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「あけまして!!おめでとう!!ごさいま〜す!!!はっぴーにゅーいやー!!」
「……新年早々俺の鼓膜を破る気か」
「人間そんな柔くないですよ!!」
テレビには、神社の前に集まった大量の人々が歓喜している様子が映っている。一方私はいつものように家で騒がしくはしゃぐだけ。尾形さんも通常運転。
「あけおめことよろですよ〜めでたいですねぇ」
「はいはいおめでとう、どーぞよろしく」
「やる気ないなぁ」
テレビの中の観衆のざわめきが収まることはなく、むしろどんどん盛り上がっていく。人の波がぐわんぐわん動く様を見ているだけで少し酔いそうだった。
「年明けの瞬間はテンション上がりますけど、30秒もすればなんか落ち着きますね」
「菜摘が情緒不安定なだけ」
「それは一理あります」
高揚感のせいで咄嗟に上げた腰を改めておろした。飲みかけのサイダーを喉に通し、疲れてもいないのに一息つく。
「どうします?なんか寝たくないんですけど」
「俺もだわ。眠くねぇ」
「尾形さんお酒入ってますもんね」
「少しな」
「なんなら私ちょっとお腹空きました」
「コンビニでも行くか」
「お、いいですね!行きましょ行きましょ」
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とことん着込んで外に出た。あえて車じゃなく歩いて行こうと言ったのは私だけど、面倒くさいと一蹴されなかったのにはちょっと驚いた。寒くても夜風は気持ち良いし、たまには、とかなんとか。尾形さんとゆっくり散歩できるのがうれしくて、顔が緩んだ。へらへらすんなと言われた。全然へらへらなんかしてない。
「…あれ、なんかひと多くないですか?」
「新年早々神社でも行くんじゃねぇの」
「あーなるほど、すごいですね行動力が。こんな夜中に」
「俺らは近所のコンビニだもんな」
「あははっ、それ言うと急に風情なくなっちゃう」
車のライトが走り抜けていくから、夜中といえど普段より若干明るい。尾形さんの顔がよく見える。
冷えた彼の手をぎゅうと握って、ポケットに突っ込んだ。堂々とするのは恥ずかしいから、と私がよくやる手の繋ぎ方。結構気に入ってる。
年が明けてすぐの夜中。真っ暗な街に散りばめられたネオンライトと、颯爽と通り過ぎていく光たち。ひゅるひゅる吹いていく風。その中を好きな人と手を繋いで歩く時間は、とても幸せなものに感じられて、鼻歌をうたいたいような気持ちになった。お腹の中に蝶が舞っているような、そんな気分。
「寒いですね」
「だからマフラーしていけと言ったのに」
「一月一日の夜をなめてました」
空気に混じる白い息に、いよいよ雪が降るような予感を覚える。昼間はあんなに暖かくても冬は冬だ。とかく寒い。
「あ」
ふと空を見上げて、空の綺麗さに気が付いた。どうした、と遠くを見据えたまま訊かれる。立ち止まって夜空に手を掲げた。
「オリオン座、かな」
点々と並ぶ星々を繋ぐように、さらさらと手を動かす。
「あぁ、星か。…こんなにはっきり見えるもんなんだな」
「ほんとに空気が澄んでるんですねぇ、田舎の特権だ」
綺麗だなぁと空を見上げたままつぶやいた。天気の良い日だとこうして明るく綺麗に見えることに憮然としていると、温もりを抱いた右手が前に引っ張られた。尾形さんが二、三歩前にいた。
「前見てねぇと転ぶぞ」
「転んでも尾形さんが支えてくれるでしょ〜」
「どうだかな。気分次第」
「そこまで気まぐれかぁ」
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「おいし〜〜んふふ」
「まぁたへらへらしやがって」
「不可抗力です」
結局、買ったのは肉まんとコンポタくらいで、お正月っぽいものは選ばなかった。元旦だっていうのに。でも、なんだかんだシンプルなものがいちばんおいしい。安いし。
左腕には尾形さんのコーヒーと私のコンポタが入ったビニール袋を掛けて、その上肉まんも持っている。右手は行きと同じようにポケットの中。風が少し強く吹いて、ビニールががさがさ揺れた。
「んー、帰ったら何しましょうか」
「風呂入る」
「え、もう入ったじゃないですか」
「さみいから」
「じゃあお湯新しく張ります」
「そりゃありがてえな。お前は?」
「お雑煮でも作ろうかなと」
「食う」
「ふへへ、楽しみにしててください」
元旦らしくはない元旦を楽しむことが決定してしまった。明日……じゃなくて今日、起きるのは夕方にでもなりそうだなと思いつつ、隣でもぐもぐと頬張って肉まんを食べるこのひとが、ひどく愛おしく感じられた。
「尾形さんたまにリスみたいな食べ方しますよね」
「は?」
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「おやすみなさい」
「おやすみ」
結局ふたりして布団に入ったのは朝の四時近く。食べて遊んで喋って、本来だったら昨日の夜のうちにやるべきことを元旦にやりきった。三時半を回ったあたりから急に眠気が襲ってきたのは尾形さんも同じったようで、諸々の片付けを済ませて、今こうして布団の中。
「起きるの、午後になりそうですね」
「いつもと大して変わらん」
「たしかに……」
尾形さんの胸元に顔を埋めた。背中に回した手に込める力も、少し強める。手は冷たくても、ちゃんと体はあったかいんだと変な安心をする。その冷たい手が私の髪を梳いた。
「……尾形さん、」
「ん」
「今年も、よろしくおねがいします、ね」
「……は、10年後でも100年後でもお前とよろしくしてやるよ」
「尾形さんが言うと説得力すごいなぁ〜……すきです」
半分寝ぼけた頭ともうほぼ閉じている瞳。気持ちを伝えると、すっかり意識が遠のいてしまった。
最後に私は何かを伝えて、尾形さんもそれに応えてくれたような気がしたけど、それが確かなことなのかはたまた私の記憶違いなのかは分からない。ただ残っているのは彼の温もりと、頭を撫でられる心地よさだけ。すうっと落ちていく微睡に体を委ねた。
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暑さで目が覚めた。日がちょうど私の顔に差していて、じりじりとした暑さに目を開くしかなかった。昼過ぎまで寝たあと特有の頭痛にはどうにも慣れない。起き上がらずに少し手足を動かしてみれば、眠りについたときとほぼ変わらない寝相で笑ってしまった。私の頭を撫でたままの手にさりげなく唇を落として、とんとんと抱いていた背中を叩いた。
「おはよーございます」
「……」
「尾形さぁん」
「……ん"ぁ…………」
「お昼過ぎてますよ」
「……まだねみい」
「さすがにそろそろ起きないと」
「無理」
食い気味に言われるのと同時に、私がどうにかこうにか離しかけていた体を再びぐいと引き寄せられる。湯たんぽか何かだと思っているんだろうか。
「おーがーたーさん」
「……」
こうなるともう諦めるしかない。腕力的に無理には離れられないし、どれだけ声をかけてもスルーされる。やっぱり夜更かしはよくないと後悔、でも結局また瞳を閉じてしまった。
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「……なつみ、菜摘、」
「…………はい……」
「起きろ、そろそろ十二時間経つぞ」
「…………だから一回起こしたのに、」
「お前も寝たろ」
「尾形さんが離さなかったので……」
「諦めが早いんだよ」
むくりと起き上がって、ぼさぼさであろう髪を多少整えた。頭痛はもうない。一周回って治ったんだ、多分。尾形さんも、寝起きらしく髪が目にかかっている。外を見ると既に夕方の空が広がっていた。
「十二時間ぶっ続けって……尾形さんよほど疲れてたんですね」
「おかげで目覚めが良かった」
もそもそ重い体を持ち上げて、ゆっくりゆっくりリビングへ行った。後ろからぺたぺたとやる気のなさげな足音がついてくる。ペンギンかな。
「初詣は明後日にでも行きますか」
「まだ混んでそう」
「チャレンジですよちゃれんじ!とりあえず行かないと」
いかにも面倒くさいと言いたげな顔を横目に、大きく伸びをした。欠伸をすると、きもち頭が冴えた。
「元日、満喫できたのかどうか」
「まだあと8時間あるぞ、一日」
「は〜〜長いなぁ、二十四時間って」
このあと、お昼ご飯とも夜ご飯とも分からないご飯を食べて、ゆっくりして、買い物にでも行って、テレビ見て、って、やっぱり普段と変わらないいつも通りの休みになるんだろう。でもそれは嬉しいような、たまには活発になった方がいいような、そんな感情。
とりあえず、もうすっかり目は覚めているのに私を離そうとしないこの人をどうにかすることから始めなきゃいけない。自由気ままな人との暮らしもそれなりに一苦労だ。
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