カタカタカタカタ…
目の前で古い古い記憶が再生されている。それには色も音もなく、ただ映像のみが映し出されていた。
幼い自分が独り、木の下で頭を伏せてうずくまっている。木の葉と髪の毛が揺れているのは、風が吹いているからだろう。
何故そこにいるのか、何故独りなのかは覚えていない。いや、思い出したくないだけかもしれない。今は心の奥にしまい込み、頑丈に封印した、忌まわしくも悲しい記憶。モノクロな自分はその記憶に苛まれているのだろうか。
映像の上から下へ流れ落ちている黒いものは――。
雨。
段々それは量を増やし、黒く黒く映像を染めていき、やがて幼い自分を飲み込んだ。視界が暗転する。

「政宗!!」
鋭い声に、伊達政宗の意識は覚醒した。心臓が痛いほどの鼓動を刻み、汗が吹き出る。目を見開き、荒い呼吸を吐きながら目の前の人物を見上げた。心配そうに眉を下げて覗きこんでいたのは、大学の同期生のなまえだった。
「…なまえか…」
ふーと深く息をつき、強張っていた体の力を抜く。
「うなされたけど、大丈夫?」
小首を傾げたずねてきた。政宗は額に浮いた汗を拭いながら頷いた。
どうにか心臓も落ち着き、普段の状態に戻った。
「No problem.」
にっと笑ってこたえる政宗に、なまえは安堵の息をつく。偶々通りかかり、公園の木の下でうたた寝していた政宗を見つけたのだ。始めはこんなところで寝ちゃってと笑って見ていた。だが、眉間にしわをよせ、魘されだしたので思わず名前を叫んだのだった。
「そう、それならいいけど…。」
気遣わしげに政宗を見ていたが、それ以上は何もいわなかった。
幼なじみ故に、政宗の抱えているものを知っているからだ。あの状態は以前にも見たことがあった。
「大丈夫、もう、政宗は独りじゃないよ。」
ぎゅっと抱きしめ、背中をとんとんとたたく。小さい時から続く行動。悪夢をみて怯える政宗を落ち着かせるため、いつもなまえはこうしていた。
今では沢山の友人に囲まれ、楽しそうに笑っている政宗。幼いころは今の彼から想像できない程暗く無口な子どもだった。
当時、近所に住んでいたなまえは独りぼっちの少年をよく公園連れ出し、空が茜色に染まるまで一緒に遊んだものだ。
また自宅にも呼び、ご飯を食べさせ、お風呂にもいれた。
『なまえはずっと傍にいてよ』独りぼっちの少年の切なる願い。その願いは成人を迎えようとする今でも、途切れることなく叶い続けている。
なまえの肩に政宗が顔をうめた。そして小さくthanksと呟いた。それには沢山の意味が含まれていた。
カタカタカタカタ…
目の前で古い古い記憶が再生されている。それには色も音もなく、ただ映像のみが映し出されていた。
幼い自分が独り、木の下で頭を伏せてうずくまっている。木の葉と髪の毛が揺れているのは、風が吹いているからだろう。
何故そこにいるのか、何故独りなのかは覚えていない。いや、思い出したくないだけかもしれない。今は心の奥にしまい込み、頑丈に封印した、忌まわしくも悲しい記憶。モノクロな自分はその記憶に苛まれているのだろうか。
そこへ一人の少女がやって来て、少年の傍に座った。暫くじっと並んで座っていたが、くるりと少年の方を向いた。そしてぎゅっと抱きついた。
途端に映像に色と音がついた。鮮やかな葉の緑と柔らかそうな二人の髪がさわさわと揺れる。風が木の葉を通り抜ける音がする。
上から下へ流れ落ちている白いものは――。
雨。
段々それは量を増やし白く白く映像を染めていき、やがて幼い二人を優しく包み込んだ。視界が光で満ちる。

黒から白へ上書きされたフィルムは、新しい思い出を録画し始める。
もう、悪夢に苛まれることはないだろう。

Ash.