「お嬢はちゃんと愛されてたんだ…!愛されてたんだよい‼︎」
全てを見届けたマルコが口にするその言葉はなまえの心をぎゅっと締め付けた。
なまえは「う"ん」と涙ながらに何度も何度も頷いた。
「オヤジはあの最期の日、言ってたんだ」
『俺ァ一目、娘を見たかった』
「だから、ねぇさんとオヤジの覚悟を見届けた俺たちが…!お嬢に会って全てを伝える必要があったんだよい!」
マルコはイゾウと共にこの地に降り、そしてビッグマムの話を耳にし、キングと一騎打ちするなまえを目にした時———生きなければならないと心に思った。
なまえはマルコの瞳を真っ直ぐ見つめた。
「ありがとう…‼︎本当にありがとう…」
ようやく親子の想いが繋がったことにマルコは安堵の笑みを浮かべた。
そしてなまえとマルコは抱擁を交わした。
不死鳥の翼を仰ぐ勢いで粉雪が舞った。上空へ浮上していくマルコになまえは声を上げた。
「マルコ‼︎いつか、もう少しこの国が落ち着いたら、会いに行ってもいい…?」
マルコは、もちろんだ、と翼をはためかせた。
「俺はスフィンクスの村ってことにいる!そこはオヤジが作った村だ‼︎お嬢!いつでも歓迎するぜ‼︎」
希望を失った故郷を再興したという父の偉業になまえはもっと白ひげの事を知りたくなった。いつか、墓に花を届けに。船に再開しに。そして、マルコに父の話を聞きに———必ず行く、と約束した。
不死鳥は飛び立っていく。なまえはその青き鳥が見えなくなるまで見送った。
なまえは錦えもんと河松にルフィとゾロが目覚めたことを伝えた。すると二人は安堵の声を上げた。
「そうか…!ルフィ殿が目覚めたのかァ‼︎」
「なんと回復力‼︎?カッパッパッ!」
そして今夜、宴が催される。錦えもんは最愛の妻であるお鶴とその時を過ごす為、九里に戻ると云った。
「なまえは花の都に拙者と戻るか?」
河松はオニ丸に別れを告げるように撫でながら云う。なまえは考えるように少し空を見た。
そしてすぐに、
「わたくしは少し寄りたいところがあるので、宴には遅れるかもしれません」
となまえの返答に河松は、そうか、と少し寂しそうな顔をする。
「…兎丼か」
その声は錦えもんだった。なまえは複雑な表情を浮かべて頷いた。
現在、兎丼にて百獣海賊団の残党達がそこに身を置いている。なまえが二十年間、彼らと過ごしていた事を考えるとその身を案じるのも理解ができた。
錦えもんは後ろめたい思いを抱いているなまえの肩にそっと手を添えた。
「拙者たちはぬしを責めたりなどせぬ。行け」
「なまえが宴に遅れることは拙者から皆んなに伝えるから案ずるな!」
「ありがとう…!」
錦えもんと河松の優しさ溢れる言葉がなまえの胸に沁みた。
兎丼、元囚人採掘場。
負傷した大幹部の面倒を見る残党達が「なまえ様だ」と言葉を洩らし、彼女の行く道をあける。
なまえは目の前の痛ましいキングのその姿に少し泣きそうになった。
「体はどう…?キング」
「この期に及んで何の情けだ」
キングは辛辣に云う。敵であり、敗者である自分に一体いまさら何のようだ、と云うようになまえを鋭い眼差しで見つめた。
「あなたに聞きたいことがあって来たの」
キングは少しばかり耳を傾けてやろうと思った。
「カイドウはわたくしの出生を知っていた?」
「…いや、知らん。聞いたことがないな」
「そう」
「…何か分かったのか」
「…ええ」
そして、なまえは深く息を吸った。そして、吐き出すと同時に胸を張って口にした。
「わたくしは白ひげ海賊団船長エドワードニューゲートの娘、なまえ」
キングは二年前、最もひとつなぎの大秘宝に近かったその男の名を耳にした時、始めこそ瞳を大きく見開きはしたが、すぐに笑った。
「いまさら知ったところで何も驚かん」
なまえは彼らしい反応だと笑った。彼の思いの外、驚かない姿がなまえの心をほっとさせた。
「しばらくはここがあなたのお城になると思うけれど、また顔を出すわ、キング」
「ふんっ勝手にしろ」
キングは心なしか、嬉しそうだった。
ふと背後にこれまで感じ得た事がない威圧を感じた。それは、おいおいおい、と戸惑いの言葉を洩らしながらなまえに近づいてくる。
「おれの聞き間違いか…‼︎⁇聞き間違えならいいがァ事実ならおれァお前の首も持ち帰らなけりゃならねェ‼︎」
「…⁉︎だれ⁉︎」
なまえの前に現れた、左上半身に死川心中と刺青を刻んだその男。キングは叫んだ。
「なまえ‼︎そいつは海軍だ‼︎」
正義のマントを掲げたその男、海軍本部大将緑牛ことアラマキ。
「海軍⁉︎なぜ海軍がこの国に…⁉︎」
男は大振りな仕草でなまえに迫った。5本の指先が変形し伸びる。大樹の根を思わせるその指先がなまえに一撃を仕掛けた。
なまえは妖狐となり、四つの尾を鋭利な槍に変形させ、ぶった斬った。
「こりゃ驚いたァ‼︎能力者か…‼︎まァいい、そっちの方が手応えがある‼︎」
緑牛は血走った眼でなまえを捉える。
「なまえ‼︎戦うな…‼︎逃げろ‼︎こいつは今のお前には手に負えない‼︎」
そう声を上げるキングに、邪魔するなよ、と緑牛の一撃が彼の肉体を貫いた。
「キング…‼︎」
彼を慮る情がなまえに隙をつくった。綱のような根がなまえの体に絡む。ぐるぐると巻きつけられたなまえの体が自由を失い、宙に浮いた。
「…ッ‼︎…いやっ‼︎はな…して‼︎」
「らはは‼︎良い‼︎美女の悲鳴ってのはそそる」
ニヤリと笑う男の顔になまえは唾を吐いた。男の額にピキピキと青筋が立つ。途端に岩壁になまえを打ち付けた。破壊音が響く。なまえは気を失い、その場に倒れた。
「貴様…‼︎」
キングは緑牛の攻撃に遭いながらも胸底から込み上げる怒りの声を上げた。
「なんだてめェ!」
そう声を上げて攻撃を仕掛けたのはクイーンだった。負傷した体を機敏に動かし、幾本もの根が迫る攻撃を避ける。しかし、思うように体が追いつかなくなり、根が腹を貫いた。
「クイーンさん‼︎」
「あああァ〜〜〜‼︎あえてやせないタイプのおれがァ〜〜〜」
みるみるうちに細身になっていくクイーン。
残党達は破れ、緑牛の根に養分を吸い取られる。
緑牛は懐から手配書を取り出した。恨み深い麦わらのルフィの顔に愉快に笑った。
そして、気を失ったなまえをもう一度、根で担ぐ。いい収穫を得た、とさらに豪快に笑った。
賑わう宴の最中。花の都の外れにて緊迫した空気が流れていた。
外部からの殺気漂う侵入者に傳ジロー、雷ぞう、河松、ネコマムシ、イヌアラシ、しのぶが病み上がりの体を構えていた。
「…海軍でござる…‼︎」
「海外でのルフィ殿達の敵‼︎」
雷ぞうと傳ジローは緑牛に目を見張った。そして、男の斜め上で何かに絡まれ宙に浮く人の影に息を呑んだ。
「なまえ‼︎」
傳ジローの呼びかけに返事はない。なまえは気を失っている。
「ああ?こいつァおれの大事な手土産だ」
「ふざけた事を…!」
緑牛に家臣たちの怒りが伝う。
「あ痛たた〜‼︎覇気つ〜よっ…‼︎」
緑牛は更なる怒りを伴った強力な覇気に顔を顰めた。金棒を打ち付け、皆の前に現れたのはヤマトだった。
「ぼくはヤマト‼︎カイドウの息子だ‼︎‼︎なまえを離せ‼︎‼︎」
「カイドウのォ…⁉︎」
白ひげの娘にカイドウの娘。
「この国はどうなってんだァ‼︎」
緑牛は興奮を雄叫びに乗せた。
さらに桃色の龍が姿を現す。
「龍〜⁉︎」
「ボロブレス‼︎」
叫びと共に放った息吹はパフっと掠れた音と共に緑牛を唖然とさせた。
「とにかく‼︎なまえを返せ‼︎去れ‼︎都から見えぬ場所へ‼︎」
モモの助は力一杯に巨大樹と化した緑牛に噛み付く。モモの助の脳裏にはなまえに誓ったあの時の光景が過っていた。
ワノ国近海にて、赤髪海賊団の旗を掲げたレッドフォース号が内側に入り込んだ妙な気配を観察するように停船していた。
大頭、シャンクスは様子を伺いながら盃で酒を煽っていた。刹那———
『のう赤坊』
ふわりとシャンクスの耳を撫でる艶やかな声。
『久しぶりだな、ねぇさん』
シャンクスは両肩に気配を感じた。昔、彼女がよく背後からシャンクスの肩に腕をかけたように———その時の僅かな温もりを感じたのだ。
妖狐はシャンクスの耳元で怪しく笑った。
『久しいなァ。随分と男前になりおって』
その声にシャンクスも笑った。向かいに座るベックマンは何者かと言葉を交わす彼を静かに見守った。
『聞こえるじゃろう?少しばかり手を貸してやってくれないか。わっちの子が海軍に捕らわれた』
シャンクスの眉が僅かに動いた。生前の白ひげからシャンクスは妖狐との間に娘がおり、ワノ国にいると聞いていた。
『頼んだぞ』
妖狐は細い指先でシャンクスの頬を撫で上げた。そして、風が頬を掠めると同時に消えた。
「ヤマト‼︎おぬしは戦ってはならぬ‼︎」
「どうしてだよ‼︎何で僕は戦っちゃダメなの⁉︎」
ヤマトの力に頼らず、脅威に立ち向かおうとするモモの助にヤマトは叫ぶ。
「なまえに誓ったのだ‼︎もう奪わせはしないと‼︎」
決戦の終幕で腕に抱いたなまえに誓った言葉をモモの助は幾度も心に唱えた。
「ならぬ‼︎ぜったい手を出すな‼︎」
巨大樹の拳が桃龍の顔を殴った。根が龍の体に絡みつき、ドシィ‼︎と轟かせ、地に肉体を打ち付けた。
雷ぞう、傳ジロー、河松、と次々と家臣たちの身が捕らわれた。
「人間ごときが大自然にゃ敵わねェ‼︎‼︎」
「ルフィ達に頼ろう‼︎こんな奴に敗けないよ‼︎」
捕らわれたヤマトがモモの助に叫ぶ。しかし、モモの助は涙ながらに声を張り上げた。
「旅立つ者に頼っていては‼︎拙者達はこの先‼︎ワノ国を守ってゆけぬのだ‼︎」
桃龍の口から光が漏れる。
「出てゆけェ‼︎‼︎」
龍の息吹が巨大樹の身を焼き付けるように突き抜けた。
出てゆけ!出てゆけ!
モモの助は力の限り息吹を吐き出し続けた。彼に力を与える、大切な人を守りたいという思い。恩人達への義理。全てが力となって男を焼き尽くそうとする。
緑牛は新たな芽から巨大樹と化し、さらなる攻撃を仕掛けようとした。
しかし、それはどこからか発せられた蠢く強大な覇気によって戦意を削がれてゆく。緑牛は降参だと両手を持ち上げ、去っていった。
なまえは自身の名を呼ぶいくつもの声に重い瞼を持ち上げた。
「「なまえ‼︎」」
ヤマトの腕の中で意識を取り戻したなまえは、モモの助の涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔に微笑んだ。
「モモの助さまの声…届きました…ありがと……」
「ッ‼︎なまえ‼︎」
「大丈夫‼︎気を失ってるだけだ‼︎」
宴の最中、突如現れた脅威に外からの協力者にまた救われたモモの助達。
そんな彼らを少し離れた高台でルフィ、ゾロ、サンジ、ジンベイはそっと見守っていた。