今まで好きになった人は、雨男ばかりだった。
前の彼とは、会う約束をする度に雨が降ったので、私は折り畳み傘を鞄に入れるのが癖になった。パステルカラーの傘の下から見上げる空はいつだって愚図ついていて、隣の彼はいつも苦笑いをしていた。そんな時間が、少し不愉快で、少し幸せだった。私達はそのあと別れて、私は、彼と一緒に入っていた折り畳み傘を捨てた。ぽたりと泣いた後に、雨が止んだので、なんとなくこれで良かったのだと思った。冬に入って間もなく、外は晴れている。



「先に土産物見ときゃよかったな」

私の前を歩く土方さんが、少しだけ振り向いてそう言った。短く返事をして、横へ並んでみる。右手は冷えていたけれど、素直にその大きな手に触れることができない。静かで落ち着いた温泉街は宛てもなく続いている。

「屯所で配る用のやつ、何にすっかな」
「温泉まんじゅうは、ベタですか」
「ベタだな。でも俺もそれしか思い浮かばねぇ」

たまたま同じタイミングで休暇が取れたので、珍しく泊りがけの旅行に来た。近場の温泉地だったけれど、土方さんと二人で来るとどこも新鮮に感じて不思議だった。きょろきょろと建物や看板を見て歩く私とは打って変わって、土方さんは何度かここへ来たことがあるらしく、「あそこの露天風呂が一番大きい」とか、「あの居酒屋で食べたおでんがうまかった」とか、思い出しながら、懐かしそうに話した。私はその話を聞いて、少し嬉しくなって、少し俯いた。どうやったって、土方さんは私よりも数年分多く思い出を持っている。どんなに近付いたって、その差は埋まらないのだ。儘ならないものだな、といつも思う。

「まあ、後でゆっくり見て回るか」
「そうですね、まだ時間いっぱいあるし」

ケンカはめったにしない。すれ違うことも、浮つくこともない。順調にいってる。屯所で女中として働いていると、土方さんがいかに女性に人気があるか嫌でもわかってしまう。だけどそれすら納得してしまうくらい、土方さんは素敵な人だ。いつもの黒い隊服とは違って、冬物の着流しに襟巻きをした土方さんの横顔にどきりとする。他愛のない話をしながら、私達は行き交う人々の流れの中を進んでいく。小春日和のような一日。私は土方さんと付き合うようになってから、折り畳み傘を使ったことがない。土方さんはきっと晴れ男だな。天気だけじゃない。この人といると、きっとこれからも、良いことづくめなんだろう。追い付けない差があるのなら、別のもので埋めてしまえばいい。今まさに迷うことがあるとするなら、屯所へ持って帰るお土産くらいだ。

「ね、土方さん」
「ん」
「また連れて来てくださいね」
「おう、気に入ったか」
「はい」

かすかに触れた大きな手が、そのまま私の手を握る。この温かさが胸を締め付ける。土方さんに出会う前の私にまた一つ別れを告げて、なだらかな通りを下っていった。

Ash.