なまえにとってドフラミンゴは自分のすべてだ。
忌み嫌われていた自分に価値を見出してくれて、先のない人生に光をくれた。
なまえの世界はドフラミンゴの世界だ。
ドフラミンゴの世界が自身とファミリーと他ならば、なまえの世界もまたドフラミンゴとファミリーと他である。
そんななまえが特別興味を持ったのが、大好きな若の弟であるコラソンだった。
十四年ぶりに現れた弟をドフラミンゴは迎え入れた。
ドフラミンゴが疑わないならなまえも疑うはずがない。
「コラさんコラさん」
「……」
昔のショックな事件のせいで口が利けないコラソンが返事をすることはないが、その事件にはまるで興味がわかない。
紙とペンで多少会話することは可能だが、コラソンがそうまでしてなまえに構うこともない。
しかしなまえのコラソンへの興味は薄れることがなかった。
「ねえ、コラさん?」
ドフラミンゴと色違いのもふもふのコートに顔を埋めるように背中からしがみつく。
細身ではあるが鍛えられた巨躯は逞しく、腕が立つ以外のドフラミンゴとの共通点を感じた。
コラソンは子どもが嫌いだ。
ファミリーには行き場をなくした多くの子どもがやってくるが、大抵子ども嫌いのコラソンのイジメに耐えきれず出ていく。
もしなまえが子どもであったのならコラソンもなまえを殴り飛ばしたり蹴り飛ばしたりして自分から引きはがしていたかもしれない。
いや、それ以前に兄のお気に入りである自分に手を出せないことをなまえは知っていた。
だからこそ構ってもくれないのにこうして毎日飽きもせずコラソンの名前を呼ぶのだ。
「なまえはコラソンが好きなのか?」
新入りのローにはどうやらそう見えるらしい。
似たような境遇であることからよく構っているからか、ローはだいぶなまえには心を開いてくれるようになった。
それにしてもローにはそう見えるのかと思うと、なまえはくすくすと笑った。
「わたしの一番はいつだって若だよ」
「じゃあコラソンのことは好きじゃないのか?」
「ふふっ、ローにはまだ早いのかもね」
なまえの世界にはドフラミンゴしかいない。
地獄から救い出されたあの日から、それは揺るがない事実だ。
ただその中にコラソンが存在するとすればやはりそれはドフラミンゴの弟だからでしかない。
「ねえコラさん、わたしはコラさんが好きなの?」
「……」
タバコの煙がゆらゆら宙を舞うが返事はない。
動じる様子もないところが少しだけシャクで、なまえは自身の唇をコラソンの耳元に寄せた。
「たぶんね、わたしの興味はコラさんの声だと思うの」
聞いたことがないコラソンの声。
兄から推測すれば、コラソンの声も腰に響くような低音なのだろうか。
そう考えて疼く躰をすり寄せようとすれば、コラソンはするりとなまえの腕から抜ける。
まるで道化のようなメイクのせいで表情が読めないのはとても不便で、これが戸惑いからの行動であれば面白いのにと思うしかない。
「聞きたいな、コラさんの声」
コラソンがなまえの方に振り返ることはない。
大きな背中が小さくなっていき、遠くの方で転げるのを見て小さく笑った。
「面白ェことでもあったか?」
「ううん、別に」
なんでもないの。
当然のように自身の膝の上に小さな躰を持ち上げるドフラミンゴに、なまえは猫のようにすり寄る。
やはりここが一番好きだと思いながらも、どうすればコラソンの声を聞けるか思案する。
まるで悪いことを企てているような顔に、飼い主はフフフッと笑うだけだった。
どうやら弟はこの猫の恐るべき執着心をまだ知らないらしい。
離してなんかやらない
(それはまるで甘い脅迫)
END
(2015.07.18.)
Ash.