新たな将軍

———モモの助さま!
モモの助さま!———

 己の名を呼ぶその声に心が癒される。モモの助は疲弊した体をこのまま愛おしい声に包まれながら休めたいと思った。
 しかし、ままならない思考で戦の最中である事を思い出し、はっと瞼を持ち上げた。

「なまえか…‼︎」
「はい!なまえでございます!モモの助さま!」

 良かった、と涙で頬を濡らすなまえはモモの助の身に抱きついた。

「やりましたよ!モモの助さま!ルフィさまが…!」
「まことでござるか…⁉︎」
「はい‼︎カイドウは地底奥深くまで突き進んでおります!」
「…なぜなまえはそこまで知っておるのだ…?」

 途端になまえは、はっ、とした様に目を丸くした。しかし首を傾げながら、
「なぜでしょう…?少し気を失っている間に夢でも見たのかもしれません」
 と不思議そうに口にする。
 
「…少し待ってもらっても良いか」

 モモの助は何か探す様に空を仰ぎながら言った。なまえは大きく首を縦に振る。

「はい!わたくし、モモの助さまの為ならなんどきも待てます!」
「そなたってやつは…」

 なまえはニカッとモモの助に笑ってみせた。モモの助の心はその笑顔に何度も救われた。もう少しこのまま、この笑顔を見ていたい。そう思いつつ、ある声に語りかける———。

 なまえは少し離れたところでルフィを抱えたヤマトに手を振った。なまえとヤマトの交わる視線は喜々としている。

「ズニーシャ……開国だが…まだしない」

 途切れ途切れの声をなまえは聞いていた。モモの助の口にした言葉になまえはただ頷くだけだった。

「なまえ!」

 ズニーシャとの会話を終えたモモの助は背を向けるなまえに呼びかけた。なまえは振り返る。するとそこに龍の姿はなかった。ひとりの勇ましい顔つきの男が立っている。

「拙者は…ずっとそなたに会いたかった…‼︎」

 なまえの瞳が涙で潤んだ。その声は確かにモモの助だった。

「わたくしもです…あの日からずっとこの日を待ち続けていました…!」
「そなたの声、しっかり耳に届いたでござる。拙者はなまえが側いてくれたら力がたぎるのだ!だから…もう誰にも奪わせはしない!」
「モモの助さま…!」

 モモの助は力強く、なまえを抱きしめた。なまえもモモの助の背中を力一杯包み込む。

 ようやくの再会。そして果たされた約束。
 一つの章が幕を閉じようとしている———。


 しばらくして、なまえはごそごそと身を捩らせた。そのわけは下部にあたる違和感。

「モモの助さま…あの…なんてご立派に…」
「うぁわぁぁ‼︎‼︎失敬した‼︎」

 途端にモモの助はなまえから離れた。そう、ジュクジュクの実で急成長を遂げたモモの助に召物などない。素っ裸の彼になまえは頬を赤らめ、ちらちらとモモの助に目配せる。

「なぜ覗くのだ‼︎」
 と恥ずかしげに声を上げ、モモの助は龍の姿に戻った。

 刹那、ゴゴゴゴゴ、と地鳴りが響く。二人の足元を震わせた。

「地震…?」

 なまえは、はっ、と目を見開いた。またも目にした記憶がない記憶が脳裏によぎった。

「噴火する…!バケモノ二人が地中に落ちた事で火山活動が…!」
「ええ〜‼︎」

 この時、案じるべき事は何か。
 なまえは、失礼します、とモモの助の背中に飛び乗った。

「モモの助さま、行きましょう!ワノ国のみんなに伝えなければなりません!」
「ああ‼︎行こう‼︎」

 なまえの促すままにモモの助は花の都に向かうため、足を踏ん張る。しかし、なかなか地を離れようとしない。

「モモの助さま…?」
「なまえ、拙者は皆に何と言えば良い?」
「えっと……」

 モモの助の問いになまえは言葉を詰まらせた。視線をコロコロと動かす。絞り出そうとも上手い言葉が思いつかない。

 ふと背後からぞろぞろと人の歩く気配が近づいてくる。それと共に心を震わせる声が響き渡った。

「第一にカイドウの敗北!第二に光月家の復活!でござる」

 その声になまえとモモの助は涙した。二人が振り返ると、そこには錦えもんがいた。そして、その後ろに日和、傳ジロー、雷ぞう、イヌアラシ、ネコマムシ、河松、菊の丞、そしてしのぶがいる。

 新たな将軍、新たな家臣。まだ二人だけの力ではとてもこの国を背負うのは難しい。
 なまえは、ふふふ、と笑う。

「わたくし達、まだまだ親離れが出来ませんね」
「ああ」
 
 頼れる家臣たち。
 加わり、失い、新たな時代の仲間がそこにいる。


:


 雷鳴の轟く雲の隙間から桃色の龍が花の都を見下ろした。民衆たちは年に一度の解放の瞬間が、龍の到来により絶望へといざなわれる——そう思った。

 しかし、桃色の龍は声を上げた。

「拙者カイドウではござらん‼︎今の噴火こそ百獣海賊団そうとく‼︎カイドウが幕引きのしめダイコ‼︎」

 信じられないとばかりに硬直する民衆たちの前に、漂う煙の中から人の影が浮かび上がる。

 民衆が第一に目にした小紫に皆は夢だ、幻だ、と眼を疑う。しかし、その見目麗しい姿は確かに心を射抜き、存在を認めた。

 第二に狂死郎一家、親分狂死郎こと傳ジローの姿に戸惑いが隠せない。長い話になる、と傳ジローは
事を省略。

「ワノ国の新しい将軍をお連れしている…‼︎」

 民衆たちの驚愕する声。彼らの心を安堵させるためにはもう一人、存在を認識してもらわなければならない———。

 皆の前に姿を現した錦えもんに、人々は驚愕した。
そして、光月家家臣たち全員が出揃う。

「間違いない‼︎‼︎トキ様の言葉は本当だったんだ‼︎」

 民衆のその声になまえは涙が溢れそうになった。そんななまえに「まだ泣く時でない」と錦えもんが言う。

「はい"……‼︎」

 二十年間、敵陣に身を置き、待ち続けた彼女の涙を皆は拭ってやりたいと思った。いますぐにでも抱きしめてあげたい。

 光月家復活の知らせはワノ国全域に伝った。別のところで、この戦に勝ち星をもたらした協力者たち———麦わらの一味もその瞬間を目にしている。

「わが父…‼︎光月おでんの死より二十年‼︎辛く長い年月を…‼︎よくぞ生きのびてくれた‼︎」

 新たな将軍の登場に民衆は息を呑む。
 火祭りの再開、商いの自由、そして美しいワノ国の地を枯らした工場の廃止。民衆を脅かすものの全てをモモの助は排除すると声高に宣言した。

 そして、刀を天にかかげた。

「カイドウ、オロチ、百獣海賊団‼︎この国をおびやかす全ての悪をわれわれが今、成敗いたした‼︎‼︎」

「「ええェ〜〜〜‼︎?」」

 民衆の轟く声が次第に希望の色を持つ声に変わる。

「光月モモの助が‼︎ワノ国を統治いたす‼︎‼︎」

 その声に皆が心を震わせた。そして、涙した。


 もものふが———
 刃を納めた未来の空に

 くるり ちらちら 花が散る

 ここは名に負う 侍の国
 夜桜 見上げた 齢八のいい男‼︎

 義理と人情は 人一倍
 腕っぷしなら ちとご愛嬌

 ———後の世に
 広く轟く ワノ国の 名将軍

 光月モモの助はかくして‼︎
 ここに誕生した‼︎

 べべべんっ‼︎

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