003
ガコン、とまぁまぁ重たい音。自販機からパックのジュースを取り出して歩き出すと、向かいから茂庭先輩。あと茂庭先輩とよく一緒にいる女子の先輩が歩いてきた。多分誰かが彼女って言ってたような。
「こんにちは」
「あ。みょうじさん久しぶりだね。クラスで二口が迷惑かけてない?」
「全然···ではないですけど。青根くんのことは聞かないんですね」
「青根は大丈夫だってわかってるからさ。うん、二口が迷惑かけてないならよかったよ」
「···あれ。茂庭くんトイレ行ったっけ?」
「やばい忘れてた」
「行ってきなよ。買っとくから。なんでもいいの?」
「任せる。じゃあまたねみょうじさん」
夫婦感すごいな。しかも本当に夫婦ならあれこれそれどれで会話できるレベルの夫婦だな。この2人、付き合ってどのくらいなんだろうか。茂庭先輩が角を曲がって見えなくなったところで自販機で飲み物を2本買う先輩の元へ行く。
「···ん?忘れ物?」
「あの、聞いていいですか?」
「えーっと···私でいいの?」
「先輩と茂庭先輩って付き合ってるんですよね?長いんですか?」
「···もしかして茂庭くんのこと好きなの?」
「えっ!違いますよ!そういうんじゃなくて。すごい仲良いなって思って」
「ああ、びっくりした。でもねー付き合ってないの。一方的に好きなだけ」
「すっ···あの、そんな簡単に私に教えちゃっていいんですか?」
「知らないの茂庭くんぐらいだからね」
「茂庭先輩って主将さんなのに、かなり鈍感なんですね」
「あはは。バレー部の主将としては視野広いんだけどね〜」
男子はトイレが早い。そんなことを話しているうちに茂庭先輩が戻ってきて、結局気になることが多いまま私と先輩達は解散となった。
▽ △ ▽ △
「どこで道草食ってきたんだよ」
「うっさい。女子の先輩と話してたの」
「接点ある3年いたっけ?」
「ほら、ちょっと名前わかんないけど茂庭先輩の彼女···だと思ってた人!」
「ああ、わかったわ」
「彼女じゃないんだね。絶対相性良いと思うんだけど」
「問題は茂庭さんなんだよ。な、青根」
遠慮がちに頷く青根くんと二口の発言で、先輩本人の言っていたことが誰もが知ってる事実であることが濃くなった。
「どっかの誰かさんも似たようなもんだけど」
「なに。誰のこと?」
「みょうじには教えねーけど」
でた。また秘密だ。
この間の一件以来男子にも内緒はあると割りきることにしたからあんまり気にしないけど。
「好きになるのにきっかけってあるのかな」
「普通あるんじゃねーの」
「でもほら、気づいたら好きになってました!目で追ってました!みたいなのとかよく聞くよね?」
「···みょうじ、俺と恋バナしようとすんのやめろよ」
「だってにろ好きな子いるんでしょ」
「言っとくけど上手く話すりかえて聞き出そうなんて100年早えから」
「100年じゃ聞けないまま死んじゃうわ」
「おい。揚げ足取んな」
「でもそっか、私も真剣に告白されたりしたら意識したりするのかな」
「コロコロ話変えやがって······は?」
「私たちがうかうかしてるうちに青根くんが彼女作ってすんなり結婚したりしてそうだよね」
失礼ながら青根くん関連の浮わついた話を聞いたことがないけれど、絶妙にありそうな想像を口にすると驚いた表情の青根くんが「俺の話はいい」とぴしゃりと言った。
「いいなぁ先輩。私も恋したい」
先輩の苦労や根底の部分はわからないけど、頬杖をついて夢見がちにそう呟いた。