「ぜんばいっ、卒業、おめでどうございまずっ・・・!」


既に涙でぐしゃぐしゃになった黄金川の顔が、今度は私の方へと向けられる。すごい、どんだけ泣いてんのよアンタ。手渡された花束の匂いに擽られるようにして鼻を啜った。別に泣いている訳じゃ、ない。でも、こんなにも素直に卒業を惜しんでもらえるのは、とても嬉しい。
作並は目元を真っ赤にして必死に涙を堪えていた。小原は泣いてこそいなかったが、寂しそうな顔をして黄金川を宥めていた。舞は黄金川同然、涙をポロポロ零しながら「先輩がいないとダメです!」なんて可愛いことを言ってくれたけど、舞はもう一人前のマネージャーだから私なんかがいなくても大丈夫だ。
そんな風に過ぎていく最後の日、桜の花はまだ咲かない、旅立ちの日。


「おう黄金、漢ならメソメソ泣いてんじゃねえ」
「そういう鎌ちが一番泣いてるけどな」
「るせぇ余計なこと言うな!」


黄金川のあれはどう見てもメソメソなんて泣き方じゃないと思うけど、本人たちが楽しそうならそれで良いのだろう。そんなことを思いながらみんなの様子を眺めていれば、それを遮るようにして大きな壁が立った。見上げて見れば青根で、その隣には二口もいる。


「・・・何、今までの不満が爆発して集団リンチですか今日という日に」
「不満溜めさせるようなことしてたんすか今まで」
「覚えはありません」
「じゃあ違うんじゃないすかね」


青根が大きな拳を私に突き出した。「・・・・・・手」よく見れば二人の目元は真っ赤に腫れていて、ああコイツらはそういうヤツらだったよなと思い出す。いつも生意気で、茂庭や鎌ちのこと散々困らせて。でも試合になれば誰よりも頼りになる鉄壁で、その大きな背中で、一体何度チームを救ってきたことだろう。
差し出した両手にはピンク色の可愛らしいお守りが載せられた。手縫いらしい風合いで “恋愛成就“ と書いてある。


「作ったの滑津っすからね」
「・・・じゃあ許せる」
「大学で出会いあるといいっすね」
「喧嘩売ってんの?」
「まぁ心配しなくても、もしもの時は貰ってくれるらしいんで」
「二口が?」
「青根が」
「やった!」


当の青根はぶるんぶるんと勢い良く首を振り、二口は意地の悪い笑みを絶やさない。ほんとに生意気なヤツらだ。青根の左手と二口の右手をとる。私なんかのより何倍も大きい手。伊達の鉄壁を受け継いだ逞しい手。こんなヤツらだけど、私達はアンタ達のこと、ずっと、私達の誇りだと思ってる。


「アンタ達は私よりずっといい女の子捕まえなよ」
「言われなくてもそのつもりでした」
「お前はほんとに・・・」
「嘘です、付き合うなら先輩みたいなひとが良いです」
「 (ブンブン) 」
「お、お前ら・・・」
「あーーー!!てめえ!後輩に手ぇ出してんじゃねえよずりいぞ!」
「別に後輩はダメとかルールないしぃ、なんなら舞でもナンパしてくれば?」
「わっ私ですか?!」
「お断りだって残念でしたね鎌ち」
「まだなんも言ってねえだろ!」


別に鎌ちとどっちが先にカップルなれるかゲームなんてしてない。桜だって咲いていない。空が青くて涙が出た。
卒業おめでとうなんて似合わないこと言われたからじゃ、ない。別に泣いている訳じゃ、ない。
こんなに大好きな仲間と離れてしまうのがちょっとだけ、ほんのちょっぴりだけ、寂しいだけだ。


Ash.