が余ると廊下の片隅に座り込んで話す流れになることがある。なぜかいつも私を端っこの方にして、二口はそれを隠すように座る。
 付き合ってみてわかることっていっぱいあると日々感じられるのは、二口のお陰だ。彼女という存在は、やっぱり特別だった。私にとっても二口と青根くん、二人は特別でありながら確実にどちらも特別の種類が違う。

「にろ。次なんの授業だっけ?」
「あーっと···古文だったかな」
「古文か。じゃあローテーション的にはそろそろ魚へん漢字ネクタイくる頃じゃない?」
「ああいう面白ネクタイ何本持ってんだろうな」

 なんともない話をする。それが幸せだ。目が合うと、二口が私の頭に手を乗せた。ずっと友達だった二口が頭を撫でるようになったのは、もちろん付き合うようになってからだ。それもちょっと優しい表情で。

「すげー表情筋緩んでる」
「うん」
「みょうじ、彼女っぽくなったじゃん」
「······ねぇそれ褒めてないよね」
「ひねくれてんなぁ」
「それ、いっちばんにろに言われなくないなぁ」

 口を結んだままにいっと自然と口角が上がると、見下ろした二口の視線は私を捕らえたままだ。

「彼女の自覚あんだな」
「あるよ、それなりには」
「じゃあ今度弁当作ってよ」
「え〜」
「付き合いたての彼女の弁当食いたいじゃん」
「2つ作るの?」
「やなの?」
「うん、やだ」
「今のは可愛くわかったっていうとこなんだけど」
「にろがお腹いっぱいになるお弁当箱なんて持ってないし。まだ家でご飯作る方がいいな」
「······は?」

 静止した二口見て、はっとする。まって。私、今、家誘った?
 手で顔を覆い後悔する。数秒経ってから始まった二口のけらけら笑う声が止まない。やっちゃったよ。なんかナチュラルにやっちゃったよ。

「ふーん···みょうじにせっかく誘ってもらったからなぁ」
「いやほんとそんなつもりで言ったんじゃないんだよ」
「んなのわかってまーす。でも取り消しはできませーん」
「······意地悪」
「そんなの最初から知ってるはずだけど?」

 そうだよ、そうだけど。
 時間は戻すことができなくて、先を考えるしかない。真っ先に浮かんだ。そうと決まれば美味しいと言ってほしい。嬉しそうに笑ってほしい。予鈴が鳴り、二口が立ち上がる。思わずブレザーを掴むと、少しびっくりしたように言う。

「ん?」
「手貸して」
「···なに。甘えてんの?」
「うん」
「素直じゃん」

 見上げた先には、慣れたはずの整った顔。アシメの片側から覗く片目。見透かされたような表情。長いこと育てた友達という感覚は、これから薄れていくんだろう。そして薄く色づいたものは濃くなるはずだ。
 少しずつ、穏やかに。


モドル