バレンタインデーの日の話


今日はバレンタインデー。日本では女の子が好きな男の子にチョコレートをあげる日。

『うわ、』

朝の風紀の仕事を終え、教室に行くと何故か私の机に大量のチョコが置いてあった。よく見てみるとその宛先は委員長だ。

「「「花莉!!」」」

『これは一体…?』

「お願い雲雀さんにチョコ渡しておいて!!」

『えええ!?私が!?』

「花莉しかいないのよ〜!」

「他の風紀委員はあてにならないし!」

『本人に直接とか…、』

「怖くて渡せるわけないでしょ!だからあんたに頼んでるの!」

ひいいなんて悪しき風習だ。この大量のチョコを委員長に渡すなんて無理に決まってる。そもそも委員長はチョコを受け取るのか…?

『一応渡すけど、受け取ってもらえなかったら諦めてね…?』

「「「ありがと〜!!」」」

大量のチョコを一旦紙袋にまとめ、私は昼休みを待った。そして昼休みになった瞬間、その紙袋を持って応接室へと向かう。

『失礼します。』

「君が昼休みに来るなんて珍しいじゃないか。」

委員長の言う通り、私は呼び出された時以外は、朝と放課後しか応接室に訪れることはない。だからこうして昼休みに応接室に訪れるのは本当に珍しいことだった。

『ええとですね。今日何の日か知ってます?』

「知らない、興味ないな。」

『今日バレンタインデーなんですよ。それで委員長にっていっぱいチョコを預かっててですね…。』

「いらない。」

『ですよね…。』

ここで粘ってもきっと委員長は受け取らない。クラスの女子には申し訳ないがチョコはお返ししよう。

「君からはないの?」

『え、ないですよ。委員長食べないだろうなと思って。』

「ふうん。」

『外国では男性の方から女性に花を贈る日なんですよ。』

「興味ない。」

なんだかむすっとして仕事を再開した委員長。これ以上邪魔するわけにも行かず、私は応接室を出て教室へと戻った。受け取ってもらえなかったと女子に言うと、だよね、と言う顔をして皆諦めてくれた。私はなんだかもやもやとしてしまって、しばらくは心が晴れなかった。

放課後、珍しく仕事が少なかったため早く帰ることが出来た。ふと、チョコが売っているお店に立ち寄るとビアンキさんに遭遇する。

「花莉、ちょうどいいところにいるわね。」

『こんにちはビアンキさん。どうしたんですか?』

「これからチョコレートを作るのよ。貴女も良かったら一緒に作らない?」

『え、いいんですか?』

「ええ、もちろんよ。私の友人もいるけどいいかしら?」

『はい。是非ご一緒させてください。』

私はビアンキさんについていき、沢田家へとお邪魔した。すると数分後に可愛らしい女の子が2人沢田家へと訪れた。ビアンキさんが事情を説明してくれて、私は2人に挨拶をする。

『初めまして、並盛中2年星影花莉です。よろしくお願いします。』

「並盛中1年笹川京子です。よろしくお願いします。」

「緑中1年三浦ハルです!よろしくお願いします!」

1年生なんだ。なんだかフレッシュ感溢れて可愛らしいな。ハルちゃんはどうやら沢田君のことが好きみたいだ。ビアンキさんはリボーン君に作るらしい。

「花莉先輩は誰に作るんですか?」

「ハルも気になります!」

『あ…、えっと、いつもお世話になってる人…かな…?』

そういうと2人は目をキラキラとさせてきたが、そういうのじゃないとしっかり説明した。そしてチョコレート作りが始まる。途中でアクシデントがあったり、ビアンキさんの作る食べ物が全てすごいものになってしまったりと大変だったが、私は無事に生チョコを作り上げた。一応シンプルにラッピングし、メッセージカードも添える。時間を見れば18時を指していた。もしかしたら今戻れば間に合うかもしれない。

「完成ですー!」

「皆喜んでくれるといいね。」

『あ、あの!私これ渡してきてもいいですか?』

「もちろんよ。思い立った時に渡しに行きなさい。」

「花莉先輩、また一緒に作りましょうね。」

「私もまた花莉さんに会いたいです!」

『ありがとう京子ちゃんハルちゃん!また一緒に作ろう!』

私は荷物とチョコを持って急いで並盛中へと向かった。まだ学校の電気はついてる。応接室の前に立つとなんだか心臓が急にうるさくなって、緊張してしまった。

『失礼しまーす…。』

「忘れ物でもしたの?」

『い、いえ…あの、』

なんでこんなに緊張してしまうのだろうか。ただお世話になってる人にチョコを渡すだけなのに。震える手で私は彼にチョコを差し出す。

『今、作ってきたんですけど…、その、いつもお世話になってるので…、』

「………今作ってきたの?」

『は、はい。友人と一緒に…。てっ手作りとか嫌じゃなかったら…、』

受け取ってもらえなかったら自分で食べてしまおう。味見したら美味しかったし。一応委員長の好みに合わせて甘さは控えめにしている。あとは彼が受け取ってくれるかどうかだ。

「ありがとう、もらうよ。」

『え…、』

「ずいぶん驚いてるね。」

『いえ…、まさか本当に受け取ってもらえるとは思ってなくて…。』

「別に。君が作ったものだったら信用できるだけだよ。」

いや確かに変なものは入れてないけど。他の子だってたぶん変なものは入れてないと思うんだけどな。たぶん。渡しに来たは良いものの、まさか本当に委員長が受け取るなんて思ってもみなかった。少しにやにやとしていると委員長はその場でラッピングを開け始める。

『今食べるんですか!?』

「早めに食べた方がいいでしょ。」

『そうですけど家に帰ってからでもいいじゃないですか。』

そんな私の意見など無視して彼は1つチョコを口に放り込む。なんだこの緊張感は。渡す時とは違う緊張感があって先ほどよりも心臓の音が大きくなっている気がした。

「うん、悪くない。」

『よかった…、』

「来年はもっと甘くなくていいよ。」

『来年は買いますよ。手作り大変ですもん。』

「却下。」

結局委員長は全てのチョコをその場で食べてしまった。来年は少しテイストの変えたチョコを作ろうかな。委員長は指についたココアパウダーをペロリと舐める。その光景がなんだか色っぽくてどきりとしてしまった。

「ご馳走さま。」

『お粗末様でした。じゃあ私は失礼しますね。』

「待ちなよ、送っていく。」

彼は椅子から立ち上がり、学ランを羽織る。いつもよりも優しい顔立ちの委員長に、心臓がドキドキと鳴り止まないのは何故なのだろうか。少しだけ特別な日になったこの日を、私はきっと忘れないのだろう。

そんなバレンタインデーの日の話。



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