風紀委員になった日の話


「はい。」

そう言ってポンと渡されたのは金色の刺繍が施された赤い腕章だった。風紀の2文字は私の肩に背負うにはあまりにも重たく、これが現実なのだと私に突きつける鋭いトゲのようなものだった。

『冗談じゃなかったんですね。』

「僕が冗談言うと思う?」

『いえ…。』

願わくば冗談でありますように、と祈っていた自分が馬鹿だった。私はこの瞬間から風紀委員になってしまう。この恐ろしい委員長の下で馬車馬のように働かされるに違いない。

「今日は草壁から業務内容を教えてもらってから帰って。明日から働いてもらうからね。」

『はい…。』

彼は私に最低限のことだけ言うと、すぐに机の方に視線を戻した。彼の使っているデスクには書類や本が積み重なっている。事務仕事もあるんだなぁ、と思いながら、一礼して部屋を出た。

「星影だな。話は聞いている。今日からよろしく頼む。」

『宜しくね草壁君。』

「大体の内容は説明するが、事務内容はやりながらの方がいいだろう。少し早いが明日7時に応接室に来てくれるか。その時間なら委員長はまだ来ていないはずだ。」

教えてもらう立場で、朝早すぎるなんてことは言えなかった。私は大体の業務内容を教えてもらい、必死にメモをした。委員長の取扱説明書はないのかと聞いたら習うより慣れろと言われた。さすが体育会系だ。

翌日6時50分には応接室の扉を開けた。もう鍵が開いていたので、てっきり草壁君がいるのかと思ってノックもせずに開けた。しかし中にいたのは草壁君ではなく、委員長だった。思わず一度開けた扉を閉める。

『(草壁君の嘘つき…!この時間なら委員長いないって言ったのに…!)』

「入りなよ。」

『!…失礼します……。』

入室許可が下りたので私はそっと扉を開けて、応接室に入る。せめてさっきノックをしてから入ればよかったと後悔した。彼のお得意なトンファーで殴られるのだろうか。

『さっきはノックもせず入室してすみませんでした…。』

「次やったら咬み殺す。」

『は、はいっ。』

とりあえず今日はお咎めなしのようだ。安心して胸をなでおろした。それにしても何故彼はこんなに早いのだろうか。

「草壁にはいつも通りの時間に来るように伝えた。事務仕事のやり方は僕が教えるよ。」

『え、』

「不満なの?」

『いえ、委員長直々に教えてくださると思っていなくて…、』

「大体の指示は僕だからね。人伝いに教えられても何かしらのすれ違いが起こる。だったら最初から僕が教えた方がいいだろう。」

『そうですね…、』

委員長の言う通りだ。委員長のやり方で風紀委員会が回っているのなら委員長に教えてもらった方が確実だろう。だが私の精神は確実にすり減る。ヘマをすれば殺される。そんな緊張感の中、私は業務を頭に叩き込まなければならない。地獄だ。

「1度しか言わないから。ちゃんと覚えてね。」

『は、はい…。』

実際、委員長の教え方はわかりやすかった。業務内容も複雑ではないから慣れればどうにかなりそうだ。一通り教えてもらうと、時刻は8時を指している。もう生徒が登校し始める時間だ。確かこの時間は外に出て校門で登校してくる生徒の風紀の取り締まりだったな。

『あの、ありがとうございました。』

「別に。役に立たなかったら咬み殺すからね。」

『肝に銘じます…。じゃあ、取り締まり行ってきます。失礼します。』

私は委員長に一礼して応接室を後にした。部屋を出た瞬間ドッと冷や汗をかく。こんなに緊張感を持って人といたことなんて今まであっただろうか。いや、ない。これからもこんな緊張感を持って学校生活を過ごさなければならないのかと思ったらこの先が不安でしかなかった。でも、カラコンを外して過ごす日々よりずっとマシかもしれない。そう思うようにしよう。私は少し小走りで校門へ使った。


そんな風紀委員になった日の話。



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