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merry cristmas!

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04.


秋の色が濃い噴水広場に、濃赤の髪は自然なほど溶け込んでいた。
フード付きのパーカーにジャケットという無難なスタイル。それでもオシャレに見えてしまうのは、本人のスタイルの良さに起因しているのだろうか。

むすっと不機嫌そうな丸井は集合場所に立ちながら、いつものごとくガムを膨らませている。

そんなに嫌なら会わなければいいのに。というか別れてくれていいのに。
なんて、最低な雑な考えばかり浮かぶ。
別に他意はない。僻んでいるわけでも、穿っているわけでもない。

丸井のことがよくわからないだけだった。

理由はよくわからないのだが、丸井は私のことを好いていてくれているのは、間違い無いのだろう。
頭の裏に過るのは英語の回答用紙を渡した時の真っ赤な顔。
ひどい言葉ばかり返しても、それでも会いたいと彼は言う。

丸井は少し観察するだけで分かりやすく、素直な青年だと思う。モテるのも納得だ。
表情がすぐ表に出るために勘繰らなくてもよく、共にいて過ごしやすい人間だと感じる。私以外にも選びたい放題なこと、もっと気楽に付き合える女子がいることをよく知っている。
だからこそ、まだ付き合って一週間で「一週間もよくこんなのと付き合っているな」という気持ちにさせられるのだ。

「丸井、どこ行きたいの」

合流して挨拶もそこそこ、グダグダとその場に佇んでいても仕方ないので単刀直入に話題を切り出した。

「‥どこ‥‥?」
「特に何もないの」

どこに行くかは特に計画などないまま、休日の外出に誘ったらしい。
丸井はじとっと私の全身を、じろじろと不躾なまでに見て言った。

「おまえんち、行きたい」

腐っても付き合ってまだ一週間である。
すごいな。顔にヤりたい、って書いてある。なんてわかりやすい男だろうか。
ここまで目的がはっきりしていると逆にさっぱりするというものだ。

性交渉自体は特別好きでも嫌いでもない。

ただ目的もなくブラブラと町歩きなど間が持つかどうかもわからないことをするよりは、親のいない家で適当に性行為を済ませてもらった方がその後私がゆっくり過ごせるかな、と思った。
そのため、私はいいよ、と言いながら頷く。丸井は少しだけ驚いて、意味わかってんのか?と聞こえるかどうか分からないくらいの小さな声で言った。口に出したつもりはなかったのかもしれない。

「意味がわかって言ったけど。ゴム持ってる?」
「バ、バカ!ゴムとか言うんじゃねえよ!」

丸井の方が声が大きくて目立っている。通行人のの視線を感じたのか、丸井はバツが悪くなったような顔して、口を噤んだ。
私は表情の変わらないまま行こう、と丸井を促すと、彼は更に不機嫌そうな顔になって、手をぎゅっと力強く握ってくる。
指と指がからまる、いかにも恋人らしい握り方でとても抜け出せそうにない。

「痛いんだけど」
「わりぃ」

それでも力抜かないのかよ。痛いよ。

私はやや、呆れた。



「はあッ‥」
「ぶ‥は」

親は忙しくしていて普段家にいない。
一人でもいいと、人に興味をあまり向けなくなったのは恐らくは家庭環境のせいもある、と思わなくもないが、全てを親のせいにするつもりもない。
シャワーも浴びないで、恋人になった丸井とふたり、性急に私のベッドになだれ込む。猫のようだと思っていた目は今は獣のようにぎらついている。こういうサバンナの動物、いたな、と思うが名前は思い出せない。

「なあ、もういれていい‥?頼む、いれたい‥‥すげ、くるしい」

胸にご執心の丸井は右の乳首にしゃぶりついて、左の乳首を指でつまみながら太ったペニスを太ももになすりつけてくる。
力加減を知らないように、彼はまるで童貞のように胸をとにかく強く揉みしだいて堪能した。そんなおざなりな、自分本位の愛撫でも多少は刺激に感じて、乳首がたつとそこを熱心にしゃぶって齧る。喘ぎ声はほとんど出ない。恐らくは体質なのだと思っている。多少の気持ちよさを抱えながら、天井を無感動に見つめていた。

億劫な体を動かしてベッドサイドにあったゴムのパッケージを引っ張りだして彼に手渡すと、熱情で赤く染まっていた丸井の顔が冷却器にでも入ったかのように真顔になった。
その温度差に、背筋が一瞬ぶるっと震えた。

「なあ‥なんでゴム持ってんの‥?」
「なんで、って‥自衛のため」
「いつ買ったんだよ。俺と付き合う前だろ」
「そうだけど」
「はあ?なんだよ、‥それ」

そんなに乱雑に扱ったらゴム破けますよ、と言いたくなってしまうような雑さで丸井はゴムを開封すると、大きさを維持したままのペニスにゴムを被せて雑に侵入してきた。
そこそこ濡れてはいたものの、丁寧に愛撫されていたわけでもないそこはやや苦しさと痛みを覚える。しかし顔をしかめるくらいで口には出さなかった。

「んだよ、‥‥ナカ、気持ちよくねえ?」

そんな私の顔をみた丸井は、彼の方がよほど苦しそうな、泣きそうな、不思議な表情で彼はそれでも笑った。
それは美しい笑みだった。人間にしか出来なさそうな、複雑な感情の入り混じった貌だった。

「よく、わからない‥気持ちいいとか気持ちよくないとか‥だから丸井の好きにしたらいいよ」
「馬鹿、‥お前も気持ちよくなんねえと意味ねえの‥馬鹿だな、気持ちよくなけりゃそう言えって‥。それでも抜かねえけど」

そこに差し込んだまま、丸井は陰茎を勃たせたままで、一転真剣な顔をしてまず私の頬にキスをした。そして、好きだよ、と囁くのを、私は不思議な気持ちで受け取る。
先ほどまでの年齢相応な愛撫はどうしたのかと思ってしまうほど、ゆっくりとした人を慈しむ動きだった。
丸井の猫のような目の中には、焔があった。それが何なのかはよく分からない。熱情なのか欲情なのか、それとも愛情なのか。
大切そうに私の頬に触れ、ふに、と親指の指先で唇に触れる。いかにも青年らしい、運動部の日に焼けた指で。

そしてそっと、くちびるを重ねた。セックスの方が先で、キスの方が後だった。そんなことを意識したわけではないのだが、これほど優しいキスはされたことがなかった。そんなことを思うくらい、羽が落ちたような優しいキスだった。
丸井の唇がひらき、舌先がノックしてくる。口の中にいれてくれ、と丁寧に催促してくる。少し開いた唇から、にゅる、と舌が滑り込んできた。
舌先がやさしく、あまり丸井のキャラクターからは想像できないほどの優しさで、口の中を撫でていく。くちゃくちゃという音とともに、丸井の腰が動いて、膣の中を撫でる。快楽の種を探るような動きで。時折、耐えがたいようにぐちゃ、と奥を目指して抉ってくる。
ぴり、と何か、快感の源が、そっと反応した気がした。

「おれ、‥」

ちゅ、と丸井の唇が私の唇をやさしく挟みながら、彼がやや後悔しているような表情で、それでも快楽に染まりながら言った。

「俺、‥もっとお前のことが知りたい‥。気持ちよくお前が喘いでるところが見たいし、苗字に‥俺に興味を持って欲しいし、もっと一緒にいたい‥やさしく、したい」

ぐちゃぐちゃと粘度の高そうな音。愛液が溜まる。は、と熱い息が溢れる。
丸井は全身で、私を好きだと告げていた。余裕がないくせに、もっと自分本位に動いて構わないし、怒ったりもしないのに。
何となく、泣きたい気持ちになった。何故だろう。


丸井はすき、好きなんだ、とただそう言いながら、私のことを最後まで気遣いながら、果てた。