この春から審神者に就任して、一月足らず。日が経つにつれ仲間も増え、なんとか内番制度が確立し、さて本丸経営も軌道に乗り始めたかと一息ついたところで、政府から勅命が届いた。曰く、大阪城の地下を調査してこい…と。こちらは腐っても公務員なので、上層部の命令は絶対であるから、粛々とした気持ちで従った。実戦経験を積ませたいところだったこともあり、まさに渡りに船。余談であるが地下に向かって攻略していくことを俗に潜ると表現することも今回知った。初めての経験という高揚感も手伝って、大阪城で奮闘した我々に、政府は褒美だといって葛篭を寄越してきた。タタミ一畳よりまだ大きい。初期刀である山姥切国広と、大阪城探索にて部隊を牽引してくれたにっかり青江の三人で、とりあえず上座に置いた葛篭を持て余していた。
「なんだ、これは…」
「さ、さぁ?とりあえず開けてみようか?」
「ふふふ、爆弾だったりして」
「ば、ばくだん?」
「最近は審神者も増えているらしいし、税収だけじゃ苦しいのかもねぇ」
「ま、間引き!?」
「やめろ、何故そんな発想に…初期刀の俺が写しだからか?」
そんなやりとりをすること数十分、焦れたのは私達ではなく、葛篭の中身のほうだった。
「あ〜あ、よく寝た!爆弾なわけないでしょ!早く懐に入れてよ!」
ワザとらしい前振りをしながら、大きく伸びをして、葛篭の中から現れたのは赤い髪をした男の子であった。目が大きく可愛らしい顔立ちをしている。
「俺、信濃藤四郎!藤四郎兄弟の中でも秘蔵っ子だよ!」
怪訝な顔をする我々に臆することなく、彼は元気に自己紹介した。藤四郎と言われて見れば、なるほど、見慣れた黒の半ズボンを履いている。短刀なのだろう。無意識に襟元を庇いつつ、マジマジ観察をしているところに、当本丸の主戦力の一振である堀川国広が回覧板を持って駆け込んできた。
「主さーん、これちゃんと読んでなかったでしょ!五十階まで到達したら短刀が貰えるって書いてあるよー」

報酬というかたちで刀を賜ったのはこれが初めてのことである。さぞや珍しい刀なのだろうと、近侍にして観察していたら、気付いた信濃にウインクされた。
「知ってる?俺…秘蔵っこなんだ!」
「へぇ、宗三みたいなかんじ?」
最近やってきた儚げな風貌で各方面に毒を吐きまくる打刀を思い描きながら言った。彼も確か箱入り刀だったはずだ。
「うん、大分違うね」
明るくバッサリ切り捨てられた。違うらしい。先輩だからといって遠慮しないその意気やよし。
「ねぇ、懐入っていい?」
信濃はよく思いついたようにこう尋ねてくる。私は深く考えず、習慣のように胸元を隠した。

終始その調子だったが、それからしばらく経っても、私は信濃を部隊長から外さなかった。彼の言う懐に入るというのがどういう状態だかわからないなりに、私は彼に愛着のようなものを感じるようになっていたのである。
「大将、ちょっと手ぇ貸して」
嬉しそうに寄ってきてそんなことを言うので、促されるままに右手を出した。
「そっちじゃないよ〜」
不服そうに唇を尖らせると、信濃は強引に私の反対の手をとった。
「はい、できあがり!」
左手の薬指に、指輪のような体裁で、小ぶりの四葉のクローバーが巻き付けられている。
「…今はこれで予約させてね」
そう言って、信濃は悪戯っぽく片目を瞑って見せた。まったく、よくウインクする短刀である。予約とは一体何をだろうか。私の懐なら、予約優待なんかは設けていないはずだが。
「四葉のクローバーの花言葉、知ってる?」
「復讐だっけ?」
信濃が尋ねてくるので、知識を総動員して答えた。庭を横切っていた小夜左文字が少し反応したので、手を振ってやる。
「あー、もう!左文字から離れて!」
信濃が地団太を踏むので、仕方なくそちらに向き直る。離れるも何も江雪左文字の確保は我が本丸の目下の課題の一つなのだが…。
「大将、ワザとやってない?」
「気のせい、気のせい」
頬を膨らませた信濃が背伸びをして、ずいーっと顔を近づけてくる。流石は粟田口の秘蔵っこ、王子様のように整った顔立ちだ。見蕩れていたら、えいやっと言わんばかりに唇が押し付けられた。一瞬のことで、制止する間もなければ、理解する暇も与えられなかった。
「俺のものになって、だよ」
不敵に笑う信濃に唖然とする私。審刀者にこんなことした刀、君が初めてだよ。
「君は…ちょっとあざといね」
それだけ使ってほしくて必死なのかもしれないが。
「へへっ、懐お邪魔しまーす」
悪びれる様子もなく、胸元に顔を埋めるように抱きついてくる信濃の頭を撫でてやる。サラサラの赤毛の感触が気持ちいい。私のファーストキスの代金は高くつくよ。絶対に教えてやらないが。

Ash.