「あらら、相変わらず綺麗だ」
彼の上にまたがるといつもそう言ってくれる。ひんやりとした身体が触れていて気持ち良い。けれど一つだけ、あそこだけは熱を持っていて、不思議な気がして思わず笑った。
それを誤魔化す様に、
「海軍の大将さんならもっと上に行っても良いはずよ」
と口にすると彼は少しだけ寂しそうに眉を顰める。
「そんな意地悪な事言わないでよ、オレはあんたを気に入ってここに来てんだからさァ」
彼の大きな手がくびれを撫でた。少しくすぐったい愛撫に身を捩らせると、彼の硬くなった膨らみが擦れて下部がきゅっと締まる感じがした。
「そうですよね、ふふ、私もクザンが上に行ったら嫉妬しちゃう」
「嬉しいこと言うじゃないの」
彼の手が私の頬を撫でる。そのまま彼の手に引き寄せられる様に唇が重なった。彼の厚くて包み込む様な口付けにとろけそうになる。
海軍大将青雉ことクザンはわたしのお得意様だ。あまり海軍大将ぽくない、飄々とした雰囲気が一緒にいて居心地良い。触れ合う素肌の冷えた感触もこの夏日が続く島では毎夜、抱かれて寝たいと思わせる。
正義と悪、正義の方に席を置いている彼だけれど、悪に席を置く海賊と何も変わらないただの男にみえた。
「不思議。ここにいると海賊が大して悪いヒトに見えないの」
彼の胸にそっと身を寄せたまま呟いた。熱を帯びた身体が彼の体温で冷やされていく。
「あんたの客は今までどんなヤツがいたの」
「詮索?ふふ、あなただから少し教えてあげる。ちょっと前に政府お抱え、七武海のあの方が来たわ」
私の脳裏に浮かぶピンク色の鳥さん。クザンは納得していない様な顔をする。
「あまり良いネタではなかった?」
と首を傾げるとクザンは、いや、と笑った。多分、本当に彼が求めている答えがなかったからぎこちない笑みを溢したんだと思う。
ここに来る時、彼は仕事の話をしない。それが今日は珍しく私の客に興味を示した。クザンは適当な感じを出しているけれど、言動にはちゃんとした意味が伴う人だ。
「それにしても、あんたの能力はここでは無敵だな」
私がクザンの言葉の意図を探ってる間に彼は話題を変えた。きまぐれな彼のこうした言動に少し救われる。
クザンは私の頭に顔を埋めた。匂いを愉しむような素ぶりに私は思わず笑ってしまう。
「何を言ってるの。今は使ってないわ」
「てことはオレはフェロモンにやられてるってことかァ?」
「そういうことよ」
「こりゃ参った」
ふふ、と私は笑った。クザンと話していると気がラクになる。彼が私に抱く感情はとても単純で真っ直ぐだからか、安心感があった。
「ありがとう、クザン。あなたのおかげで上手に使える様になったの」
私が能力をものにしたはクザンの指導があったからだ。いまいち自分の能力を理解していなかった私に、その特性を教えてくれた。
「いや例には及ばんよ」
「もしかして私のこと…海軍へ引き抜こうとしている?」
「バレたか」
「ふふ、生憎だけど断っておくわ」
「残念だァ、オレ専属秘書の役職を用意していたんだが」
彼と軽口を挟んだやり取りは不思議とこの空間が商売の為の空間じゃ無い様な気がしてくる。ただ、恋人同士の憩いの様で。
「いつからなまえはこの島にいるんだ」
「…八つの時からよ」
「八つか…」
意味深長な呟きに私は首を傾げた。
「クザンにとってラッキーナンバーとかなの」
「いいや、寧ろバッドナンバーだ」
「まぁ!それは…失礼したわ」
まさかの返答に思わず口元に手に添える。冗談口調のつもりが、思ったよりも彼の感傷的な部分に引っ掛かる出来事がある様だ。
「その歳から独りってのはどんな気持ちだ?」
私は彼の言葉の意図をあまり深く考えなかった。
「どんな気持ちねぇ…あなたが期待するほどドラマチックな話でもないのよ?」
「構わないさ」
「奇妙な能力のせいで島から追放されてこの島に売られたのよね。ぎこちない能力の使い方だったけれど、まぁまぁ客も取れて、十年以上ここで上手いこと生きてるわ」
「…随分とあっさりだな」
「ふふ、だから言ったでしょう」
自分でも私がここで生きた月日は大したことがなかったのだと薄っぺらい人生史に呆気に取られた。
ふと彼に尋ねてみたいことが浮かんだ。少しの躊躇いからクザンに一層と距離を詰める。絡めた脚に少し力が入った。それに気づいたクザンは私の胸中を察したように肩に添えた手に力を込めた。
「ねェ、もしこの島以外で生きる選択肢が私にあったらクザンはどう思う?」
まるで何かを示唆している様な気がして、彼に勘付かれるのではないと思った。けれどクザンは表情を変える事なく、私の顔に掛かる髪を撫でた。もしかしたら不安げに眉が下がっていたのかも知れない。
「なまえが望むならその道に行ってもいいんじゃねェか」
「…そう」
彼はとても優しい。私を否定しない。こういう時、クザンの偉大さを実感する。私は少しばかり気が晴れた。
そして冷えた身体に熱を戻す為に、彼の上にまたがる。
「そしたらそうね、次会う時は敵かも知れないわ」
「女海賊にでもなるつもりか」
私の挑発的な口ぶりにクザンは笑いながら云う。
「そうかもしれない」
「そしたらオレはどこまでも追いかけるぜ」
意外にも意欲的な彼の言動に目を丸くした。けれど、すぐに綻んだ。海に出てもクザンが私を追いかけてくれる。たとえ敵だとしても彼の存在を身近に感じられるのは嬉しい。
「ダラけきった正義がやる気のある正義になるわね」
「そりゃぁオレのモットーに反するなァ」
そう言ってクザンは頭をかいた。そんな彼に口付けをひとつ落とした。