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 作業着を着たり、プログラミングの授業があったり、手が真っ黒になったり、教室が男臭かったり。うちは普通校とは違うところがいっぱいある。2年の終わり頃になってから気付いた違いがもうひとつ。進学組よりも就職組が明らかに多いことだ。
 また別の専門分野を目指して進学することも多いから、進学といっても就職組と同じくらいな気持ちといっても過言ではない。

 今年の冬はあっという間に過ぎ去ってしまいそうだ。文化祭を終えても、お世辞にも好きとは言えない勉強に特別打ち込むわけでもない。まわりも就職の面接の前後と当日にド緊張するくらいだ。それ以外は何も変わらない。
 あれから茂庭くんとは結局友達のまま。変わりそうで変わらない、むしろあの事件はただの過ぎ去った過去となっている。友達はやっぱり楽で、楽しくて、ちょっともどかしい。でもそんなの慣れっこだ。いつか伝えよう、いつか。ちゃんと。

 体育終わり、数人しか使わない女子更衣室で体操着から制服へ着替えると、教室に向かった。歩き慣れた廊下。もはや庭だ。

 あ、まだみんな着替えてる。

 すぐについたうちのクラスの前。閉じた引き戸の小窓からその光景が見えても、なんの躊躇もなく扉を開けた。3年になっても私を見て恥ずかしそうにする男子は相当な乙女心を持ってるとしか思えない。そして私は耐性がつきすぎている。

「みょうじ早いなー」
「だってバババーって着替えられるもん」
「あはは!その効果音なんだよ」
「······わかんない。それより早くシャツ着て茂庭くん」
「みょうじ俺にも恥ずかしがってみてよ」
「セクハラおじさんみたいなんだけど。笹谷くんは裸でいてもいいんだよ」
「······みょうじ、俺にそういうこと言うわけね」
「いいの。今は一時休戦中だから」
「何を休戦してんの?」

 きょとんとする茂庭くんは、綺麗にネクタイを結んできゅっと締めた。その何気ないことすらがかっこいいと思ってしまう私はかなり重症だと思う。きゅうっとときめいて、押し殺しても、また不意にときめかされるはめになるのだ。

「そういえば面接合否出た?」
「昨日内定もらったよ、一般事務」
「まじで!よかったなー!ていうかちゃんとネクタイしない職場にしたんだ」
「まーね。茂庭くんも合否もうすぐだよね。面接の手応えはどんな?」
「手応えかぁ。正直全然わかんない。受かりたいなぁ」
「大丈夫でしょ。茂庭くんは内定もらえるよ、多分」
「多分を最後に残すかね」
「断言しない方がいいかなって思って。でも私が面接官ならすぐ内定あげちゃうね」
「なんで?」
「一瞬でわかるじゃん。人当たり良くて、ガッツありそうで、愛されキャラなの。ねぇ、笹谷くん」
「···うん。俺が面接官でも採用だな」
「ほら笹谷くんも採用してくれるって」
「話ズレてきてない?」

 頭をかく茂庭くん。変わらず冷静な笹谷くん。すっかり溶け込んでいる私。いつもの調子で話すのは楽しい。
でもまぁとにかく、茂庭くんは問題なく採用だと思うけど。
 みんなが着替え終わると、汗拭きシートの匂いがする。スースーする系の匂い。一旦終わった話はもう続くことは無いけれど、私の頭の中でひそかにむくむくと話は膨らんでいく。

 もしもの話だ。絶対に口に出せないほどの話。

 もしも茂庭くんが内定をもらって、それからなんかきっかけができて付き合ってくれることになったとして、何年か経って私と結婚したとして。そう、もしも。もしもね。
 先に家でご飯とか作って待ってたら、作業着の茂庭くんが疲れた顔で帰ってきて、要お帰りなんて言ったりして。そしたら私の顔見て安心したみたいに笑うの。もしそんな毎日だったら幸せすぎる。そう、もしもの話だけど。


▽ △ ▽ △



 片手で数えられるほどの日数が経ったころ。いつも通りの朝。教室に入ると嬉しそうに笑う茂庭くんがいた。弾ける笑顔ってやつだ。

「みょうじおはよう」
「おはよー朝からなんか楽しそうだね」
「茂庭が内定もらったんだってさ。やっぱりなって話してたとこ」
「え!内定もらったの!?すごいね!おめでとー!え、ほんとにほんと?」
「······みょうじのリアクションが今日イチかも」

 バッグを机に置き、目の前でわなわなする手をパーにして出すと、可笑しそうな茂庭くんと私はハイタッチした。茂庭くんにとっての幸せは、私の幸せにもなる。教室の雰囲気も、すっかりお祝いムードだ。


モドル