同じクラスの月島は性格が悪い。他のクラスの女の子たちが背が高くてかっこよくてクールで王子様みたいなんて囃し立てているけど、わたしに言わせてみればそれはまったくのまやかしである。とくに王子様みたいだというのは完全に偏見だ。
「月島めちゃくちゃ性格悪いのに」
「みょうじほどじゃないよ」
目の前で日直日誌に文字を綴る月島は視線を日誌にむけたまま言い返してきた。本当こういう嫌味ばっかり口からぽんぽん出るよね。
わたしも大概だけど月島の性格の悪さには箔を付けてやってもいい。隣の席になってからというものの、月島との会話はおおよそテンポのよいただの掛け合いだ。じっと顔をみつめて観察すると確かに整ってるから憎い。
「ていうか、」
「なんで待ってんの。」
「自分の仕事だけやって、あとは月島残してさよーならなんてなんか感じ悪いじゃん。」
「とか言って僕の仕事手伝うわけでもないんだ。いい性格してるよね、本当」
月島が今度はちらりと視線を寄越す。眉間にしわは寄っているけどその角度からじゃただの上目遣いだ。こういうときイケメンって得だとつくづく思う。こんな仕草にいちいちドキドキなんかしてやらない。「まぁね、面倒くさいし。」と適当に相槌をして月島の手元に視線を落とすが月島の手はいっこうに動かされることはなく、文章は今日のまとめ、みたいなところの書き出しで止まっていた。
「?」
「書くことない。」
あぁ…。なるほど。今日ってなんかあったっけ。うーんうーんと唸っていると「なにその顔ブサイク」と言われる。仮にも女子のわたしに対してこの言い草。他の女の子には少しばかりだとしても愛想がいいのにわたしにはこれであるから考えものだ。月島には部活があるから、と書くことを考えてやっているわたしの良心に謝ってほしい。
「あっ、」
わたしの声に驚いた月島はメガネの奥でその瞳を僅かに見開く。
「月島、部活何時から?」
「なに急に…あと10分くらいで開始だけど…。あんまり大きな声出さないでよ」
「10分!?あと少ししかないじゃん、もう行きなよ仕事やるから!!」
「…君話聞いてた…?それにさっき面倒って言ってたでしょ」
鰾膠も無い月島の言いようにわたしはそうは言ったけどと言い淀んだけれど部活開始時間を知らなかったさっきまでとは事情がちがう。月島の所属しているバレー部は現在進行形でめざましい成長をしているという。「月島くんレギュラーだって!かっこいいねえ!」という彼女たちの噂話が事実ならばこんなことでみすみす月島の練習時間を削るわけにはいかない。今では帰宅部だけど中学では運動部のマネージャーをしていたものだからそこんとこに懸ける熱はあついと自負している。こんな冷めた奴でも試合になるとかっこよく見えたりするのかな、なんて考えがよぎった。
「…なんか失礼なこと考えてない?」
「いや、別に。」
「……。」
「月島はバレーするときも性格悪いのかなって思った」
「みょうじの変に素直なところ何なのほんと。」
ガタリと月島が席を立つから一気に身長差ができた。机を挟んでそそがれる頭上からの視線を受け止めるには首をつかって顔を上に向けるしかない。
「…頼んでもいい?」
そこから一気にグッと距離を詰められて同時に息も詰まった。唇の端が僅かにあがっていていつもの挑発的な笑みを浮かべているくせに、少し細められた瞳にまるで悪巧みをしているちっちゃい子みたいなものを感じて、「やるって言ってるのになんで確認する必要があるの、」だとか「顔が近い離れろ」だとか。いつものような軽口が何故だかうまく出てこなかった。
「…少なくとも意識はしてほしいんだけど」
宙ぶらりんになった左手を取られた。
ヒョロヒョロしてるなぁとしか思ってなかったのに予想外に骨ばって男の子らしい手に不覚にも心臓が高鳴った。
月島の唇が掴まれた手の甲にゆっくりと近付いて軽く、ほんの一瞬だけ、でも確かに触れた。
まるでスローモーションのように感じられたそれにわたしはただ口をぱくぱくとさせるしかない。
わざとらしくたてられた軽いリップ音はちゅ、という可愛らしい響きで、余計に羞恥を煽られるのに、この行動を強く咎めることができないのはなんでだろう。じわじわと熱が集まる顔で「なにするの、」とやっとのことで言い返すものの、こんな間抜けな声じゃなんのダメージも加えられない。
「他の女子みたいな印象なんて求めてないけど、参考」
ごちそーさま、
ひらひらと手を振って去って行く長身に文句を言うことが出来たのは心の中だけで実際はなにも言えずに固まってしまった。だって、わたしの手の甲から顔をあげた月島がわらった瞬間、心臓を掴まれたと思った。月島が去っていっても離してくれないこれをどう形容しよう。
なんなの。なんなのあれ。
手の甲にキスなんて、いまどきの高校生がなかなかするもんじゃないでしょ。それも月島みたいな奴が。そんな、どこかの王子様じゃあるまいし。
ショートケーキ劇場
Ash.