脅されて結婚しました


『は…?結婚…?』

「そう、結婚。君独り身だから問題はないよね。」

目の前の彼は一体何を言っているのだろうか。何か文句ある?と言いたげな表情をする彼に私はまだ理解が追いついていない。花屋の仕事をしていたら急に現れて急に結婚しろと命令されたら誰でも理解が追いつかないだろう。

『酔ってるんですか?』

「そんな風に見えるなら君の目は節穴だね。」

かっちーん。女にプロポーズをした男とはまるで思えない態度に思わず出て行けと言いそうになった。しかし言えるわけがない。彼はこのイタリアで最も大きいマフィアの一員だからだ。花屋を潰されかねない。というか私が消されかねない。

『ど、どうして私なんですか?雲雀さんならもっと素敵な女性がそばによりどりみどりだと思うんですが…、』

「香水まみれでギラギラ着飾った品のない女は嫌いだよ。君くらいがちょうどいい。」

『ああ、私みたいに質素で地味な女がいいんですね。ふふふ。』

失礼過ぎるこの男をどうやって撒こうか必死に策を考えたが、どう考えても無理だ。きっと丁重にお断りすれば帰るだろう。

『申し訳ありませんが、私はまだ結婚する気はありませんので。他をあたっていただけますか?』

「君に拒否感はない。僕だって嫌なんだ。でも妻がいれば社交の場でけたたましい女子が群がらなくて済むでしょ。」

『女避けってことですか。尚更お断りさせていただきます。どうぞお帰りください。』

「なら契約を切ろうか。」

『はっ!?』

「君が僕と結婚しないのならボンゴレ御用達の花屋とはさよならだ。」

そう、私の花屋はボンゴレからご贔屓にしてもらっていた。ボンゴレボスである沢田綱吉さんがここを気に入ってくれたらしく、定期的にボンゴレの屋敷に花を届けているのだ。わりといい値段で買ってもらっているし、助かっていた。それを盾に脅されるとは思ってもいなかった。

『脅しじゃないですか!』

「そうだよ。何か文句でもある?僕と結婚すればあの屋敷の庭も好きに使っていい。」

『えっ…、』

「どうする?」

『……………1週間ください。』

「3日、それ以上は待てない。」

仮にも結婚を申し込んだら側なのになんで彼はこんなに偉そうなんだ…!!しかし私も一応彼はお客様であるため、強くは出れない。お客様じゃなくても強く出れないけど。

『わかりました。3日後にまたお越しください。』

「時間を取っても変わらないと思うけどね。」

彼はそう吐き捨てて出て行った。塩でもまいてやろうか。日本から出たこのイタリアの地でなんとか上手くやってきた結果がこれだ。沢田さんは優しいし、良くしてもらっていたけど、雲雀さんとは関わったことなんて一度もない。同じ日本人が多いボンゴレは私の心の拠り所となっていたが、流石に結婚はできない。というか雲雀さんと結婚するなんて断固お断りだ。

『うん、逃げよう。』

私はここの花屋を捨てて逃げていくことを決めた。そうとなれば早速行動開始だ。猶予は3日間しかない。とにかく花を売ってここを解約しなければならない。私はすぐにセールを開始し、出て行く準備を進めた。

花はすぐに全て売れた。よかった、どうか元気に育ってね私の大切な花達。土地も解約し、あとは数少ない荷物を持って出て行くだけだ。3日目の早朝、日が昇りきってない空にはまだ月が光っていた。これからどうするかは決めてないけれど、きっと何とかなるだろう。キャリーを持ち、花屋だった建物にお辞儀をする。

『さよなら、私の花屋。』

ガラガラとキャリーを引き、イタリアの街を歩いた。当然、誰もが寝ている時間のため人っ子1人いない…はずだった。だが、私の進む先にはどう見ても人影が1つある。嫌な予感がした。その人影は私にゆっくり近づいてくる。そして、ようやく顔を出した太陽が、ゆっくりとその顔を照らした。その顔を見て青ざめたなんて言うまでもない。

『ひ、ひひひ雲雀さん…。ななななんでここに…っ、』

「君の考えてることなんて手に取るようにわかるさ。」

こつり、こつりと彼は私に近づいてくる。そして、懐から何かを取り出した。それは普段見ることのない黒く恐ろしいもの。

「僕は普段こんなものは使わないんだ。でも逃げようとした君にはマフィアらしいやり方がいいと思ってね。」

ガチャリ、と音を立ててそれは私の額にあてがわれた。最初から私に選択肢など存在しなかったのだ。

「僕と、結婚するよね?」

『……………はい。』

銃をプロポーズ相手の額にあてがってプロポーズをする男なんて世界中探しても彼だけなんだろうな、と両手を上げながら私は空を見上げたのだった。

こうして私と雲雀さんの結婚生活が幕を開けた。



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