旧制服を着た日の話
「星影花莉。」
『はい委員長。』
「この書類まとめておいて。」
『はい、わかりました。』
もう肌寒くなってきた11月。ブレザーを着るような季節になった。応接室はエアコンがついているから冬は暖房をつけてくれるのかな。つけてくれるといいな。そんなことを思いながら、私は委員長から書類を受け取る。すると委員長は私の顔をじっと見た。
『な、なんですか?』
「君なんでブレザーなの?」
『え、衣替えです。』
「そういうことじゃない。風紀委員は旧制服を着てるでしょ。君も旧制服を着なよ。」
『女で学ランはコスプレ感出ません?』
「誰が学ラン着ろって言った?セーラー服でしょ。女子の旧制服は。」
何を言ってるんだこの委員長様は。急にそんなこと言われても。そもそもセーラー服なんて絶対似合わないから断固お断りだ。
『もう今更じゃないですか。春からブレザー着てますし、そもそもセーラー服は似合わないので嫌です。』
「もしもし、…うん、そう、女子の旧制服の手配よろしく。」
『ちょっ!人の話聞いてます!?誰に電話かけたんですか!?』
「あと一時間もすれば届くよ。」
『話聞いてくれませんかね!?』
嫌ですと言ったのに電話で旧制服を手配する委員長。全然私の話なんて聞いてくれないんだから。いやいつもだけど。委員長はやると言ったらやる男だ。このままでは本当に私の制服がセーラー服になってしまう。
「委員長!お持ちしました!」
『早っ!』
嘘でしょ一時間どころか10分も経ってないよ。まさか常にストックが置いてあるのか。草壁君にセーラー服を渡され、可哀想な目で見られた。酷すぎる。
『委員長着ます…?似合うと思…すみません黙ります。』
「賢明な判断だよ。」
お茶目な冗談を言ったらトンファーが出そうになったのですぐに謝った。この手の中にあるセーラー服を私は着るのか。いや本当にきつい。
「着替えておいでよ。」
『今ですか!?』
「5分以内。」
『鬼ですかほんと…。』
そう言いながらも私は委員長に逆らうことなど出来ない。泣く泣くセーラー服を持ち、更衣室で着替えてまた応接室に戻ってきた。こんな姿誰にも見られたくない。だけど応接室にも入りたくない。どうしようかと迷っていると遠くから生徒の笑い声が聞こえてくる。ええい腹をくくれ私。意を決して応接室のドアをノックし、中へと入る。
『き、着替え終わりました。』
仕事をしていた委員長が手を止めて私の方を見た。なんだこれ恥ずかしすぎる。居心地が悪くてモジモジとしていると、委員長は椅子から立ち上がって私の方は歩いてきた。
「ふうん。」
『に、似合わないならハッキリ言ってくださいよ!』
「別に似合わないなんて言ってない。君が着るとこうなるんだなって思っただけだよ。」
小さく笑う彼はどこか楽しそうだ。これは私をからかって楽しんでる時の顔だ。早く脱ぎたい。しかも何故かセーラー服のスカートが短くて頼りない。これは膝上何cmなのだろうか。
『これ着て登校しなきゃいけないですか…?』
「………いや、気が変わった。今の制服のままでいいよ。それよりもその姿誰かに見られたかい?」
『いえ、誰にも見られてませんが…。え、本当にいいんですか?』
「いいよ、このスカートの短さは取り締まり対象だ。風紀委員がそれじゃ示しがつかないからね。」
『良かった…。』
心底ホッとしている自分がいる。これで旧制服を着なくて済む。確かにこのスカートの短さは取り締まり対象だ。これが長かったらと思うとゾッとする。
『もう着替えていいですか?』
「何言ってるの?今日は帰るまでそれを着てなよ。」
『えええ…嫌ですよ…。』
「なら僕が今着替えさせてあげよう。」
『ひっ、冗談に聞こえないのでやめてください。』
委員長の冗談は本当に冗談に聞こえないから勘弁してほしい。でもこれはきっと私が折れなければならなさそうだ。小さくため息をついて私は帰るまでこのセーラー服を着て業務を行うことにした。その後の委員長の機嫌がすこぶる良くて帰りに茶菓子をもらった。半年以上委員長といても、まったく彼の考えていることがわからない1日だった。
そんな旧制服を着た日の話。
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