町は活気に満ちていた。人々は光月家の話題で花を咲かせ、限りなく美しい水で喉を潤せる。
そんな町をなまえは空から風に乗って眺めていた。
城の屋根で腹を鳴らすヤマトの頬を風がそっと撫でた。
「なまえ!」
「ヤマト」
城の屋根で二人は肩を並べた。それはまるで鬼ヶ島城で隠れて顔を合わせてはおにぎりを分け合ったあの日のようだった。
ぐうう、とヤマトの腹が唸る。
「すごくお腹空いてるのでしょ」
「ううう…でも、願かけを今更やめられない…」
「ふふふ、もう少しかな?」
ルフィとゾロが目覚めるまで食事と風呂は禁ずるという願かけを一人背負うヤマトになまえは少しばかり眉を顰めた。
「それにしても臭うわ、ヤマト。ドブ臭よ」
「さすがにそれは傷つく‼︎」
鼻を塞ぎながら深刻な顔で云うなまえにヤマトは縋りついた。一層臭う、と思いながらもなまえは彼の抱擁を受け止める。
こうしてあの鬼ヶ島から二人揃って解放された喜びを分かち合いたいのだ。
「早く一緒にお風呂入ろうね。いつもみたいに洗いっこしましょう」
「うん‼︎」
ふと嬉しい知らせが城内から響いた。
「ルフィ太郎さんとゾロ十郎さんが‼︎目を覚まされました〜〜‼︎‼︎」
なまえとヤマトは目を交わらせ、城内へと駆けた。
二人の男の欲望叫ぶ声に皆がその目覚めに喜んだ。
ゾロは酒をグビグビ流し込み、ルフィは肉に食らいつく。そんなルフィに喜ばしげに抱きつくヤマト。なまえは賑やかな場を微笑ましく眺めた。
そんな中、モモの助が宴を催す事を伝えると二人は、誰だお前、と云うようにその声を無視した。
「モモの助でござる‼︎‼︎」
「え〜〜‼︎?そうか大人になったのか‼︎」
初めこそ、衝撃を露わにする二人だったが、次第にそれは、背丈が倍に伸びた強靭そうな体を試したい気分にさせた。
「殴ってみよう」
病み上がりだと云うのに、どこからその気が湧くのか。二人が構えると、モモの助は甘えるようにナミに抱きついた。
その光景を目にしたなまえは、はっ、と息を呑む。途端にモモの助はナミの拳を喰らって後方へ飛ばされていく。
「モモの助さま!」
「…なまえ、慰めてくれ…」
駆け寄ってくるなまえに、モモの助は弱々しい声をあげる。しかし、そんな縮こまったモモの助の耳が力強く引かれる。それは図体が持ち上がるほどのものだった。
「恥にも程があります‼︎バカ将軍‼︎ナミさまに失礼でございます!お謝りください!」
女狐の形相を浮かべるなまえにその場にいた皆の背中が凍りついた。
しかし、そんな凍りついた場を解かすように、
「お風呂入ろ‼︎」
とナミがヤマトに風呂の誘いをする。
「そうでした!ヤマトのドブ臭を洗い流さなければなりません!」
なまえはモモの助の耳を掴む手を離した。触れることさえ拒むほどヒリつく耳に涙が溢れそうだ。
「モモお前すげェ耳腫れてんぞ」
「真っ赤だ」
モモの助の腫れ上がった耳をルフィとゾロは面白そうに眺めた。
もくもくと湯気の立つ岩風呂。
男湯は賑わっていた。女湯は静かだった。
湯に浸かっていたモモの助は、ふとなまえの声が聞こえたことに驚いた。
振り返るとそこにはヤマトとなまえがいる。いくら湯気が立っていようと目を凝らせば見えてしまう。案の定、一人の紳士が多量に血を吹かせ、散っていく。
「ん?お前ら女湯あっちだぞ?」
ルフィが二人の前に立ち塞がる。するとヤマトは言った。
「僕は光月おでんだからね!男湯で間違いない!」
「わたくしはヤマトを洗わなければならないので…!」
「そうか!ならいいぞ!」
モモの助は堂々たるなまえの姿に驚いた。いや、恥じらいからかタオルで身を隠しているが、なぜこんなにも男湯に慣れているのか———。
一体この二十年、カイドウたちのもとでどのような生活を強いられていたのか想像し、ひとり白目を剥いた。
なまえは湯に浸かったところでゾロに迫った。
「ゾロ十郎さま…!キング様を打倒したとお話を伺ったのですが!」
「ああ?あんま近付くんじゃねェ」
ゾロは迫るなまえから視線を逸らし、少し身を引いた。しかし、なまえはゾロの静止を気にもせず語り続けた。
「わたくし、二十年間あの方にお世話になっていたので少し悲しいような…嬉しいような…いいえ!いつかぶっ倒す事を夢見ていたのですが臆してしまい叶わず…しかし!ゾロ十郎さまが切ったと伺ったので、どのような成り行きだったのかお話聞いても良いですか⁉︎お背中お流ししますので…!」
「おお、だったら良いぞー」
「まてェい‼︎ゾロ十郎ォ‼︎断らんか‼︎それに、なまえへの接近は禁ずると申したはずだァ‼︎」
「んだモモ‼︎この女が勝手に近づいて…イッテェ!」
途端にゾロの頭に拳が落ちた。一部膨れ上がる緑のコブになまえは口に手を当てた。そして、強い力で身が引き寄せられる。
「なまえをこの女呼ばわりだ〜⁉︎なまえはこの光月おでんの意思を継ぐ、僕の将来のお嫁さんなんだぞ‼︎」
「「ええェエ〜〜⁉︎」」
「なまえ!まことでござるか⁉︎」
「い、いや?」
ヤマトの腕の中でなまえは戸惑った様に首を捻る。すると、モモの助が絞るように声を上げた。
「ならん!やらんぞ!」
「なんでモモの助くんが決めるんだ‼︎」
「それは拙者の大事な家臣だからだ?!」
「はーん?もっと素直に言えば良いのになぁ」
「なにがだ⁉︎」
「僕は知ってるんだぞ?なまえが何に弱いか…体の隅々まで…なにもかも…」
にやにや、と意地悪く笑うヤマトにモモの助は良からぬ想像がもくもくと広がっていく。
一方その傍でヤマトの腕からすり抜けたなまえはゾロの背中を流していた。ゾロもまんざらでもない顔をしている。
「そんな事があったのですか⁉︎」
「ああ」
「こらァー‼︎ゾロ十郎‼︎」
騒がしい男子風呂にルフィの笑い声が響いた。
「ニシシシ…賑やかでいいなァ!」