プロローグ


「なまえさん、そろそろ時間になります」

小鳥のさえずりと、陽の光が美しい朝、私は魔法士養成学校の中でも、名門といわれるナイトレイブンカレッジに留学という形で1年間通う事になる。そこで問題なのが性別だ。かのナイトレイブンカレッジは男子校、私が通う魔法士学校は同じく名門と呼ばれる魔法士養成学校であるが、女子校なのだ。学園長達は何を考えているのかさっぱりわからないが、あれやこれやで決まった留学、全く理解ができない。私以外にも寮から一人ずつ選出されているらしいが、お互いに知らない、知らせてはいけないとなっているのだ。

「さあ、これを飲むのです。」

「学園長…そのどろどろとした今にも爆発しそうな色合いをした液体は何でしょうか…」

「あなたの身体を変える薬ですよ。私も思春期の猛獣たちの中に可愛い貴女をそのまま行かせる訳ないじゃないですか!ほらほら!時間がありませんよ!毎日これを一滴ずつ飲むように!」


可愛いならまず、思春期の猛獣たちの中に行かせないと思います、学園長…。ため息をこぼすが、誰にも気付かれずに綺麗な青空に溶けていった。黒い馬車が待ってるから早くしろと急かす学園長に、このどろどろとした液体をぶち撒けたいところだが、あとが怖いので大人しく一滴口に入れる。あれ、美味しいや。そんな事を思っていると、ふわりと身体が浮き、キラキラとした鱗粉のようなものが身体の周りをクルクルと回っていく。目線が少し高くなり、少なからずもあった胸がなくなった。キラキラが消えると、なんだか股に違和感がある。これは言わずもがなアレだ。どうしよう、色々と日常生活に支障が出てくるぞこれは。男の子初日で即男子校にぶち込むなんてあまりにも酷いじゃない学園長…


「凛々しくて可憐よ…!私が見込んだ通りだわ!誰にも見せれないのがほんとに残念…さあ、馬車が待ってるわ、早くお行きなさい!そうだわ!名前は男装名前よー!」


さあさあ!と背中を押されて言われるままに馬車の中に乗った。扉が閉まると、この世のものとは思えないほど美しい顔をした学園長がハンカチを振り回してた。一番大事なこと最後に言ったよね??他に忘れてることない?大丈夫?学園長しっかりしてくれ…1年間、無事に過ごせますように…。


「そういえば、あの人もナイトレイブンカレッジに入学したって聞いたなぁ」


"あの人"というのは所謂、幼なじみと言える存在の男の子だ。小さい頃には結婚しようなんて約束もした可愛いらしい時期もあったのだが、エレメンタリースクールの途中くらいから交流が無くなった彼は私の事を覚えているだろうか。親同士は今もたまに会ってるみたいだけれど。


「あ、この姿じゃ分からないか」


そうだ、私今日から男の子だったんだ。


馬車が到着し、仮面をつけた少し胡散臭そうな学園長に挨拶をし、私は今日からお世話になる寮の寮長に挨拶をした訳だが、お久しぶりです私の幼なじみ、会えて私は嬉しいです。


「1年間、よろしくお願いします。」


挨拶を交わしたあと、寮長である彼は話があるから少し外に出るようにと学園長に言われ、扉から出ていった。


「貴女のところの学園長に聞いているとは思いますが、ここは男子校ですので、女性とバレると少々困った事になるのです。いいですか、絶対にバレないように、より優秀な魔法士になれるよう勉学に励んでくださいね!まあ、バレた時は…その時に考えましょう。では男装名前くん!学園生活を楽しんでください!」


考えるのがめんどくさくなったな学園長。こちらも同じく、さあさあ!と背中を押して、扉の外へと出そうとしてくる。ガチャリとドアが開き、挨拶もそこそこに外にぽいっと出される。扉が閉まる際に学園長の顔がチラリとみえた。


「…応援していますよ」


ふふふと三日月を描いた唇が綺麗だと思った事は内緒だ。ちゃんと部屋の外で待っていてくれた幼なじみ…寮長へ感謝を述べると、そのまま寮の部屋へと案内してくれた。明日から本格的に始まる学園生活なのだが、不安がいっぱいだ。まずは明日、無事に過ごせませように。