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 気が付くと、もう午前十時。
 九時半に目が覚めて、ばたばたと飛び起きた。アイロンをかけ忘れてよれよれの制服を引っ掴んでリビングに行くと、目に入ったのは電子時計の(土)の文字。テレビを付けて確認してみても、今日は土曜日、休日。諸々が重なって多忙だったせいか、勘違いしていたみたいだ。ほっとしたような、がっくりしたような、そんな気分で制服をハンガーにかけなおした。



 二度寝する気にもなれずに、昨日の帰り道に買ったチョコレートを食べる。……土曜の昼近くって、どうしてこうもだらだらしてしまうんだろう。
 そんなことを考えながら、苦すぎたチョコレートに辟易する。完全にチョイスを間違えた。でも、この匂いにはどこか覚えがあって、前も食べたのかなと、記憶を遡る。でも一度食べたなら覚えてるはずだし……と考えた結果。……そうだ。尾形さんのタバコの匂いに似てる。
 なんだか変なところで尾形さんのことが頭に浮かんだ。けど、ふと気付いたときには、本人が目の前にいた。
「わ、尾形さん起きてたんですか、おはようございます」
「お前がぼーっとしてるから」
「考え事してました」
尾形さんのことですよ、なんて甘い言葉は言えない。私がさっきテーブルに置いたチョコレートは、いつのまにか持って行かれている。
「遅かったですね、寝不足ですか?」
「残業が続いたからな」
「あ、たしかに。おつかれさまです」
最近はずっと帰りが遅かったから、その疲れが溜まっていたんだろう。
「もうすこし寝ます?お昼くらいまで」
「いや。今日は出かける」
「ん、珍しいですね」
私が誘ったら必ずついてきてくれるけど、尾形さんが自分からどこかに出かけるのは若干珍しい。どこに出かけるのか考えあぐねると、何言ってんだ、とため息混じりに言われる。
「菜摘も行くだろ」
「えっ、……それってつまり、デートですか?!」
「んな甘ったるい言い方されると歯痒い」
「だってそうじゃないですか!やった、尾形さんとデートだ〜!」
突然の朗報に、年甲斐もなくはしゃいでしまう。休日にふたりで出かけるなんて普通の出来事だけど、なんせお互い事情が重なって、しばらく一緒に出掛けていなかった。
「あ、……でも、いいんですか?疲れてるんでしょう、尾形さんに申し訳ないです」
はたと思い返して尋ねる。優しい彼のことだから、無駄なことばっか考えんな、とかそんなことを言うかなと思っていたけど、返答は案外、あっさりしていた。
「疲れてる、が、……その気晴らしに」
「ああ、なるほど……」
ありきたりな相槌が口からぽろりとこぼれる。でも、こんな私と一緒にいたら、余計疲れてしまうんじゃなかろうか。尾形さんにとっては、もう慣れたことなのだろうか。
「……菜摘は」
「、え?」
「忙しかったんだろ、今月。無理はしなくていい」
ささっと着替えながら言う。尾形さんなりに心配してくれてるんだと思うと、変にテンションが上がった。
「えへへ、大丈夫ですよ。尾形さんと出かけられるなら疲れなんて全部なくなります」
「はいはい」
いつも通りに流されるけど、以前私が贈った服を着てくれているから、なんだか余計嬉しかった。
「尾形さん案外私のこと見てくれてるんですね」
「あんなに目死んでたら誰でもわかる」
「ひどい、!仮にも女の子ですよ私」
「仮でいいのか」



 いつもはしないけど、今日だけは手を(半強制的に)繋いで出かけた。
 午前十時半のこと。
 空は、海みたいに真っ青だった。









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