久々に夢を見た。真田くんの夢だ。
中学3年生の秋頃だった。




いつも通りの朝だった。靴箱を開け上履きに履き替えようとすると、何やら白いものが上履きの上に乗せられている。何だろう。恐らく半紙だ。書道で使うぺらぺらの薄い紙。
丁寧に、半紙の封筒に入れられたそれ。中は紙は折り畳まれており、ふいに開くと墨の匂いがする。
果たし状だった。なんで。
動揺し、半泣きになりながら教室で茜にすがった。

「ね、茜、茜、たすけてどうしよう」
「どうしたよ」

困惑気味に問い返してくれた友人に、薄い紙を渡す。宛先も入っていないので、違う人の下駄箱と間違えたのでは?と冷静に判断してくれた彼女にひどく安心した。果たし状も嫌なのだが、自分が人にそんな手酷い恨みを買っていると思うと落ち込んでしまう。
しかし下駄箱の並び順からして、両隣も上下も女子だったはずだった。果たし状を入れられるような好戦的な女の子たちでもない。
一体誰が、誰と間違えてこれを入れたのか。

「放課後五時に校舎裏にて待つ、って。なんじゃこりゃって感じだよね」
「あ、茜。もう怖いし、それ、仕舞おうよ」
「びびり」
「ビビリじゃなくてもそれは怖いよ!」

「それは弦一郎から、確かに苗字宛の手紙だ。是非放課後、話を聞いてやってくれ」

透き通った声がそう告げる。驚いて彼を見つめた。同じクラスでもそんなに話したことはない、柳くんだ。はくはくと口を開閉させながら柳くんを見ると、そんなに驚くことか?と首を傾げられる。

「あ、えっと。弦一郎、って…」
「…………ああ、すまない。そこからだったか。真田弦一郎。今はもう引退したが、テニス部副部長だった男だ。」
「えっ…えっ?!」

真田くんは、去年同じクラスだった男の子だ。柳くんと同じく、会話をしたことは殆ど無かった気がする。同じ中学生なのに、大人びていて声が大きくて。雰囲気が硬くて古風な印象の彼。テニス部のレギュラーと噂に聞いたことがある。
わたしは一方的に彼を苦手としていたけれど、確か女子にもそれなりに人気があるようだった。運動の得意な男の子は得てしてモテるものなのだ。

「真田くん、に、そんなに恨みを、買ってたのかな」
思考をぐるぐるさせながら考える。柳くんは少し笑って、言った。
「そんなにマイナスに考えないでやってくれ。弦一郎は少々不器用でな。あまり身構えることもない。ただお前に話があるだけだ」
「そ、そうなんだ?」
でも一体どんな話なんだろう。わかるはずもないけど、取り敢えず行けばいいのかな。

へらりと笑うと柳くんは安心させるように真田くんの話をしてくれた。真田くんはちょっと変わっているようだ。去年から何となく知ってはいたけれど。しかし、柳くんは落ち着いていていい人だ。喋れてよかったなあ。にこにこと笑いながら話を聞くと、柳くんも少し嬉しそうにしてくれた。


放課後、それでもやはりおっかなびっくりで校舎裏に向かうと、もう真田くんはそこに立っていた。瞼を閉じて壁にもたれかかり、何かを考えているようだった。背が高い。近付くと、しゃり、と靴が土を磨り潰す音がする。その音に真田くんは目を見開いた。

「えっと、真田くん」
「…………来たか」
「う、うん………」

硬くて、鋭い目がこちらを見る。真田くん、こんな目をしていたのか。少し怖くて、すごく、熱い目。何も言えなくなって固まる。黒目の裏に赤いものが灯っているような、そんな。

「俺と、つきあってほしい」

冷たくなって来た風が揺れる。何を言われたのかよく分かっていなかった。それでもいつの間にか、絞り出すように答えていた。

「…………はい」



わたしはあの真田くんの、不思議な目に惹かれたのだ。恋をしたと思った。好きになるのだと、そう思った。


ぱちりと目を覚ます。不思議と涙がつたっていた。



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