優しく優しく残酷に
*シンドバッド視点*
あの泉で出会った時から、この子を手放してはいけないと思ったんだ。
「では、改めて自己紹介をしようか。まず俺はこのシンドリア王国の王、シンドバッドだ。そして、この国を支える八人将。」
「ジャーファルです。」
「ヤムライハよ。よろしくね。」
「シャルルカン。よろしくな、莉亜。」
「マスルール。」
「ピスティって言うの!仲良くしてね!」
「ヒナホホだ、よろしくなチビちゃん!」
「スパルトスです。お見知り置きを。」
「ドラコーンだ。」
間髪入れずに八人将が挨拶するため、莉亜は混乱していた。名前を必死に覚えている様子に思わず笑いそうになる。
『え、えと、改めまして、市瀬莉亜です。不束者ですがよろしくお願いしますっ!』
ぺこぉっと直角に体を折り曲げる莉亜。礼儀正しくいい子だ。悪い印象は一切抱かない。しっかりしていると思ったら、少しだけ泣き虫で子供らしいところもある。不謹慎だが、アメジストのような瞳から、ポロポロと涙が溢れたときは本当に綺麗だと思った。
「さぁ、今日は疲れただろう。もうゆっくり休みなさい。」
『でも…、』
「焦ったってすぐに答えは出ない。まわりが見えなくなってしまうだけだ。」
『っはい。わかりました。』
渋々…と言ったところか。まぁ、気持ちは分からなくもない。突然元いた世界から未知の世界に来てしまったんだ。不安でいっぱいだろう。俺は彼女の頭を撫でて、ヤムライハとピスティに、莉亜を部屋に連れて行くように言った。他の八人将は解散させて、この場には俺とジャーファルだけが残る。
「あの女をどうするおつもりですか。」
「どうするって…保護するんだよ。一人で旅をするのは危険だからな。」
「っ、あの女が一人で生きられるようになったら…ちゃんと手放すつもりでいるんですか!?」
「手放すさ…。ただ、もし帰れる方法が見つからなければ…その時は彼女の方から望んでここにいるだろう。」
莉亜を手放すつもりはない。きっと彼女には何かあるはずだ。高い身体能力と魔導士にもなれる素質、十分に俺の駒になる。まずはここが安心出来る場所だと教えなければ。優しく、優しく。
「貴方がそう言うならば私は何も言いません。仰せのままに…。」
そう言ってジャーファルは手を組み、跪く。こんなにも嘘をつくのは苦しかっただろうか。彼女のひたむきさを見て苦しくなるのは何故だろうか。なぁ、莉亜ーーー。