突きつけられた現実

「さぁ、お嬢さん。君の話を聞かせてくれるか?」

なんて言いながら玉座に座っている紫色の髪をした男の人。そして、その周りにはその人を守るように八人の人…じゃないのもいるが、立っていた。見れば紫色の髪をした男の人は偉い人で、おそらく王様とかそのような類のものだとわかった。

だいたいこの人達に自分の素性を話していいのだろうか。こんな腕を拘束されて、話を聞く気もあるかわからない。私はこの人達のことを何も知らないのに。そう思い始めると何だかムカムカしてきた。私の素性を知ったところでどうせ殺すんでしょうに。と目で訴えてみた。が、玉座に座る彼はキョトンとして、いきなり笑い出した。

「はっはっは、そういえば俺の名を教えていなかったな。俺の名はシンドバッド、この国の王だ。」

ああ、やっぱり。でも私が想像していた王様のイメージのかけ離れているなぁ、この人。

『私は市瀬莉亜と言います。市瀬が姓で、莉亜が名前です。』

「莉亜か、良い名だ。それでは莉亜。君はどうしてあの泉から出てきたんだ?」

早速本題に入る王様。そして私は一つの疑問を抱いた。私は泉から出てきたのかと。

『わかりません。自分自身が泉の中にいたことすらわかりませんでした。』

私がそう言った瞬間、王様の周りにいた人達がざわめいた。そりゃそうだ。私が言っていることは相当頭のおかしいことなのだから。でも私は嘘をついてはいない。それは事実なのだから。

『私は、母と父と三人で暮らしていました。普通にご飯を食べて、普通に勉強をして、普通に友達と遊んで暮らしていました。』

そこまで言っても、王様は口を挟んで来なかったので、私はそのまま話を続けた。

『でも…一ヶ月前から体調が悪くなりだして…誕生日の日に…………、』

そこまで言って口ごもると、王様は怪訝な顔をした。しかしなんて言えばいいのだろうか。私でさえ何が起こったかわからないのに。

「誕生日の日に…なんだ?」

『体から白い鳥のようなものが溢れ出して、母と父が泣いていて……いつの間にかあの泉の中にいました…。』

「!?…白い鳥とはルフのことか?」

『るふ…………?』

「ルフを知らないのか。今は見えるのか?」

『今………?』

るふと言うのはそんなに頻繁に飛んでいるものなのか、と思いながら集中して辺りを見回して見た。するとよく見たら王様の近くで白い鳥がピィピィと鳴いている。

『えと…王様の周りに…います…。』

「本当に見えているんだな。」

『はい。』

私がそう返事するとうーんと王様が考える素振りを見せた。

「王よ、貴方はこの女の言うことを信じるのですか?さっきから訳のわからないことばかり言って、嘘をついているに決まってる。」

『なっ、私は嘘なんてついていません!』

「口では何とでも言える。本当の目的を言え。」

何この人、確かジャー…何とかさん。ちょっと理不尽だと思う。どうして私が疑いをかけられなければならないのだろうか。そもそも最初から疑っているのであれば、何故私をここに連れてきたの?とフツフツと怒りが湧いてくる。

「王の暗殺か。何処の手のものだ。」

その言葉に我慢していた何かが溢れてしまう。

『私だって…自分に今何が起こってるのかわからないんですよ…っ、助けていただいたことには感謝してます…っ、でも、ここに連れてきてほしいなんて言ってない…っ!勝手に連れてきて暗殺者扱いされるなら助けてくれなくてよかったっ!!』

思ったことを全て言い終わってからやっと我にかえった。私はとんだ馬鹿らしい。今の私はこの人達に命を握られているというのに。

「莉亜、すまない。ジャーファルはこの国を思って君にとって厳しい言葉をかけてしまったんだ。諸君、莉亜がこの国に仇を成す者でないことを認める。」

「王!!」

「ジャーファル。お前もわかっているだろう?この子は人を殺すような子じゃない。」

『信じて…くれるんですか…?』

「ああ!ただもう少し君のことを教えて欲しいんだ。マスルール、腕の縄を外してあげなさい。」

「ッス。」

さっき私を捕まえたピンク色の頭の人が近くに歩いていた。体に緊張が走る。やっぱり体が大きいし、怖い。彼は私の腕の縄を解くと、また王様のそばに帰った。

早く帰るためにはたぶん私のことを全て話さないといけないらしい。特に困ることはないからもういいや。

『名前はさっき言ったから…あ、歳は17歳です。先日なったばかりです。得意なことは合気道と剣道です。』

「アイキドー?ケンドー?」

何のことだ?と言うように王様はコテンと首を傾げた。そうか、外国だから日本のは知らないのか。

『合気道は武術で、剣道は剣術のようなものです。趣味程度で嗜んでいたので、強くはありませんが…。』

「へー、剣術出来んのかよ。」

『そっ、そんなに強くないです…。』

突然口を挟んできた地肌の黒いのお兄さんに思わずビクッと体を強張らせた。

「話を続けてくれ。」

『はい。家族は私を含めて三人です。兄弟はいません。ここに来るまでは黒髪の短い髪でした。瞳の色も黒でした。』

「姿が変わってしまったのか?」

『はい。てっきり私は人体実験でもされたのかと思ったけど、違うようですね…。』

「もちろん君には何もしていないぞ。」

『そうですか…。あと…るふ?が見えたのは自分から溢れ出してきたのを見たのが初めてです。世の中にそんなものがあるのも知りませんでした。るふって何ですか?』

「ルフとは生きとし生けるもの、全ての魂の故郷。また、魔力を生み出し、この世のありとあらゆる自然現象を発生させている存在。人の目には、鳥の形をした光の流動体として認識されているが、魔法使いの才をもった者たち以外は、特別な道具を使用したり何らかの条件で高密度にルフが集合しない限りは、その姿を目視することはできない。」

『魔力…魔法使い…?あの…何を言ってるんですか…?魔法なんてものが現実に存在するわけ…。御伽話ならまだしも…。』

「君の住んでいるところには魔法がないということか。」

『も、勿論です。』

「そうか…。ヤムライハ、見せてあげなさい。」

「仰せのままに。」

シンドバッドさんの言葉で一人の綺麗なお姉さんが私の前に出てきた。そして私の前で杖を一振りすると、お姉さんの周りには複数の水の玉が飛び交う。何が起こっているの?私の知ってる世界に魔法なんて存在するわけないのに。

ツゥと冷や汗が頬に伝う。なんだか嫌なことに気づいてしまいそうで怖かった。ありえないのに、絶対にありえないはずなのに。目の前でこんなもの見せられたら、可能性が出てきてしまう。

「莉亜。」

『っ、』

「君は何処の国から来たんだ。」

『に…日本と言う国です。』

「やはり…、残念だがこの世界にはニホンと言う国は…『やめてください!』」

王様のその言葉の先を聞きたくなかった。そんなはずない。絶対に。私は帰るんだから。

『そんなはずないっ…貴方達が知らないだけで…っ!だから、そんなこと言わないでください…っ!』

「莉亜。」

王様はいつの間にか玉座から立っていて、私の前まで来ていた。やめて、お願い、その先はいらないの。

「この世界にニホンと言う国は存在しないんだ。」