Whom God will destroy
he first makes mad.

この荘園と呼ばれる箱庭は、一つのゲームを繰り返し行っている。

端的に言えば、鬼ごっこ。
明瞭に表せば、脱出ゲーム。
ハンターが捕まえて、サバイバーが逃げ切るだけの、ごっこ遊びのようなもの。
だけれどその内容、、は、遊びというには些かバイオレンスに満ちていた。

ハンターはサバイバーを各々の凶器で嬲るのだ、、、、
刃物から始まり、鈍器、糸、人形、果てはよく判らない不味そうなタコ足みたいなものまで。
それらのものをハンターは駆使して、サバイバーを嬲り、甚振り、己の勝利の為に椅子に座らせる。

椅子に座れるのは二回まで。
三度座れば強制送還、、、、だし、一度でも耐久時間、、、、を超越すれば、あっという間に館へと戻される。

送還──いいや、飛んだ、、、サバイバーは脱落扱いで、次のゲームまでもう観戦するかしないかの選択肢しか与えられない。
そう、観戦室で、嬲られる仲間の奮闘を見るか見ないかの選択肢しか与えられないのだ。

声もなにも届かない。
ただ、這いずり回って脱出を目指す仲間の姿を見守るだけ。
悪趣味だと罵ってもいいけど、まあ、選ばせて貰えてる時点で趣味、、は良い。
これが邪神だったなら、強制的に観覧席に括りつけ、、、、だろうから。

サバイバーは、それぞれがそれぞれの"役目"を持っている。

脱出に必要不可欠な"ゲート"を開くための暗合機の──例えばこれの解読の早いものや、補助するもの。
開始直後にハンターの居場所を察知したり、椅子に括られた仲間を救出する等の特殊技能を持ったもの。
そうして、解読に手間取る代わりに、ハンターに対して攻撃手段を持っているもの。

大まかに言えばこの三つ。
そうして、私の役目はこの三つ目のもの。

私の武器は、日本刀。
今は昔な戦国時代なんかで愛用されていた、とある刀。
種類は知らない。刀派も知らない。
私が知っているのは、ただ刀が刀であるということ。
そうしてこの刀に、私が選ばれた、、、、ということだけだ。

この刀に出遭った切っ掛けは、些細な異変。事件。騒動。
それらが巡り巡って絡み絡んで私はすっかりこの刀に取り込まれてしまった。
恐らくはもう、逃れるすべはないし、手離して、、、、貰えるこ、、、、ともない、、、、

私は一生、死ぬまで、これと一緒の運命で。
私はこれが欲しがるままに、刀を振るうただの肉袋。
別にそれはいい。別にそれは、問題じゃない。

──問題は、私がこのゲームに懸ける願いがない、、、、、ということだ。

どういう理屈なのかはわからないけれど、このゲームを勝ち進んだものは"荘園の主"によって"願い"が叶えられるらしい。
それは膨大な賞金であったり、追い求める技術であったり、失われたものであったり。

形は様々、求める形もばらばら。
だというのに、荘園の主は勝ち得たものにそれ、、を与えるのだという。
どうやったら勝ち得るのか、、、、、、のルールさえも明確化しない癖に。
不思議な規則だけはこちらに与えて、ゲームを続けろとただ指示をするのだ。

ここに居る人間サバイバーは皆何かしらの願いを持っている。
それは膨大な賞金であったり、追い求める技術であったり、失われてしまったものなんか。
各々が、自らの願いを求めてこの狂った遊戯に身を投じてる。
だけど私にはそれがない。
だけど私は、このゲームを続けてる。

──こえ、声が、聲がする。
囁いてる呟いてる、響き渡る、頭の中の言葉が止まらない。

切りたいといっている。斬りたいと言っている。
切ってどうするのかわからない。斬ったらどうなるのかわからない。
ほんとはわかる。でもわかりたくない。でもわからなきゃいけない。でもわかりたくはないのに。
──きらねばと、こんがらがった私の頭はそう理解してしまう。

カラカラと、ダイスは回る。
ケラケラと、誰かが嗤う。

知らない筈なのに知っている。
知らない筈なのにわかってる。

ゲーム。
ゲームだ。
ゲームを続けなきゃ。

合法的に。
求められて。
否応なしに。
必要だから。
──わたしはここでハンターをきる。

赤い鮮血に、心震えるの。
それは果たして誰の心かわからないけれど。
呻く声音に、心が躍るの。
それは果たして己の心は知り得ないけれど。
肉を切る感触に、心が疼くの。
それが果たして、私の心とは限らないけれど。

頭の中が、ぐるぐる絡まる。
いつも、いつだって同じ、ダイスの音と一緒に揺れる。

ああ、窓に、窓に。
──窓のアイツも、いつか、きれるかな?

判定は、失敗か。