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「もう食べれない···青根くん、おかかおにぎりいる?」
「いる」
「おい。なんで俺には聞かねーんだよ」
「だって青根くんの方がお弁当食べるの早かったじゃん」
「···そうだけど」

 残りひとつのおにぎりを青根くんに渡しながら珍しく論破に成功した私は、二口が口を尖らせるのを見て笑った。

「そんなにおにぎり食べたかったの?今度は多めに作ってくるよ」
「じゃあツナマヨにして」
「普通そんなさらっと具の指定する?」

 二口は今日も通常運転である。しばらくクラスの男子たちがわいわいしているのを見ていると、5時間目の予鈴が鳴った。製図室へ移動する途中、1年の女の子が二口に「こんにちは!」と元気に声をかけて駆け足で逃げていった。年がひとつ違うだけでこんな若い感じがするのは工業高校に慣れすぎたから···?

「今の子達、にろに一直線だったね。若いね〜、ああいうの」
「知らね。俺はみょうじの婆ちゃんみたいな言い草の方が気になるけど」
「それはどうでもいいんだよ」
「まあな」
「興味ないんじゃん。それよりずっと私疑問に思ってたんだけど、なんで彼女作んないの?」
「さぁ。なんとなく?」

 疑いの目を向けると、あっさり私の見えないところへ視線を逃がされてしまう。私も背が高ければ逃げられないで済むのに。色々聞いてそうな青根くんにターゲットを変えると、青根くんは私が見る前からよくわかんない方向へ顔を向けていた。

「絶対なんかある···」
「なんもねぇし」
「···怪しいなぁ。なに?もしかして好きな子いるとか?」

 すっかり話すつもりのない二口と青根くんの脇腹を小突くと、製図の教科書をぎゅっと抱えて早歩きにシフトチェンジした。

 地団駄を踏みたい気分だったけど、さすがに本人達がいる前でするわけにもいかない。こういうの時々あるんだよ、女子には内緒案件。仕方ないけどごまかすのが下手くそすぎる。

 大体二口とやんや言い合ってる時は回りもなごやかに見守ってるけど、今回はちょっとピリついたのがわかったらしい。触らぬ神に祟りなし的な扱いをされてる気がする。
 製図室に入ると一番乗りしていた先生が私の不機嫌な顔を見て言った。

「機嫌悪!二口と喧嘩でもしたか?」
「こわっ。先生エスパーですか?」
「みょうじが喧嘩するのなんか二口くらいしか思い浮かばないだろ。青根と喧嘩したのは見たことないし」
「今回は青根くんもちょっと喧嘩対象ですけどね」
「まぁ早く仲直りしろよ。お前らが喧嘩してるとクラスの空気が重いんだよ」

 大して響いていない俯瞰から見た意見を聞き終わると、一歩遅れてクラスメイトが入ってきた。もちろん二口も。あと青根くんも。出席番号順にいつも通り座ると、チャイムと共に始まった製図の授業はいつも通りだ。先生が決めた対象物の製図をひいて、終わったらまた次の対象物。つまり人によって進み具合はかなり差がある訳だけど、私は結構得意な分野だったりする。

 ここまでと決められた課題が終わり、机に肘をついてみんなの進捗を待つ時間、暇だからさっきのことを考えてみた。二口が告白されたの何回か知ってるけど、好きな子がいるから断ってたんだとしたら辻褄が合うんだよね。うちの高校じゃだいぶ絞られるけど、バレー関連で他校の可能性もある···?まぁそうだとしたらむしろ躊躇なく教えてくれるはずだよね。
 てことはやっぱりうちの高校···?しばらく考えて私は閃いてしまった。

···舞ちゃんだから私に言わなかったのか!

 アハ体験ばりにすっきり爽快だ。それだな、それしかない。そっか!舞ちゃんかわいいしバレー部でもずっと一緒だし、接点多いもんね。そりゃ私には言いずらい訳だ。

「みょうじー、次の課題これなー」

 ひらひらしながら先生が持ってきた課題の用紙を受けとると、早速追加の課題をやり始めた。


▽ △ ▽ △



「みょうじー」

 教室へ戻る途中、後ろからやってきた二口に呼び止められて一瞬振り返ってからまた歩き出す。止まって待たなくても二口の歩幅なら間に合うし。

「まだ怒ってんの?」
「怒ってないよ。まぁ、にろの気持ちもわからなくもないなと思って。近すぎて言えないことってあるもんね」
「は?」
「今までの関係性とかも大切だし。私に言える話じゃないか」
「お前、いつ気づいたの?」
「···にろ、まいちゃんのこと好きなんでしょ」

 にろの耳の近くで手を添えてそう言うと、呆れた表情の二口が私を見下ろした。

「ちげえよ、バーカ」


モドル