バサッと鞄を床に置き、ベッドに倒れこむ。やっと憧れの編集者という職について1年がもうすぐ経とうとしていた。仕事に就く前から覚悟はしていたが想像をはるかに超える忙しさにいつまでも慣れないでいた。マネージャー時代も忙しかったがそれとは比べものにはならない。
 このまま寝てしまいたかったけれど少しお腹がすいているし、シャワーも浴びたい。なにより、服がぐちゃぐちゃになってしまう。
 シャワーを浴びて、簡単なおかずをつくった。テレビをつけると野球のニュースをしていた。今日も一也と元稲実の成宮くんバッテリーは活躍したみたいで、大きく取り上げられていた。プレーしている彼は高校時代と変わらなかったのに、インタビューを受けている姿はなんだか遠い人に感じた。
 
 高校2年生の冬に付き合い始めてもう6年が経つ。高校を卒業したのと同時にプロ入りした一也。プロ入りした当時もすごく注目されていて周りからの期待も大きかった。その期待に応えるように2年目にして正捕手となり、成宮くんとのバッテリーはチームにとても貢献していた。
 一也が活躍するのは私としてもとてもうれしいことだしとても応援している。けれど、活躍すればするほど2人の時間は減っていった。

 テレビに映る彼を見ているのは辛くなり、テレビを消し、食器を洗った。ボフッっと、本日二回目のベッドにダイブ。「明日の休みなにしよ」ぼんやりそう思っているうちに私は意識を失った。



 次の日、私は妙な圧迫感で目を覚ました。前を見ると誰かの体。私は誰かの腕の中にいた。少し上を見ると一也の寝顔があった。


「全然変わってないなぁ」


 手で髪をとかしながら、じっと一也の顔を見ていた。久しぶりにみた彼の寝顔は、プレーしている姿と同じく高校時代と変わらない。


「………どーしたのみょうじちゃん」
「起きてたの」
「今起きた」
「おなかすいてない?」
「ううん。今はこうしてたい」


 ギュッと力を強めた一也に「痛いよ」と言うと「わりー」とか言ったくせに全然力を緩めてくれない。この、バカめがねめ。


「いつ来たの?」
「2時頃」
「じゃあ、まだ眠いんじゃ」
「だいじょーぶ。今日と明日はオフだから」
「練習は?」
「休みもらった」


 「プロなんだからしっかり練習しないと」その言葉は一也の言葉に遮られてしまった。


「みょうじに最近あえてねーしな」
「………ばか」
「ハハハハ」
「ばかばかばか」
「いてーって」


 どんどんっと胸を叩く。なによもう。一也に言おうと思っていた不満が言えなくなるじゃないか。


「………ほんとばか」
「ごめんって」
「どんだけさみしかったと思ってんの」
「ごめん」
「明日」
「ん?」
「デートしたい。今までの埋め合わせ」
「いいぜ」
「服買いたい」
「おう」
「バッティングセンターも連れって」
「変わんねーな」


 涙をためる私の頭を彼は撫でた。余計に泣けてきた。


「みょうじ、キャラ変わったな」
「うそ」
「昔はもっと騒がしかったし、うるさかったぜ。最近、涙もろくねーか」
「だれのせいよ」
「俺からも1つお願いしてもいいか?」
「ん」


「一緒に住みたい」


 その言葉は、私をよりいっそう泣かせるには十分な力があった。

Ash.