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お風呂上がり。いつものように髪を乾かし、梳かしていたところ。隣でスウェットを着ていた尾形さんに、ふと気付いたようにするりと髪を触れられた。
「どうかしました?」
「んー……いや、」
私の髪をじっと見つめるその目は、また猫のようになっている。
……かわいい。と思うけれど、決して口には出さない。恥ずかしいのもあるし、何をされるか分かったものじゃないっていうのもある。かわいいだとかの褒め言葉に慣れてないんだ、この人。
「…髪伸びたな、」
「……そう、ですか?」
なんだか、噛み締めるように言われた。髪の長さやらに気付けるのは一緒にいる人の特権で、彼はそれが嬉しいのかもしれない。尾形さんの場合はただの気まぐれの可能性もあるけど。
「昔は腰くらいまであったので……」
自分でも髪を触ってみる。これでも短い方なんだけど……なんて、昔のことを思い出した。
「つい最近まで肩くらいだった」
「それは言い過ぎですよ。……あ、でも私、成人したらばっさり切ります」
「へぇ。理由は?」
未だに私の髪をいじっている尾形さんは、訝しげな表情を見せた。
「ヘアドネーション?って言うんでしたっけ、医療用のウィッグのために髪切るあれです。成人式のあとならちょうどいいかなって」
成人なんてまだ先だけど、その時までにどれくらい伸びるかなと考えてみる。尾形さんはぱっと私の髪から手を離し、今度は自分の髪を撫でつけた。
「…は、医療用か。お前らしい」
「褒めてるんですかそれ」
「褒めてる褒めてる」
「適当〜……」
また軽くあしらわれたのに不満を覚えつつ、二人でリビングに戻った。私がすとんとソファに座れば、その隣に尾形さんが座る。いつもの定位置。
「うーん、……あっあとですね、」
「まだあんのかよ」
「そんなこと言わずに。…ばっさり切るだけじゃなくて、染める予定なんです。楽しみにしててください」
すぐ子供扱いするものだから、そういう女の子らしいことに疎いと思われてるんだろう。案外ちゃんと(?)してるんだぞ、と思って堂々と言った。
そんな理由で、しかも髪の色を変えることなんかでドヤ顔している時点で、立派な子供なんだけど。
「まだ切ってもねぇのに染めるだのなんだの、気が早いわ」
とまあいつも通り、正論で返されるわけで。
「…いや、こういうのは決めておいて損はないです!……たぶん」
「ふ〜ん……一応訊くが何色だ」
「一応だぜ、一応」と付け足して訊かれる。そんな強調しなくても。
「それがですね、まだ決めてなくて」
「はぁ?そこが1番重要だろうが」
「ですよね〜……。うーん、とりあえず金か赤とか…?」
「は?」
「…え?」
髪を切ると言った時よりも、余計に怪訝そうな顔を向けられた。
「なんだそりゃ……お前らしくねぇな」
「えー、いいじゃないですかかっこよくて。…じゃあ逆に、私らしいのってなんなんですか」
別に理由はないけど、少し気になって訊いてみる。尾形さんの中で私はどんなイメージなのか、全く知らない。
「……今」
間を空けてから、ぼそりと呟く。今が私らしい、って……そのままの意味なのは分かっても、簡潔すぎて逆にぽかんとしてしまった。
「お前は黒が似合ってる。髪切んのも気に食わねえ」
すっと、大きな手が私の頭に乗る。どきり、心臓が跳ねると同時に、髪を無造作に撫でられた。
「わ、」
「こうやって、……できなくなるだろ」
「ちょ、髪くしゃくしゃに……っ」
慌てて直そうとするも、その手は軽く取られる。その上、いつの間にか私の視界は尾形さんの瞳で埋まっていた。咄嗟に言葉を紡ごうとした唇は、何故だか塞がれていて。
「……っ、!」
「……ふ、"こう"する時髪撫でられんの、好きだろ」
「……そん、な、の、」
にっと笑いながら、今度はさらりと髪を梳かされる。もう唇は塞がれていないのに言葉は出ないし、自分の顔が一気に熱を帯びるのが分かった。
「もぉ〜〜〜〜……!!」
なす術もなく、へにゃへにゃと尾形さんの方に倒れ込んだ。それが愉快で仕方ないんであろう張本人はというと、楽しげに私の頭を撫でてくる始末。
「……もう、私、髪切ります、から」
「そりゃ残念だな」
「そんな残念がってるように見えないですよ…」
さっき倒れ込んだばかりだけど、今度は飛び退くようにぱっと離れた。案の定、至極楽しそうな人が目の前で笑っている。
「逃げんなよ」
「逃げてません!!」
いい加減顔が熱すぎて爆発してしまいそうなのに、今度は髪に唇を落とされる。
「だからそれ、やめてくださいって……!!」
「髪だからいいだろ」
「そういう問題じゃないんですけど?!?!」
どれだけ抵抗しても楽しそうに髪で遊ぶこの人、絶対に私の髪を猫じゃらしか何かだと思ってる。
*
「『髪染めるの楽しみにしててください』って、成人した後もそんなに俺といたいのか?」
「え、」
「20っつったら結婚しててもおかしくねえもんなぁ」
「……?!?!こ、言葉のあやなので……!!!」
「あ?随分と薄情だな」
「いやそういうわけじゃなくて……、!!」
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