魔術と剣術と武術
「さぁ、莉亜様!頑張りましょう!」
そう言って張り切った様に私の前に大量の本を置く、私のお世話係兼教育係りの侍女カナンさん。そう、今日から私はこの世界のありとあらゆる知識を身につける。まずは字の勉強から。話せるが、字は読めないし、書けない。字の読み書きが出来ないのは不便で仕方ない。ので、とりあえず頑張ろうと思います。
「莉亜様…莉亜様っ!」
『はっ、はいいいっ!』
頭の中で文字が流れる中、一気に目が覚めたような感覚になった。もちろん寝ていたわけじゃない。我ながら集中し過ぎてどれだけ時間が経ったのかもわからない。
「もう夕刻です…!体を壊してしまいますよ…!」
『え、ええ?もう夕刻ですか?』
そっか、そんなに時間が経っていたのか…。と意識をした瞬間にお腹がきゅるると鳴った。
「莉亜様ったらお食事も取らずにずっと勉強してましたから。」
『あ…そういえば後でって言って食べてませんでしたね。』
「シンドバッド王様も心配しておりましたよ。」
『ええっ!?王様いらっしゃったんですか!?』
「はい。職務の休みの合間に莉亜様の様子を伺いに来られました。」
『なっなんで言ってくれなかったんですかぁ!』
「王様ご自身が、莉亜様の集中力を途切れさせてしまうからと…、ふふっ、莉亜様は本当に集中していたんですね。」
『笑い事じゃないですよっ!王様を無視するなんて…ああ…、』
王様が来たのすら気づかないなんて…、切羽詰まってたのかなぁ。早く知識を身につけて帰りたいって気持ちが大きいのかもしれない。はぁ…とため息を一つ。とにかく王様に謝罪しなければ。
『王様に謝りたいんですけど…会えないでしょうか…。』
「それでしたら、夕刻にまた来ると仰っていたのでもう少ししたら…、」
「莉亜!調子はどうだ!」
バタンと大きな音を立てて王様が部屋に入ってきた。私はすぐに立ち上がって王様に謝った。
『もっ、申し訳ありませんでした!王様がいらっしゃったのにも関わらず気づかないなんて…申し訳ありません!!』
「気にするな!あそこまで集中出来るとは感心した。字は覚えたか?」
『はい。もう字の読み書きは出来るようになりました。ただ少し時間はかかりますが…。』
「ほぅ…一日で読み書きが出来るとは大したことだ。本当によく出来る子だ。」
そう言って私の頭を撫でる王様。なんだか子供扱いをされているみたいだ。いや、実際子供だが。
『カナンさんのおかげです。カナンさんの教え方がいいのでとても助かります。』
「彼女は俺が選んだ侍女だからな。当然だ。」
「勿体無いお言葉です。」
和気藹々と話している途中で空気が読めないのは私のお腹。きゅるるとまたお腹が鳴ってしまって、もちろんそれは王様にバッチリ聞こえてしまった。
『こっ、これは…あ、えと…、』
「ぷはっ!お腹が空いているのか!早く言ってくれれば良かったのに。さぁ、食事の時間だ。行こう。」
『え、え、私はここで食べるんじゃないんですか?』
「いや、君と少し話がしたくてね。君の今後についてだ。」
『今後…?』
私は言葉の意味もわからないまま、王様の後へとついていった。食事をする場にはヤムライハさん、シャルルカンさん、マスルールさんがいた。
「さぁ、揃ったな。今から話すのは莉亜の今後についてだ。」
「力…についてですね。」
「ヤムライハの言う通りだ。莉亜には自分の身を守る力をつけてもらいたい。莉亜は武術と剣術を嗜んでいたと言っていただろう?故にその力を高めることが良いと思ったが、ルフが見えるということは魔導士の素質もある。何を極めることが莉亜にとって良いことなのか。」
「そりゃ剣術に決まってるじゃないっすか〜!なぁ、莉亜?」
『は、はぁ…。』
「はぁー!?何言ってんのよ!魔導士になるに決まってるでしょ?ルフが見えるなんてそうそういないのよ!?ねぇ、莉亜?」
『えっ、は、はい…。』
「武術も向いてると思うッス。身体能力も高いし。」
『ありがとうございます…。』
え、えええ。どれを極めるとかそんなのわかんないよ。剣道も合気道も剣術とか武術とか言われる程のものじゃないし、魔法も使える自信がない。
『あの…欲張りだとは思うんですけど…自分に何が合っているのか試してみたいんです。』
「お試し期間ということか。いい案だ。どうだ皆。」
「もちろん大丈夫です。魔法が一番って言うのを証明出来ますからね。」
「剣術が一番ってのをどっかの魔法オタクが思い知ることになるなぁ。」
「いいっスよ。武術が一番なんで。」
また言い合いを始める二人とそれにちょいちょい介入するマスルールさん。もう先が不安でしかない。でも一人で生きていく術を身につけられるならどんなことにも耐えてみせる。帰れないことより辛いことはない。
『あのっ!』
「「「ん?」」」
『ご指導よろしくお願いします!!』