1227
.
.
.
.
.
「とりあえずは一年、おつかれさまでした〜」
軽くグラス同士の頭を合わせると、こつん、という音と共に、梔子色のジンジャーエールとビールがゆっくり揺れた。ふたりで徐に飲む。やっぱりおいしい。どうせなら私もお酒を飲みたいけど、それは無理な話で。この甘い炭酸が少し苦味を帯びたものになるころにも、まだ尾形さんと一緒にいられたらいいなと思う。
「一年の締めくくりには少し気が早い気もするが」
あまり量の減っていないグラスをゆっくり置いて、口を開いた。一口ばかりでもお酒を口にすれば、尾形さんの話し方は若干柔らかくなる。下戸かというとそうじゃないのかもしれないけど、案外影響は受けやすいのかな、とおもったり。
「一年の締めくくりじゃなくて、尾形さんのお仕事お疲れ様でした会なので!平気です」
「なんだそりゃ」
意味わかんねえよ、と、普段よりもふにゃっとした笑顔を見せた。つられて私もえへへなんて情けない笑いをこぼした。何かが面白いってよりも、不確かな幸福感からくる笑みだろう。こういうとき、改めて心底可愛らしいひとだと思うし、心の底から好きだなと感じる。すきだ、とにかく。
.
「そういえば、仕事始めはいつからです?」
「そこまで早かねぇが……もう年明けの話か」
「だって、尾形さんがお休みの間に出来ることはしておきたいんです」
テーブルにいくつか並べられたお菓子を、適当に手に取った。尾形さんはさっきからチョコを無心で食べている。
「正月だからって特に何かすることもないんじゃねぇの。いつも通りでいたら及第点」
「うーん……」
たしかに、お正月はどこに行っても混み合って仕方ない。知り合いにでも会ったらそこそこに面倒だ。実際、クリスマスもそれが怖くて家で過ごした。かと言って、何もしないのもなぁ……。せっかくだし、と考えてみる。
「……菜摘がいたらそれでいいのよ、結局」
突然名前を呼ばれてほんの少し驚いた。見れば、伏せた目を瞬かせて、零すように呟いていた。胸がきゅうとする。それがどんな気持ちで発された言葉なのか私には量りかねるけど、お前もそうだろ、と笑うその真黒な瞳に、嘘や揶揄いはないような気がした。
「……ふは、」
「何笑ってんだよ」
「いや……ふふ、尾形さんって、結構私のこと好きなんだなと思って」
「ふぅん?間違っちゃいねえが、自惚れって言うんだぜ、そういうの」
「ちょっとくらい自惚れたっていいでしょ〜!自惚れさせる尾形さんも尾形さんです」
いたずらに舌を出すと、頭をくしゃくしゃに撫でられた。
「責任転嫁はよろしくねぇな」
「あぁもう……人の髪いじるのもよろしくないですからね」
そんな私の言葉を尾形さんはもう聞いていなくて、楽しそうにお酒を煽っている。まあ……ご機嫌なら良いか。
こういうふとしたときに溢れそうになる愛や情は、存外計り知れない。それは充分分かっているつもりで、でもこの人を前にするとそんな理屈は吹き飛んでしまう。好きですなんて言葉は今更野暮な気がして、ぱちぱちと弾ける炭酸と共に飲み干した。
.
.
.
.
.
トップページ
.
.
.