ふとステージから光の速さで黒い影が一直線に伸びていくのを目にした。それは建物へ衝突し、破壊音と共に二人の姿を現した。
一方はキング、そしてもう一方の姿を目にした時、マルコは胸に込み上げてくるものを感じた。そして、それは自然とマルコの口を緩めた。
「もう少し‼︎そいつの相手を頼むぜ…お嬢…‼︎」
マルコは低空飛行し、麦わらの一味を確認するなり
「何か手伝える事はあるか?」
と突如として麦わら一味の協力者として戦力を投下した。
大方、状況を理解したマルコはカイドウ戦へとゾロを送る手立ては勿論、その他ここで足止めを喰らわせるわけにはいかないメンバーをこのフロアから開放することを約束した。
「ロロノア、屋上へ行きたきゃ飛んでやる」
少し待ってろよい、とマルコは一旦上空へと上昇した。そして、キングとクイーンの相手をするなまえに声を上げた。
「お嬢さん‼︎もう少しこの二人を任せられるか?」
「任せて…‼︎」
一瞬マルコへ目配せたその瞳はまだやれる輝きをしていた。マルコはその場に似つかわしくないほどに優しく笑った。
そしてゾロを持ち上げ、天を目掛けて飛んでいく。それを妨害しようとキングはマルコの元へ一撃喰らわせようとするが、なまえの尻尾に捕えられた。無事にゾロはドーム屋上へと飛ばされた。
「すまねェ助かったよい‼︎」
「こちらこそ!あなた相当強そう…‼︎一緒に彼らを止めてもらっても良い?もしかしたら…彼らを打てないかもしれないから…‼︎」
彼女の持つ力ならば、一人はすでに落とせていただろうと直感していたマルコ。彼女が攻防戦を続けるわけを知りたかった。
「なにか義理でもあるのかよい」
なまえはグッと奥歯を噛み締めた。そして大きく息を吸い、吐き出した。
「二十年間、育ててもらった…‼︎少しだけ情が湧いてるの…!」
彼女の真っ直ぐとした強い眼差し、頭部の耳までも天に向かって真っ直ぐと伸びており、背で揺れる四つの尻尾も優雅に、けれど逞しく、上を向いていた。
マルコは心なしか、その姿がいつまでも記憶にあり続ける親父の姿と重なった。
「…優しいんだな」
マルコは目頭に溢れる涙をグッと堪えた。そして、なまえと肩を並べ、向かいのキングとクイーンを挑発するように笑った。
キングにダメージを喰らわすタイミングをなまえは知っていた。しかし彼の持つ潜在的な能力、そして彼に対する情が邪魔をして、敵わない、となまえは肩で息をした。
「だいぶ息が上がってきたな」
「そんな事ないわ…はぁ、あっつい…」
なまえは着物の衿元を浮かせ、肩をすくめた。拍子に先程よりも胸の膨らみが露わになる。
「馬鹿者‼︎それ以上落とすな…‼︎」
キングの厳格な父親の如く叱る声になまえは笑った。その刹那、城内外全域に放送が流れる。それはドクロドームにて激戦を繰り広げているカイドウVSルフィ——その結末を知らせる内容だった。
「うそ…」
信じられないとばかりに立ち尽くすなまえにキングは当然だと云う様に毅然とした態度で彼女を諭した。
「どうやら、決着がついた様だ。無駄な抵抗は良せ。今ならまだカイドウさんもお前を許す」
許す許されないの問題ではない、となまえは首を横に振った。初めからなまえの心は光月家にある——ならばいっそここで死んだ方がマシだと、そう思った。
ふとなまえの目が龍と化したカイドウを捉える。今し方、耳にしたルフィの敗北を知らせる放送。今やカイドウの狙いはモモの助しかない。
なまえはマルコに向かって叫んだ。
「マルコさん‼︎ここを任せても!?」
「任せろよい‼︎お嬢‼︎」
つい口走ったとばかりにマルコは口をつぐんだ。まだ、時ではない。この戦を終えたら、あの日のように懐かしい話でもしようではないか、と駆け出す彼女の背中に「気をつけろよい‼︎」と声を上げた。
「オヤジ、見てるか。あのおチビが立派になった」
天を仰ぐマルコに隙ありとキング、クイーンは攻撃を仕掛ける。しかし、マルコはそれを防御した。あろうことか、跳ね返す。先程よりも一段強くなった、とキング達は身構える。
「お嬢の頼み…‼︎お前ら二人は俺が請け負うよい!!」
なまえは風を切った。炎上する光月城へ駆けた、あの日の様に疾風と化した。
「間に合って…‼︎」
待ち続けた今日という日を、敗北で終わらせるわけにはいかない。
『はたとせ…二十歳の辛抱を…‼︎』
「トキ様…‼︎」
『ワノ国の未来をモモの助と共に築き上げてくれ
‼︎』
「おでん様…‼︎」
突如、モモの助の目の前で突風が走った。
「モモの助さま」
なまえはモモの助に笑いかけた。同時に彼女の頭上に金棒が振り翳される。
「なまえ…‼︎」
金棒に潰されるなまえをモモの助は恐怖した目で捉えることしか出来なかった。
立ち込める煙に向かって、モモの助は泣きじゃくる声で彼女の名前を呼び続けた。
次第に薄らいでゆく煙の中からなまえは荒い呼吸と共に「ついに…傷つけたわね…‼︎」と笑った。
余裕などはなかった。それでもカイドウの絶望を露わにした顔をこの目に写したことが、全身の痛みを忘れるほどに快かった。
一方、カイドウは愕然とした。光月城でこの手になまえを捉えてから二十年間、決して一度も彼女に触れる事はなかった。触れてはいけないと思っていた。それは一種の呪縛の様なものだった。
ふとカイドウの脳裏に言葉がよぎる。それは長年カイドウを苦しめる言霊だった———
『残念じゃったのう、カイドウ。わっちはニューゲートの船に乗る約束をしておる』
カイドウは片腕を胸の高さに挙げた。大きく開いた手で拳を握る。それは何かを掴んだ気がした。しかし、その手を覗くとそこには何もない。
「なぜこうもお前たち妖狐はすり抜けていく…」
拳を握ると酷く震えた。それはカイドウの怒りを露わにしている。
意識を失い、床に倒れたなまえをカイドウは手に取った。
「なまえー‼︎‼︎」
モモの助の声はなまえの耳に届かなかった。