ガチゲーマーな彼と私


『はぁ、マジか…ドブガチャ…。』

「あ、キタコレ。SSRだわ。」

『は、おま、許さない絶対。』

「でも俺欲しいのもう一つのほ…、」

『今すぐ口を閉じろ。さもなくばそのデータは消える。』

「すみません。」

私と茅ヶ崎至の関係は、俗に言う恋人というやつだ。だからと言って特別なことは何もない。付き合う過程は今思い出せばこっぱずかしい限りだが、今はもう付き合う前と変わらないゲーム仲間、と私は思っている。もちろん至に対しての感情は他の男の人には抱かないものだけど。

『あ、もう帰らないと。』

「え、いいよ。泊まっていけば。」

『いやいや、寮なんだからまずいでしょ。ここに入るのだってここの監督さんと支配人さんと怖いヤクザさんに特別に許可もらってんだから。』

「…あっそ。」

あ、ちょっと拗ねたかな。至は外での素行が良い分、ここではありのままの自分をさらけ出す。わりと子供っぽい部分もあるのだ。

『今度うちおいでよ。』

「ん。」

『じゃあね。』

至の部屋を出て外へ向かう。帰りに魔法のカード買いに行こうかな。さっきドブったし。

「あれ、みょうじさん?何してんすか。」

『あ、NEOじゃん。おつおつ。至んとこお邪魔してた。』

「ハンネはやめろって。もう帰るのかよ。早いっすね。」

『あんまり長居してもね。一応部外者だし。』

「ふーん、至さん拗ねてんじゃねーの?」

『ちょっと拗ねてた。まぁ、また会えるし大丈夫でしょ。』

「わかってねーなぁ。ま、俺には関係ねーけどさ。今度この間出たやつやりましょーね。」

『ああ、あのゾンビのやつね。おけおけ。じゃあね。』

万里に別れを告げ私は自宅へと帰った。誰もいない自分の部屋は、なんとなく殺風景で、柄もなく至が恋しくなってしまった。LIMEで道端にいた猫の写真を送ったけど既読無視されたので、とりあえず乙ゲーに没頭した。3次元の男心なんてわからん。


***


『お邪魔しまーす。』

一週間ぶりに至が住む寮にお邪魔する。毎度毎度至の部屋に入るまでの時間が憂鬱だ。正直ここでは万里と至以外誰にも会いたくない。

「みょうじさん?」

『うわああっ…って万里か…。お邪魔してます。』

「何もそんな驚くことねぇだろ。」

『いや、ちょうど至と万里以外の人と会いたくないなって思ってたとこだったから。』

「へぇ、俺も至さんと同じ枠なんだ。」

『まーネトゲのフレンズだからね。』

「その言い回しやめろよ。獣がチラつく。」

万里はやっぱネトゲ友達だからか接しやすい。万里自身もわりとフランクに接してくれているし。こちらとしては気を遣わなくてありがたい。

「そういえばここ一週間至さんの機嫌がすげー悪かったんだけど喧嘩でもしたのかよ?」

『え?してないしてない。まぁ、LIMEはしてないけど。』

「うわ、マジかよ。」

『だってこの間既読無視されたし。まぁいいやと思って。』

「みょうじさんドライ過ぎ。なんで至さんと付き合ってんの?」

『なんで…………………?そんなの…、』

「へぇ、なかなか来ないと思ったら万里と楽しそうじゃん。」

「『げ、』」

思わず万里と声を揃えた。何故ならスーパーめんどくさそうな至が現れたからだ。口は笑ってるけど、目は笑ってない。こういう時の状態の至は本当にやばい。

「万里、監督さんに今日は部屋にこもるから晩飯いらないって言っとけ。」

「はぁ…へいへい。じゃあ頑張れよみょうじさん。」

『は!?逃げんの万里!裏切り者!』

「お前はこっち。」

ぐい、と手を引かれ至の部屋へと連れ込まれる。仄暗い部屋は相変わらず汚い。そのままベットへポイっと投げられ、私の上に至が覆いかぶさった。

『…。』

「…。」

『何。』

「何が。」

『ゲームしないの。』

「今日はしない。」

『じゃあ、何すんの。』

「…。」

『…。』

至は不機嫌そうにジッと私を見つめるだけで、特に何もしなかった。負けじと私も至をジッと見つめたが、しばらくすると彼ははぁ〜〜〜〜と長いため息をついて、私に体重を預けて寝始めた。重い。

「何なのほんとみょうじの攻略wikiどこにあんの。」

『知らん。』

「みょうじめんどくさいの嫌いじゃん。」

『うん。』

「俺今すげーめんどくさくなってる。」

めんどくさいのは確かに嫌い。束縛されるのも嫌い。それは至も同じ。私達二人は特別な感情だけで縛られなくてもいいとは思う。気楽な仲でいたい。だからと言って、今至が感じてる感情を否定したいわけじゃない。

「なんで俺と付き合ってんの。みょうじにはそういう感情ないかもしれないけど、俺は名前とキスもセックスもしたいって思ってますよ。」

『至、』

「何。」

『私だって、ちゅーしたいって思ってますよ…、』

恥を捨ててそう口に出すと、その直後至はガバァッと私に体重をかけるのをやめた。やめろ顔を見るんじゃない。

「もう一回言って。」

『言うか!!』

「今ちゅーって言った?ねぇ、ちゅーって言ったよね?」

『やめて、死ぬほど後悔してるから。』

あまりの恥ずかしさに思わず両手で顔を覆った。ほんと柄じゃない。こうやって誰かに気持ちを伝えるのも、誰かと一緒にいたいと思ってしまうのも。

「みょうじ、」

『っ、』

両手を顔から退かされ、優しく唇を落とされた。本当に触れるだけのキス。顔に熱が集中するのが嫌でもわかってしまった。こういう時の至は少し恍惚とした表情で、獲物を見つけた獣みたいに笑う。

『いた、る、待っ…、』

「待てない。」

『ほんと待って!!時間限定クエが終わる!!!!」

「……………は?」

『今日の限定クエ逃すと次いつ上限解放できるかわからないの!お願い協力して〜!』

手を合わせて至に懇願した。お願い、こればかりは譲れないの。という顔がもろに出てたのか、至は私の上から退き、私を起き上がらせてくれた。

「ほら、早くやるよ。」

『ありがとう至!』

とは言ったものの、やっぱり至に申し訳ないのでスマホどこだっけ…と探す至のスカジャンの裾をぐいっと引っ張り、至の耳に手を添えた。

『続きはまたあとでね。』

「!!〜〜〜〜っお前、ほんとあとで覚悟してなよ。」

『マジか、死亡フラグ。優しくお願いします。』

「拒否。」



これがガチゲーマーな私と彼の日常。



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