これだけ科学技術が発展した現代社会において、宗教の権威は失墜したといっていい。あらゆる超常現象は科学で解明され、異能を持つ人間は「個性」を有する人間としてありふれた存在となった。巫女や聖職者──神に通ずるといわれた者たちは、この超人社会的では一般市民に過ぎない。風土として神を信仰しやすい国ではあるのだろうけれど、熱心に信心を捧げるような人間はそのうちの何割になるだろう。そんなことを考えながら、私はすっかり着慣れてしまった洋装──制服のシャツを身につける。

 かつて私は『神』であった。いや、『神の子』であった。
 宗教が形式だけのものとなりつつあるこの社会においても、根強くというか根深くというか──とにかく厚い信仰心を持ち、神にすがる人間というのは存在する。ある者は救いを求め、ある者は永劫の幸福を願い、そしてある者は死の恐怖から逃避する。そして私はそうして集う信者の心を癒す『神の子』だった。
 私がこの掌で触れると、触れた部分の痛みは引き、どころか心地よさすら感じるのだという。実感はない。自分自身にその能力を使おうとしてもうまくいった試しがなかったし、その能力に限りがあると知ってからは自分に使うなどという無駄なことに能力を費やすのはやめてしまった。

 私の掌を求めて、数多の信者が私のもとを訪れた。『神の子』として崇め奉られた私は、この掌で何人もの信者を癒してきた。十年以上はそうして暮らしていたはずだ。学校に通って教育を受けることもなく。同年代の友人と遊ぶこともなく。ただ、薄暗い奥座敷で救いを求める信者に触れるだけの生活をしていた。
 日々はある日唐突に幕切れを迎える。

「今日から暫くここで暮らしてもらう」

 そう告げたのは紅蓮の炎を纏った恰幅のいい男だった。ずんぐりとしていて、不機嫌そうな顔つきだった。私が一日のほとんどの時間を過ごす邸の奥座敷に突如として現れた彼は、困惑する私にろくに言葉を掛けることもなく、私をひょいと容易に担ぐと外の世界へと連れ出した。邸内で生活していた信者の何人かが私とその男を呼び止めたはずだけれど、しかし結局、誰も男を止めることはできなかった。

 男に連れていかれた場所は、彼の自宅だった。警察に連れていかれ、いくらかの質問をされた後のことである。
 その邸の庭には私と同じくらいか、少し年上の年の頃のこどもたちが遊んでいて、私を連れてきた男の姿を恐れと憎しみの眼でもって遠巻きに見つめていた。いくつもの眼が、男と私を交互に見る。その視線はこれまで崇拝と好奇の視線にしか晒されたことのなかった私にとって、却って物珍しいものだった。

 私が連れていかれたのは邸の中でも奥まった場所にある、こじんまりとした和室だった。私が信者に触れていた部屋と同じくらいの大きさだろうか。けれどあの部屋よりもこの部屋の方が薄暗く見えた。
 部屋は長らく使われていないのか、小奇麗ではあっても埃のにおいが幽かににおう。その匂いに混じって、懐かしいようなよそよそしような、不思議なにおいがした。
「家の者との接触は最小限に済ませてもらう。家の事を手伝う人間が何人かいるから、何かあればそれらに言え」
 一方的にそう言いつけられ、私はできるだけ小さくうなずく。ふん、と男は鼻を鳴らした。
「口も利けんか。警察では話せていただろう」
「……あまり、話すのは得意ではないので」
「子供らしくもない……、まあ喧しいよりはましだがな」
 それだけ言うと、男は私を置いて大股で部屋を出て行った。何をしろとも、するなとも言われず私は途方に暮れる。ひとり残された部屋の真ん中で、私はいつものように正座をしたままぼんやり辺りを眺めた。男が出て行ったときに僅かに隙間の空いた襖からは眩い明かりが差し込んでいる。

 男の正体がエンデヴァーという名のヒーローだということを、私は警察署で婦警から聞いていた。世界には『個性』を用いて悪と戦うヒーローという人たちがいることも。
 私を『神の子』として祀り上げていた教団は、話によるといくつかの法に触れていたらしい。詳しいことは分からないけれど、とにかく、このまま看過するわけにもいかずヒーローと警察が結託して教団を解体──破壊したのだということだけは子どもなりに理解した。
 私を『神の子』に祀り上げた両親がどうなったかは知らない。逮捕されたのか何なのか、少なくとも私と接触することができないような事態にはなっているのだろうと思う。そうでなければ私が今こんな場所にいるはずはない。
 私に満足な教育も受けさせずに一日中信者の相手をさせていたのだから、保護者としての権利は当然取り上げられているだろう。別に悲しいとは思わない。両親が両親としての義務を果たさなかったのだから、それは仕方がないことだ。

 私にとっての両親は親の愛情を与えてくれる存在ではなかった。物心つくまではもしかしたら普通の家族だったのかもしれないけれど、私が『個性』を発現して以降、その関係は大きくひしゃげて歪んでしまった。彼らは私を『神の子』として祀り上げ、心の弱った人たちに巧みに取り入った。そうして作り上げた信者の相手は私と信頼できる幹部に任せ、彼らはひたすら集金作業に勤しんだ。
 どれほどの儲けが出たのかとか、彼らがどういう派手な生活を送っていたかとか、そういうことは一切私の耳に入ってきていない。私は毎日質素な麻の装束を着せられて、ふかふかの座布団の上に座っていた。
 彼らは朝晩私のもとにやってきて、その日私のもとを訪れる信者がいかにつらい境遇にあるかを滔々と語った。そうすれば私が一生懸命『神の子』としてのつとめを果たすと信じているようだった。

 両親のことを思い出し、それから唐突に、ああそうか、と合点がいった。この部屋に立ち込めたにおい。埃のにおいに混じって感じられる、幽かな懐かしさのようなもの。それはきっと、お母さんのにおいだ。きらびやかな宝石で飾り付けられた母ではない。幼いころににおった、私を抱きかかえた母のうなじからにおったにおいと、この部屋のにおいはひどく似ていた。
 物寂しい殺風景な部屋の中。それでも部屋の中には彫りが美しい鏡台や、それと揃いの姿見が置かれている。いずれも戸を閉じられ布を被せられた状態ではあるものの、それらの調度品からして部屋の本来の主が女性であることは明らかだった。
 ──先ほど、庭で遊んでいたこどもたちの母親だろうか。
 ボールを蹴って遊んでいたこどもたちの姿を思い出しながら徒然と考える。あれは恐らくエンデヴァーのこどもだろうから、そうなるとエンデヴァーの妻の部屋、ということになる。それにしては長らく使われた形跡がないけれど、その辺りは私が立ち入ることでもないのだろう。それに、もしもその妻という人がこの邸内にまだいるのならば、遅かれ早かれ顔を合わせることになる。私がいつまでここに押し込められている予定かは分からないけれど、軟禁されるのには慣れっこだった。

 と。
 ふと、背後からがたんと大きな物音がした。廊下側へと向けていた視線を、ゆっくりと背後に向ける。背後の襖は大きく開いていて、その奥の部屋からはひとりの男の子が大きな瞳を不安そうに揺らして、こちらを──私を、見ていた。

「だれ?」
 男の子がおそるおそると尋ねた。襖に体を隠し、顔だけをこちらに覗かせている。庭で遊んでいたこどもたちよりも少しだけ幼く見えた。末っ子だろうか。まだ幼いからボール遊びに混ぜてもらえず、こうして邸内に残っているのかもしれない。
 先ほどエンデヴァーに言われた言葉を脳内で反芻する。家の者との接触は最小限にするように、エンデヴァーはそう言った。もちろん私はそのようにするつもりだったけれど、こうして話しかけられてしまった以上、無視するというわけにもいかないだろう。男の子は、今にも泣き出しそうな顔で私を見ている。
「なまえ」
 小さな声で返事をした。家の中のほかの人に聞かれてしまわないように、ひっそりと。
「なまえ。八歳──あなたは?」
「しょうと。……ごさい」
「そっか、しょうとくんって言うんだね」
 確認するように繰り返す。しょうとと名乗った男の子は、私を真似るように小さく頷いた。よくよく見ると顔の左側、ちょうど額から目にかけてを白い包帯が覆っている。怪我をしているのだろうか。その痛々しい様子に、私は僅かに眉をひそめる。

 ふいに目がじんと痛んだ。手の甲で目元を拭う。自分でも気付かないうちに、額はぐっしょりと汗で濡れていた。
 常に空調で環境を一定に保たれた室内に数年間幽閉されていた私には、季節の移ろいは縁遠いものである。そのためにすっかり忘れていたけれど、今の季節は夏だった。夏真っ盛り。この部屋には冷房がない。暑いなんて感覚を味わったのは、本当に久し振りのことだった。

 とてんとてんと畳を踏みながら、しょうとくんがこちらへと歩み寄る。私の隣までやってきたしょうとくんは、正座した私の隣にぺたりと座り込むと、仰ぐように首を反らして私を見た。
 先ほど襖の影に身体を隠していたときには気が付かなかった、彼の身体の異変に気が付いたのはその時だった。
 シャツから伸びた腕、膝丈のズボンからのぞいた足──とかく至る所に、青紫色の痣や傷があった。こどもの遊びには詳しくないけれど、しかしこれは多分、こどもが遊んでいてつくる傷とは違う。脳裏を虐待という言葉が掠めていった。

 自分の傷一つない、陽のもとになど永らく出たことのなかった真っ白の腕と、痣だらけで所々腫れ上がったしょうとくんの腕。それはまるで異なる色をしていたけれど、身近な大人から型をあてがわれたものだという点においては、私たちは限りなく近しいものに思えた。
「おねえさん、なんでおかあさんの部屋にいるの?」
 しょうとくんが言う。先ほどよりは警戒心の薄れた声音だった。
「おかあさん? お母さんって、しょうとくんのお母さん?」
「そう」
「ここ、お母さんの部屋なんだ」
「……うん」
 しかしここが女性の部屋であることは分かるけれど、誰かが生活している気配はない。暫くは使われていない部屋のようだ。だから、ここがしょうとくんのお母さんの部屋だというのなら、やはりそのお母さんは──エンデヴァー夫人は今この邸内にはいないのだろう。そうでなければしょうとくんもあんな尋ね方はしないはずだ。どういう事情かは判然としないものの、そのくらいのことは察しがついた。

 しょうとくんの母親で、自分の妻である夫人の部屋を私にあてがうエンデヴァーの神経は、私にはよく分からない。そもそもこれだけの広さの邸なのだから、わざわざ家人の部屋を使い回さずとも、客間くらいはあるだろう。私なんぞに客間を使わせるのは惜しいというのならば話は分かるけれど、しかし、それにしたって夫人の部屋というのはどうにも居心地が悪い。

「勝手に使ってごめんね、お姉さんすぐに出ていくからね」
「そうなの?」
「うん、多分ね。分からないけれど」
 先のことは何も知らされていないので、正直いつまでこの家にいることになるのかは分からない。とはいえ、少なくとも一ヒーローのプライベートな住まいに事件の関係者を匿うことが正式な対応とは思えなかった。これが暫定的な処置であることには間違いない。
 私の言葉にしょうとくんはほっとしたような残念なような、よく分からない複雑な表情で
「そっか」
 と呟いた。

 私はこの家に預かられているけれど、この家の人間になったわけではない。またこの家の事情に深く踏み込むことを許されてもいない。エンデヴァーは私とこの家の人間が接することに対してよく思っていない様子だったし、おそらく私としょうとくんがここでこうして言葉を交わしているのは、エンデヴァーにとっては予測できなかった事態だろうと思う。
 私はしょうとくんの傷を知るはずではなかったし、しょうとくんも私の存在を知りこそすれ、話をするはずではなかった。互いの傷を見せあうはずではなかった。

 そっと手を伸ばし、しょうとくんの腕に触れる。反射的に身体を引きその手を避けたしょうとくんだったけれど、私がうっすらと微笑むと、やがてゆっくりと彼の方から手を差し出した。
 腕の内側、紫色に染まった部分にそっと掌で触れる。じんわりとその部位があたたかくなる気配がした。
「きもちいい?」
「うん」
「やさしい気持になれるでしょう」
「やさしい、気持ち」
 しょうとくんが繰り返す。私の『個性』は治癒することではない。病魔に体内を食い荒らされた人間を治癒することも、深い傷を負った人間の傷をなかったことにすることもできはしない。
 私にできることはただ一つ、癒すことだけだ。その人が痛みを、苦しみを、つらさを感じている部分に触れることで、そこから生まれる苦痛を軽減することができる。癒すことができる。
 痛みが引き、心地よさを感じるとは、つまりはそういうその場限りの誤魔化しでしかない。実際には問題は何一つ解決していなくても、癒しを与えることであたかもその人が救われたように感じる。『神の子』の成す御業など、蓋を開けてみればその程度のことだった。

 それでも、私は嬉しかった。私のこの手を素晴らしいものだと崇め、救われたのだと涙を流して喜ぶ人がいることが、私は嬉しかった。今の今まで苦悶の表情を浮かべていた人が、不安で押しつぶされそうになっていた人が、苦しみの最中にいた人が私の掌に触れ、安らかな表情を浮かべる。何物にも代えがたい幸福だった。
 『神の子』でいるということは、両親や大人によってすべてお膳立てされた、ただの役割でしかなかったけれど。それでも。私は『神の子』でありたかった。人に救いを与え、苦しみから救済したかった。それこそ、金銭の対価などいらないと思えるほどに。

 目の前の男の子──しょうとくんは不器用な笑顔を私に向ける。包帯の下にあるであろう傷口を想像し、私はうっそりと笑み薄暗い快感に浸る。
 この先も、彼にはずっと痛みや苦しみや不幸が付き纏うのだろう。救いなどなく、あの苛烈な父親の息子として心に憎悪の炎を滾らせながら、父親のような目をして生きていくのだろう。
 私は彼にこそ癒しが必要であるように思えた。私が今ここにいるのは、ほかならぬ神のお導きに違いない。大いなる神より『神の子』である私への天啓だ。私は彼の、しょうとくんの、たったひとりの神さまになるために遣わされたに違いない。そのために教団は破滅に追いやられ、両親は二度と私に会うこともかなわないのだろう。けれど最早、そんなことはどうでもいい、つまらないことだった。

「しょうとくんのことも、こうやってお手手からあったかくして幸せにしてあげるからね」

 生温い風が吹き込む。しょうとくんの前髪が風にさらわれる。露わになった額や目元を覆う包帯の白が私の心をざわつかせた。

 ★

 首元まできっちりとボタンを留めてネクタイをしめているせいで、この時期は制服のシャツを着ているだけでも汗だくになる。スカートはほかのクラスメイトよりも少し長めに、膝がぎりぎり見える丈。昔の名残か、肌を見せることには今でもまだ抵抗がある。

「そういやなまえ、どうして『個性』使わなくなっちまったんだ?」
 そう尋ねた焦凍くんは私に負けず暑そうで、どこから持ってきたのか団扇でぱたぱたと扇いでいる。だから屋内で昼食を食べようと言ったのに、天気がいいからと外での昼食を押し通した焦凍くんはすでに自分の主張に辟易しているように見えた。
 朝方寮で水筒に詰めてきたお茶は、なんとなく温くなっている。それをごくごくと飲みながら、私は焦凍くんの質問への回答を考える。
「ああ、うん。だって私、普通科でヒーローにはならないし、なれないから。『個性』の自由使用は禁止されているでしょう。だから使わなくなっただけで、深い意味はないよ」
「けど、生活してて些細な場面で使うことくらいあるだろ」
「あるけど、一応私の後見人はエンデヴァーってことになってるし。エンデヴァーに迷惑かかるようなことがあったらよくないでしょ?」
 エンデヴァーの名前を出すと、とたんに焦凍くんはむっとした顔をする。私は三年生なので一年生の体育祭の様子を詳しくは知らないけれど、体育祭以降、焦凍くんの態度が目に見えて軟化したことには気が付いていた。焦凍くんの一番近くにいる私に、そのくらいのことが分からないはずがない。

 風は吹かない。じっとりとした暑さに不快さを感じながら、私は言葉を続ける。
「それに、この『個性』使うと、どうしても昔のことを思い出すから」
 焦凍くんが少しだけ肩を揺らした。

 あの後。私は結局今日に至るまで、轟家にお世話になり続けている。もともと私には『神の子』として使っていた『個性』くらいしか取り立てて言うべきところはなく、それだって十分にコントロールできるありきたりな『個性』でしかない。
 私の両親は駆け落ち同然で一緒になり、ふたりとも家族に縁がなかった。私を引き取る家族はいなかった。そうして経済的な余裕とほかにも何人も子供がいるという信頼から、私はエンデヴァーの家に預けられたまま、もうすぐ高校を卒業しようという年齢になった。今は学校の事情で寮に入っているけれど、ついこの間までは轟家の、あの夫人の部屋が私の居室だった。

 私の過去のことは、事情が事情だけにあまり語りたくない話だ。焦凍くんもその辺りのことは汲んでくれている。
「まあ、無理に使う理由もねえしな」
「うん」
 そう会話を締めくくり、私たちは次の話題へとうつる。普通の恋人同士のように、あるいは普通の友人のように。そこに神と信者の関係は欠片もない。私は焦凍くんを救わない。

 かつて私は『神』であった。いや、『神の子』であった。人の母と人の父から生まれた私は、しかしある時期たしかに『神の子』だったのだ。
 この手で数多の信者を救い、癒してきた。私に癒された者たちはすべからく、私を『神の子』として崇め奉った。

 焦凍くんはきっと、自分の力で救いを見つけてしまったのだろう。彼を見ているとそう思わずにはいられない。あの頃の痣だらけの四肢は今ではすっかり逞しくなった。私が何かを与える余地など最早ない。焦凍くんは私などいなくても、きっと大過なく大人になる。神など求めるまでもなく。
 いつか焦凍くんに聞かれたことを思い出す。あれは確か、私が雄英の普通科を受験すると話したときだっただろうか。

「ヒーローになりたくねえのか」

 それは私の過去を知っているからこその言葉だったのだと思う。焦凍くんは、私が人に救いを与えることに喜びを見出していたと知っていた。だからこその質問で、それは今の社会においては当然の疑問だっただろう。人を救うのはヒーローの仕事である。神の仕事ではない。

 その質問に対して、果たして私がどう答えたかは覚えていない。けれど、ヒーローになりたいなんて一度も思ったことがないなんていう本音は、ヒーローを志す焦凍くんに話してないはずである。
 ヒーローは神ではない。ヒーローは人間だ。人間とヒーローは地続きだ。人間が弛まぬ研鑽を積み、資格を取得し、そうしてヒーローになる。いわば地続きの存在。そのプロセスには、神の御業も奇跡も介入しえない。だから私ではヒーローにはなれない。私がなりたかったものはそんなものではない。
「焦凍くんは立派なヒーローになれるよ」
 私の言葉は、焦凍くんのもとに届くより先に空気に溶けて消えた。


Ash.