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「尾形さん、お久しぶりです!」
「………………は?」



約百年前。当時はたしか……千九百七、明治四〇年くらい。こうして言葉にしてみると馬鹿らしいけど、私と、……この、目の前で猫のように黒目を細めて驚いている、尾形百之助さんが生きていた時代。
今は飛びに飛んで、とっくの昔に二千年代だけど。


「覚えてらっしゃらないです?」
「いや、……菜摘だろ。小椋、小椋菜摘」
「そう!です!!」


なんというか正直、「運命」みたいな……そんな頭のクラクラしそうになる形容の仕方が似合うかというと、そうでもない。そもそも、「運命」だとか「神」だとか「愛」だとかのあやふやな存在はあまり得意ではないし、尾形さんは信じてすらいないと思う。


「見た目に限った話ですけど、……お変わりないですね、全然。その顎の傷すら一緒って、どういうことですか」
「知らん。右目も生まれつき弱視だ」
「わ、それはすごいですね」
「だが、まあ……見つけやすかっただろ」
「ああ、それはもう見つけやすかったですよ。何もかも一緒なんですもん」

生まれた瞬間から百年前の記憶があって、生まれた瞬間から尾形さんに会いたくて。この人生はきっと、この人と再会するためのものなんだろう、なんてポエマーみたいなことを考えて生きてきた。でも、どこかで「あの人とはまた、何事もなかったかのように出会えるはず」って確信らしきものがあって。だからこうして再会できて、驚いたとか嬉しいとかより、「あぁ、やっぱり」って、納得とか安心の方が強かった。様子を見るに、尾形さんも私と大差ない感じで生きてきたんだろう。

「尾形さんは変わらなくても、世の中はすっかり変わりましたね」
「これだけ時間が経って変わらない方がおかしいわ」
「そうだとしても、百年でこれですよ。時代の流れってすごい」
この距離はいつぶりだろうと、少し変な感覚のまま会話を続けた。怠そうに髪をかきあげる仕草も、目を伏せて笑うところも、何一つ変わってない。そんな、変わらない何か。
「……他の皆さんは、再会できたんでしょうか」
ふと、あの時一緒に旅した人たちの顔が浮かんだ。みんなどうなって、今どうしているんだろう。知りたいような、知りたくないような。
「心配ご無用。杉元も白石も鶴見さんも、全員俺と職場が被ってる」
「えぇ……」
ここからまた以前の仲間を探す旅に……!とか、そんな展開なかった。普通に面識あるんかい。
「だいぶ奇跡じゃないですか……いっそ怖いですね……」
「その上全員揃いも揃って記憶があるらしい。めんどくせぇ」
「うわ、それは色々と修羅場……」
あの時とそっくりそのままなことが少しおかしくて、すごく嬉しくて。
「…なんだか安心しました。私は少し、遅れちゃいましたけど」
「本当に。お前が大人になってれば満点だったのにな」
「無茶言わないでくださいよ。逆に皆さんが子供になれば……」
「変なこと言うな。気持ち悪いだろ」
「えー、私仲良くできると思うんですけど……」



少し強い風が吹いて、一気に体が冷える。申し訳程度、マフラーに顔を埋めた。尾形さんも寒いらしく、ポケットに手を突っ込んでいる。
「……なんか、やっぱり拍子抜けって感じです」
改めて顔を合わせて言う。だろうな、と尾形さんは脚を組んで笑った。時折視線が合うけど、相変わらず不思議な目だなと思う。いつまで経ってもどきりとする。
「一番最初に会ったのは鶴見さんだが、えらく驚いた。俺もあの人も」
「でも今は?」
「ッは、お前と再会してもこれだ。鯉登あたりから慣れ始めた」
「あははっ、鯉登さんに失礼ですよ」
「構いやしねえだろ」
「一応上司なんですから。……私だって、尾形さんのこと見つけた時はちょっと驚きましたし、感動……?もしましたけど、当の本人がこうも落ち着いてると、一週間ぶりくらいの感覚です」
声をかけたときはさすがに驚いたようだったけど。
でも、下手に驚かれるより、こうして普通に話せる方が嬉しい、かもな。お互いよそよそしいのは似合わないし。



休日の昼間、やたらと人が多い。雑踏の中、他愛のない話……というか、現状報告をしあった。とは言っても、巡り合わせってものはどこまでも不思議で、百年前と人間関係は大差ないらしい。杉元さんとアシㇼパさんも、いつのまにか知り合ってたようだ。
「……それでですね尾形さん、一つお願いしたいことがありまして」
「なんだ」
再会したらまず言おうと、お願いしようと思っていたことがある。畏って伝えるほどのことじゃない割には、真剣な声を出してしまった。
「……尾形さんの家に、住まわせてください」
「……は?」



諸事情、とやら。
私の家はなかなか複雑な環境らしく、何故かこの歳で家を出ることになった。親が不仲とかそんなのじゃなくて、もっと、世間を嫌いになりそうなことからきてるんだけど。親には一人暮らしする手配もしてもらったけど、案外不安がつきまとっていた。どうにか誰かと暮らせないかと思案していたのは、つい最近のこと。
そこでご都合主義ってのは発動するもので、よく分からないけど、親と尾形さんが知り合いらしい。百年前も、今も。第七師団の中、鶴見さんのもとで働いていた百年前。至って普通の会社の中、鶴見さんのもとで働く今。そんな共通点があるようで。前者の時には、尾形さんと私の関係もバレていたし。……なんというか、そういうことに偏見のない親で良かったと心底思う。ありがとう、父上と母上。
いわゆる「前世」の記憶があるのも、どうやら遺伝らしい。人体って不思議。
そんなこんなで彼の家に住まわせてもらうことを考えている節を伝えたところ、「全然OK!」なんて返事を貰った。偶然って言葉で片付けられるのだろうか、これは。



「俺を犯罪者にしてえのかお前は」
「親の許可も私の同意もあります」
「そういう問題じゃねえんだよなぁ」
「んー、だって……一応私たち『リョウオモイ』ってやつだったでしょう。……あ、もしかして心変わりしちゃいました?」
たしかに、彼を見つけた時、少し躊躇った。百年前どれだけ懇意にしていたと言っても、今の尾形さんに配偶者がいないとも限らない。そこにズカズカ入り込んでよいものかと。けど、
「アホかお前。こちとら待ちくたびれてたんだわ」
「……ふは、ですよね。そう言ってくれると信じてました」
やっぱり。この人は何も変えないし、変えられないらしい。こういうところが好きだ。
「じゃあ、晴れて二人暮らしということで!よろしくお願いしま〜す」
「俺は許可なんて一切出してねえぞ」
「えっ、……ここまできて断ります?」
「冗談だ。いつでもいいから来い」
「わーい!寛容で適応力高くて優しい尾形さんだいすき〜!」
「やかましい」


想い人と再会、からの同棲。とかどこの少女漫画だよ、なんて思うけど。目の前の人が笑いながら受け入れてくれるなら、世間体とかどうでもいい。現実みがなくても、少し変でも、それも含めて百年前から「変わらないもの」。良くも悪くも、何一つ変わらない、変われないのが私たちなんだろう。



「……私、朝はパン派なんですけど」
「あ?洋人ぶってんじゃねぇぞ。飯だ」
「あ〜もうダメですね!解散!」

ただ、お互い変わらなさすぎて、どうにもでこぼこみたいだ。









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