Spica




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宇宙の果てって、何があるんでしょうか。
ずいぶんと唐突なような、今の空気の中議題として上がるには相応しいような、そんな曖昧な台詞だった。
「……知らん」
簡潔を極めたような回答を、しばしの沈黙の後投げかけられる。そりゃそうだろうな、と思いつつも、興味のある素振りすら見せないのはいかがなものかと、不満に思う気持ちもあるわけで。

多分、今隣にいるのがこの人じゃなかったら、こんな話をし始めることはなかっただろう。それは、他の人となら談笑できるけど、この人とは決してできやしないから、とかそういうわけではなくて____まあ、笑い合いながら雑談、なんてこの人がするわけないのも分かってるけど____突拍子がない上に少しポエムくさくて、いくら考えても意味のなさそうな、そんな言葉。それに対して一番興味を示さなさそうで、けど、実は一番頭の片隅に置いてそうなひと。今隣にいる人が、そういうひとだと勝手に想像したから……ふと、なんとなく。質問を手渡してみた。
「というかそもそも、宇宙の果てってあるんですかね」
「身も蓋もねえな」
「だって、ねえ?果てがないなら、その先に何かあるなんてありえないでしょう」
「はあ」
やっぱりどうでもよさそうな、何も考えてなさそうな、そんな返事をされた。この北海道の夜に満点の星空を見ながら話しているにしては、些か冷静が過ぎるような。
そうは言っても、もう少しくらい浪漫ってものを知ってほしい、とか、口に出せないし出したくはないけど。
ちらり、隣を横目で見る。情緒ゼロのその人は、いつものように頭を撫でつけていた。
「まあ、宇宙とやらが無限だってのは見当違いだろうな」
「え、どうして言い切れるんです」
「アホかお前。脳味噌使え、考えてみろ」
「……考えてもダメだったから尾形さんに訊いてみてるんですけれども」
いかにも子供らしい返答だなと、言ってから思った。案の定、それは知ってんだよ、と言わんばかりの顔をされたものだから、「すみません」と一応謝った。やっぱり手厳しい。

夜を呼ぶような柔らかい風が、彼の外套をふわりと揺らした。こんなにも真っ白なのに、しょっちゅうそれを血で赤く染めているあたり、彼の上司に負けず劣らずの死神な気がする。
その死神さんは大きなため息を吐き出して、再び髪を撫でつけている。白煙として出た息は、だだっ広い空に溶け込んでいった。

知りやしねえが、と前置きしてから、徐に話を続ける。
「お前の言う宇宙に果てがないなら、この星どもの果てもねえだろうが」
「……はあ、」
「そうなったら、」
「空はこんなに暗くない、と」
自分の中で合点がいくと同時に言葉を放ってしまい、後の祭りだとは知りつつも急いで口をつぐんだ。……また嫌味を言われそう。
「……で、その先」
「え?……あぁ、何があるか、ですか」
冷ややかな目を向けられはしたものの、話の続きを促されて少しばかり安心する。いや、ここまでくると、私相手に落ち着いた話をしようってことを諦めてるのかもしれないけど。
と、閑話休題。そもそもの話で終わるところだった。
「……とりあえず、現実的な話は置いといてですよ。それこそ……今見えてるこの星たちより、何倍も何倍も明るい星があったら……とか思ったり」
「はッ」
「うわ、超小馬鹿にされた」
現実主義者って、私みたいなポエマーに当たりが強いんだよなぁ。特にこういう、世の中の云々を知ってるような人。宇宙がどうとか星がどうとか、そんなことに目向けることもないんだろう。
「……まあ、議題に上げといてあれですけど、結局はなんでもいいんです。こうして見えてる星々がきれいってだけで満足。そう思いません?」
「ふぅん」
「いや、返答になってない」
「やかましい。どうでもいいんだわ。何百年後かに研究者やなんかが、宇宙の果てとやらに行ってんじゃねぇの」
「……そうですかね」
辟易したような言葉に、同じくらいのトーンで返した。
私も行ってみたいのに、生まれ変わらなきゃダメなんだなぁ。大した重みもないそれをぽろと零せば、先程とは少し違う、ゆるりとした笑いが返ってきた。目を伏せて笑っているあたり、どうやら揶揄いの意味は含まれていなさそうだ。
「宇宙の果てには何があるのか、私が見つけたいんです」
「へぇ。そこまで興味が湧くか」
「うーん……宇宙そのものに興味があるというよりか、地球が生まれた場所についてもっと知りたいというか。人の起源がそこにありそうで」
ぱっと空に手を伸ばしてみる。一際明るい星を掴みたくて、悴んだ手に力を込めた。
「人に興味がある、ねぇ」
「不満ですか?」
「いいや?俺には理解できないだけだ」
「さいですか」
握った手をゆっくりと開いても、無論、何かを掴めているわけはなくて。こんなにも近くで輝いているように見えるのに、どうして光一つすら持てないのだろう。
星々を全て消すように手でかき回して、自棄になったように寝転がった。
「人って結構無下にできないですよ。多分。知らないことが多いから怖いだけで」
「綺麗事だな」
「ははっ。綺麗事大好きです、私」
ほんとに、本当ですよ。と一言付け加える。
別に綺麗事でもなんでも、構いやしないんだ。事実、こんなにもきれいな星の下で笑えてるんだから、綺麗事ってのも、そう悪くない。
「あなたと話す機会も出来ましたし」
なんて、嫌になるくらい甘ったるい台詞は、胃の中では消化しきれず。口をついて出そうになったその言葉を、どうにか飲み込んだ。








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