君といるための選択




それはハッピーエンドを迎えた未来だった。最後には皆笑いあい、大切な人達のところへ戻っていった。でもその裏では悲しむ人もいた。幸せになるために払われた代償。私も幸せなお話に向けて準備をしなければならない。この先、未来が変わって悲しいお話にもなるかもしれない。だから私は行くんだ。ハッピーエンドを掴み取るために。

「花莉、」

『委員長、お風呂出たんですか。』

「うん、寝るよ。」

『まだ髪乾かしてないですよ。』

私は彼の浴衣の袖をそっと引き、座るように促した。ふわふわのタオルで彼の頭を拭く。こうしていると子どもの頭を拭いているようだった。タオルドライをした後、ドライヤーのコンセントをさして、彼の髪を温風で乾かした。短い髪に指を通すと柔らかい髪が指を撫でた。

『はい、終わりましたよ。短いからあっという間ですね。』

「そうだね。ありがとう花莉。」

『ふふ、』

「何?」

『いえ、幸せだなあと。』

こんな風に大切な人と過ごす時間が幸せでたまらない。外に出れば狩られるなんて状況を忘れてしまうくらいに。

『寝室行きましょうか。』

彼と寝室へと向かい、2人で布団の上に座った。一応布団は2人分敷いてあるけど、一つの布団に一緒に寝るのであまり意味をなさない。私は彼と向かい合い、両手を握った。

『委員長、お話があるんです。』

「君のそういう時の話は良い話じゃないから聞きたくない。」

『そんなこと言わないでください。いつか良い話になりますから。』

きっといつかは良い話になるんだ。例え今悲しい話だとしても、この瞬間を良かったと思える日が来るはずだ。

『私は、ここを出ようと思います。』

「…、」

『幸せになる為の準備です。ハッピーエンドを迎えるには私はここを出ていかなければならないんです。』

「他に方法があるはずだよ。」

彼の言葉にゆっくり首を横に振り、先程よりも少し強く彼の手を握る。

『私はもう十分守ってもらいました。次は私が守る番です。』

「黙って。もういい、聞きたくないよそんな話。」

『恭弥さん。』

「…、」

『私がやらなくちゃいけないんです。私は恭弥さんとずっと一緒にいたい。そのための選択なんです。』

この10年、貴方と一緒にいることが出来て幸せだった。沢山の人に支えられて私は今ここにいることができる。貴方がそばにいて支えてくれたから私は幸せなんだ。

『どんなことがあっても私を追いかけてこないでくださいね。』

「…、」

『む、無言で睨まないでくださいよ。これが最善の方法なんですから。』

「最善?最悪の間違いだ。君が犠牲になる必要なんてない。」

『いいえ、これは犠牲なんかじゃありません。それに…もうこれ以上、被害者を増やすことは出来ません。』

「君は馬鹿だ。誰もそんなこと望んでない。…………行くな。」

ぎゅっと大きな体に抱きしめられた。温かい、優しい、私の大好きな温もり。永遠の別れじゃない。またこの腕の中に戻ってくる。

『……恭弥さん…。私はずっと貴方のものです。』

「当たり前でしょ。君が誰だって、どこに行ったって、君の全ては僕のものだ。」

『ふふ、何年経っても変わらないんですねえ。…大好きですよ、恭弥さん。』

涙が頬を伝う。これは悲しい涙なんかじゃない。嬉しい涙。誰かをこんなにも愛すことができたことが奇跡なんだ。ずっとずっとこの先も貴方といたいから。

またね、恭弥さん。

***

『だから、私は用事があるので…!!』

「そうつれないことを言わないで!僕と一緒に最高の日を過ごそうじゃないか。」

不測の事態だ。まさかイタリアまで来てナンパに絡まれるとは。腰を抱かれる手があまりにも鬱陶しくて振り払いたいのにわりと強い力で抱かれていて振り払えない。すると耳をつんざくような銃声がイタリアの街に鳴り響き、隣で断末魔が聞こえた。

「ああ、ごめんね。手が滑っちゃった。ダメだよおにーさん。彼女は僕の恋人になる予定だからね。」

私の腰からするりと手が離れて、ナンパの彼は地面に這いつくばった。振り向けば、白い悪魔が笑っていた。

「ちゃんと連絡してくれないと困るよ花莉ちゃん。イタリア旅行なら僕がエスコートするのに。」

にこにこと笑う白い悪魔は、銃口を再び地面で苦しむ彼に向ける。引き金がひかれると同時に私はナンパの彼を守るように立ち塞がる。

「彼を庇うの?」

『彼は関係ありませんから。銃を下ろしてください。』

「可愛い君のお願いだったら仕方ないなあ。」

変わらずにこにこしてる彼は銃を下ろし、地面に捨てた。私は後ろを振り向き、苦しむ彼の脇腹に手を添える。やがて真っ青だった顔もずいぶん良くなり、彼は安心から眠りについた。

「へえ、それが星空の娘の力かあ。初めて見たよ。」

『そうですか。』

私の愛すべき日常を奪った元凶が、今目の前にいる。大切な人達の命をあの手で奪って、何故私の前で笑えるのだろうか。この人さえいなければと何度も思った。

「さあ、行こうか花莉ちゃん。」

私に差し出された手。この手を取れば始まる。私の人生の中で最大の博打。あとはもう託すしかないの。彼と同様、幼く弱い自分に全てを。

『はい。』

この手を取った瞬間、目の前の悪魔から未来を取り返す物語が始まった―――。



BACK/TOP