ディーノさんに揶揄われた
20歳の誕生日、それはもう盛大に祝われた。沢山のファミリーに囲まれて、色々な人に挨拶をされて、手の甲に何回口付けをされたのかわからない。オペラグローブをつけていて本当に良かった。
「花莉、」
『ディーノさん。』
「疲れた顔してんなあ。大丈夫か?」
『大丈夫、です。お役目ですから。』
にこにこと愛想を振りまき、本音を隠して建前で話す。それは私が今日しなければならないこと。そろそろ頬が引きつってきてしまいそうだ。早くドレスを脱いでTシャツと短パンに着替えたい。
「あんまり無理すんなよ。」
『はい、あの、ディーノさん。』
「なんだ?」
『もう少し一緒にいてもらっていいですか。…私に話しかけたそうにしている人がいて…ちょっと休憩したいので…、』
そういうとディーノさんは優しく笑った。今日は前髪を少し上げていていつもよりも男前だった。スタイルもいいのでフォーマルなスーツが本当によく似合っている。
「よろこんで、La Principessa。(姫)」
『姫はやめてください。』
「お、さすがだな。勉強したのか?」
『勉強中です。ヴァリアーの人達がイタリア語を混じえて話すんですよ。意地悪ですよね。』
「あいつらお前のこといじめるのすきだからなあ。」
『本当に。』
ヴァリアーの人達はわざとイタリア語で話すことがある。私がまだ勉強中と知っていて意地が悪い人達だ。XANXUSさんなんて全てイタリア語で話すことがある。私と話す気がないんだきっと。
「まぁ、いじめたくなるのもわからなくはないけどな。」
『えええ、ディーノさんもサディスティックな感じですか?』
「日本ではよく言うんだろ?好きな子ほどいじめたいって。」
『少女漫画の話でしょう。』
いじめる人は嫌いです、と言ってそっぽを向くと、優しく顎を掴まれた。綺麗な瞳と目があって、逸らさなくなってしまう。
「Ho sbagliato, perdonami。(俺が悪かった、許してくれ。)」
『う、別にそこまで怒ってないです、』
眉を下げてしょぼんとした彼にたじたじとしていると、彼は楽しそうに笑った。揶揄われたのだ。ああもう、この人は。呆れながらも、先ほどの疲れた気持ちはどこかへ行ってしまった。
「本当に可愛いな、花莉は。」
『ディーノさんに口説かれたって、あとで委員長に報告しておきますね。』
「ま、待て、それは勘弁してくれ。」
『ふふ、冗談です。』
「なっ、…敵わないな、お前には。」
彼は私の手を取り、そっと口付けをする。出会ったあの日を思い出した。王子様のような、その仕草に私はまた腰が引けてしまった。
「花莉、Ti voglio bene。(好きだぞ。)」
『ぐ、Grazie。(ありがとう。)』
敵わないのは私の方だ。
BACK/TOP