なまえはキング、クイーンの攻防戦を共に戦ったマルコに感謝を述べたく、彼を探していた。
そして、錦えもんと河松と共にイゾウ、アシュラ童子の遺品を納めに鈴後に行ったと聞き、風を走らせた。
しんしんと雪が降る地を尋ねるとなまえの脳裏にはおでんと出会う前の記憶が蘇る———。
物心がついた頃には自分のもう一つの姿である狐に育てられている事を理解していた。狐はよく言っていた。
『君の母は偉大なんだ、だから恨んだりなんかしないでね』
『大丈夫。今は僕たちが君を守るから』
しかし、次第に環境は変わっていった。土は痩せ細り、畑から何かを盗めるほど物が実らず、食べる物が手に入らなくなった。そして、狐たちは痩せ細った。なまえに十分な食事を与える為に自分達は口にする量を減らしていたのだ。
ひとりになったなまえは、時折祠に供えられる物に期待して、祠を訪ねていた。
その時、偶然おでんに出会ったのだ———。
なまえは涙をぐっと堪えた。そして、常世の墓にて三人の影を見つけた。
「おおなまえか、どうした」
錦えもんが聞くとなまえはマルコに目配せた。
「マルコさんにお礼が言いたくて会いに来ました」
マルコは少し笑った。
先ほど自分が口にした———また生き残っちまった、という台詞が嘘も方便という気がして。
実際は彼女と再会を果たすまでは死ぬ気がなかったのだ。
「そうか、俺もちょうど話がある」
なまえは心臓がどきっとした。なぜだか分からないが、とても大切な事を話してくれる気がしたのだ。
二人は少し離れた所で肩を並べた。先になまえがマルコに頭を下げた。
「私の覚悟が弱いばかりに、あなたに二人を任せてしまってごめんなさい」
なまえはグッと奥歯を噛み締めた。するとマルコは笑った。トンッとなまえの肩を叩く。
「気にすんなよい!こんくらいの怪我ですんだんだからよい」
それに、とマルコは考えるように口を閉ざした。
「お嬢のその情深さがよい…親父にそっくりなんだ」
「親父…?」
「ああ、白ひげだ」
「それって2年前にエースと共に亡くなってしまった船長さんですよね…?」
「ああ、俺は元白ひげ海賊団一番隊隊長マルコっていうんだ」
「…!」
なまえはこの時、点と点が繋がり、一本の線が脳裏に引いた。しかし、自らそれを口にできなかった。震える手で衿元に収める御守りに触れた。
マルコはその御守りに切ない眼差しを向けた。
そして、なまえは白い息を一つ溢して云った。
「ビブルカードが一枚入ってました。けれど、ニ年前のあの日、突如消えてなくなったんです。その時少しだけ期待してしまったんです。けれど、亡くなってしまったから信じたくなくて…」
「ああ」
なまえは上を向いた。瞳の涙が溢れないように。そしてもう一度、白い息を吐く。
「白ひげがわたくしの父なのですか…?」
マルコはゆっくりと頷いた。そして何とも優しい顔で微笑んだ。
「そうだ、お嬢。俺たちは船で共に過ごしたんだ」
目頭を抑え、上を向くマルコ。
その視線の先には青い海とモビーディック号が見えた。
三十年前———
九里、伊達港にて白鯨を思わせる巨大な船が漂着した。
おおよそ一週間は修理に時間を要すだろうと、その船の者たちはずらずらと島へ上陸する。
「おい女狐、お前の言葉通り登ったぞ」
「そのようじゃなァ白ひげ」
「…この有様だ。お前の言葉に従うとろくな事が起きねェ」
女狐と呼ばれるその女は白ひげの肩に身を預け、優雅に四つの尻尾を揺らしながら笑った。
「旅には打ってつけじゃろう」
そういって顔を覗く女狐に白ひげは目を合わそうとしない。彼女の言葉に従った結果、何かしら事件が起きる事をもう幾度も経験している為か今さら責める気もしないのだ。
船は帆が破れ、寝転ぶように傾き、中の物はほとんど浸水していた。こうなるといよいよこの島の内部に足を運ばなければならない。
「調達が必要だな、行きてェ奴いるか⁉︎」
「おれも行くよい」
「ダメよ、あんた見習いでしょ!」
「ゆけゆけ、かわいい子には旅をさせろというじゃろ」
「ねえさん!マルコに甘いよ!」
「さすが、ねえさん!」
女狐の尻尾が見習いマルコの頬をこそばゆく撫でた。マルコは嬉しさ反面、くすぐったさに片目をつぶる。
途端に白ひげは、とんでもない気配を感じ取った。同時に女狐もその気配に懐かしさを覚え、ふらりと体を浮かせた。
「ふぁわ〜、わっちは寝る」
白ひげがその気配に身構える最中、女狐はこれから起こるであろう衝撃を回避する為か、単に怠けか、ゆるりと風に身を隠すように姿を消した。
案の定、この国を守る大名おでんが海賊の侵入を聞きつけ、駆けつけた。
白ひげの薙刀とおでんの刀がとんでもない衝撃音を響かせ、ぶつかり合った。