人ではないナニカ

私は幼い頃から他人には見えないものが見える。それが何かと言われれば色々だ。人の形もあれば、体の一部、黒い塊なだけだったりと様々だ。物心つく前は両親に聞いてみたりしたけれど、どちらも見えないようで首を傾げていた。普通だったら気味が悪いと遠ざけられそうだが、私の両親は受け入れてくれ、見えても絶対に話しかけない目を合わせない、そこには無いものとするように。両親には言っていいけれど、他の人はだめ。もちろん祖父母も親戚もだめ、そう言われ今まで忠実に守ってきた。しかし高二の春、引越し先の庭に大きな木があった。少し近付いて見てみると枝の上に栗色の綺麗な髪に、端正な顔立ちをした一人の男の子がいた。木漏れ日と相成って美しいそれに私は見惚れてしまった。すると彼が私の方をみた。

あ、目があった

やばい、そう思って目を逸らし、両親がいる家の中へと向かって行った。後ろから足音はない、もしかして気のせいだったのかな、そう思いながら横目で木を見てみると、彼は私とは違う、遠くを見ていた。その姿もまた美しかった。


「ここがなまえの部屋だけど、大丈夫かしら?その…居たりしない?」

母が気まずそうに聞いてくるものは、そういう類の存在のことだ。部屋をぐるっと見渡すと、なにもいない部屋。うん、大丈夫だよ。と返すと母は笑顔で良かった。と言って階段を降りていった。一先ずこのダンボールを片付けなきゃな…そう思い私は近くにあるダンボールに手をかけた。

「越してきたんですかい?」

「はい、今日越してき…!!」

声の方を勢いよく見てみると、そこに居たのは先ほどの枝の上にいた男の子だった。やばい、やっぱり気付いてたのか…どうしよう、今さら見えないふりしても誤魔化せやしない。冷や汗が流れるがその様子を見た彼はこちらに一歩一歩近付いてきた。

「俺がこえーの?」

「っ…は、い」

その返事にブッ!と吹き出してケラケラ笑いながら私の顔をガシッと掴んできた。そりゃあもう勢いよく。

「うぶっ!!」

「こりゃすげーや、掴めらァ」

?を浮かべていると、約400年、触れた者が居なかった事を教えてくれた。見えるものも2人いたが、触れることは叶わなかったらしい。びくびくしながら話をしようと試みてみるが、何者かすら分からない彼に警戒心を解くことができず、上手く言葉を発することができない。

「別に取って食いやしやせんよ」

「は、い」

「それとも、…俺に食われたい?」

ぐんっと距離を詰められ、鼻先が触れる位置にある彼の綺麗なお顔。ああ、もう無理…そう思った時にはすでに遅く、私は意識を手放した。これは恐怖からなのか、綺麗な顔が目の前に迫ってきたからなのかは分からない。

「おもしれーやつ…当分暇しないで済みそうでさァ」

彼が私の頭を撫で、柔らかい笑みを浮かべていたことを私は知らない。