二口堅治との出会い
クラス表を見るも、男、男、男。どれも男子の名前ばかりがある。なんなら、まわりを見回しても男ばかりしかいない。当たり前だ、ここ工業高校だし。
囲まれているわけではないものの、自分よりも背が高い男子ばかりがまわりにいるのはやっぱり戸惑ってしまう。緑のブレザーの間をすり抜けて教室へ行くと、黒板に貼られた席表を眺めて自分の名前を探す。わかってはいたけれど、生徒になると余計に思うな。男子校みたいだって。
さっぱりしている方だとは思っていたけど、まさか男子に苦手意識を持たないこの性格がここで役立つとは思わなかった。多分出席番号順だろうなと予想をつけ、自分の名前を見つける。クラスに知り合いがいなすぎて、予習がてら席表の最後まで視線をうつすと、ぴたっと止まる。
「ん…?カタカナ…?にろ…?」
「バカかよ、ちげーし」
斜め上から降ってきた冷たい声のを方を慌てて見ると、イケメン男子が声と同じくらい冷たい視線を私に送っていた。
「……あ。ご本人?」
「悪いかよ」
「何て読むの?…あ!ふたくち、か」
「……めんどくせー」
「んー、じゃあにろでいいか」
二口との会話をしながら、私ってやっぱり肝が据わってるんだなぁと心の中で自己評価をしたけど、多分こんなに軽快な会話が出来たのは彼が相手だったからじゃないかなんて思う。でも、こんなひねくれてるなんて、せっかくイケメンなのにもったいない。
勝手ににろと呼ぶことを決めて自分の席に座ると、友達になったとは言いがたいあの会話で嬉しくなる。とりあえずひと安心、気の合いそうな男子がいてよかった。
▽ △ ▽ △
すっかりにろ呼びが定着したある日のこと。次の授業の教科書を準備していると、二口が教室のドアにもたれながら私を待っている。
「おせぇな」
「先行ってていーよ!」
「わかった」
教科書が見つからないのだ。机の中に入ってるもの全部をごっぞり出すと、奥に少し丸まった教科書見える。あった!とそれを引っ張り出して机の上に置いたものをしまいなおして教室を出ると、二口が思いの外近い場所にいる。階段の方へ向かうとき、ちらっと振り返った。遅刻しないか心配してくれてたんだろうか。
慌てて追い付くと、階段を降りる二口の隣に並び、息を切らす。
「にろ!お待たせー」
「待ってねーけど。何が見つかんなかったの?」
「教科書。どこにあったと思う?」
「どうせどっかに丸まってたんだろ」
「……なんでわかったの?」
「みょうじのやりそうなことだし」
今日もまた、入学式と同じように私を見下ろす。いつもみたいに悪態をつかれて、それがまた楽しかったりして。
アシメの前髪から覗くその表情は思ったよりも柔らかくて、なんだかほっとするようになった。
20201007