沢田綱吉と接触した日の話
『そろそろか…、』
風紀委員になってから半年以上が経った10月。外は過ごしやすい気候となり窓からは爽やかな風が吹いていた。私はパソコンを閉じて、応接室を出た。窓の外からは部活に励む生徒達の声が聞こえる。私は廊下を突き進み、見回りを行う。
「す、すみませんでした!もうしませんからぁ!」
「許してくださいぃ!!」
「うるさい。」
許しを請う声を一蹴して無慈悲に人を殴る音が廊下に響いた。委員長に咬み殺される理由は校則違反か群れていたかの2択だ。こっそりと現場を覗くと、すでに咬み殺された2人の生徒の姿があった。そしてもう委員長の姿はない。私は2人の生徒のそばに駆け寄る。
「うぅ、」
『大丈夫ですか。』
「いてぇ…、」
『保健室行きましょう。立てますか。』
この時間になると委員長は見回りをする。私は最近咬み殺された生徒を保健室へ送り届けることを始めた。所謂後始末というものだ。別に委員長に頼まれたわけではない。だが廊下に屍が転がっているのはなんともショッキングな光景なので、怪我をしている生徒をせめて保健室に連れて行ってあげることだけはしてあげたいと思った。
『失礼します。』
保健室に入ると、保健室の先生はいなかった。いてもあまり意味はないのだが。うちの保健室の先生は特殊で男子生徒を診てくれない。彼がいるときに連れて行っても追い出されてしまうのだ。私は2人の生徒の手当てを行い、早く帰るよう促した。2人は私にお礼を言って保健室を出て行った。
時計を見ると17時になろうとしていた。そろそろ委員長も応接室に帰ってくる頃だろう。私は使ったものを片付け始めた。
「いててて、失礼しまーす…、」
『!!』
保健室に1人の男子生徒が入ってきた。見た感じ一年生だろう。彼は全身がボロボロで顔も殴られたような傷があった。委員長に咬み殺されたのは一目瞭然だ。しかし彼はどこかで見たことあるような…。
「あ、えと、シャマル先生はいますか?」
『今外出中みたい。良かったら私が手当てするよ。』
「えっ、いやっ、」
『はい、ここどうぞ。』
男子生徒は少し頬を赤くして遠慮がちに椅子に座った。私は消毒液に浸けられた脱脂綿をピンセットで取り、傷を優しく消毒した。あらかた手当てを行い、救急箱の蓋をパタンと閉める。
『はい、おしまい。』
「あ、ありがとうございました。えと、」
『2年の星影花莉。』
「あ、1年の沢田綱吉です。」
『あ!ああー!あの沢田君だ!体育祭で下着姿になった!』
「なぁっ!?それは…!!」
『どこかで見たなって思ったんだよ。棒倒しで委員長と戦ってたもんね。』
「ハ…ハハ…星影先輩は風紀委員なんですか?」
『うん、一応。この傷、委員長にやられたんだよね。ごめんね。』
「いやっ、星影先輩が謝ることじゃ、ヒバリさんの前で俺が群れてたんで!!」
沢田君はぶんぶんと勢いよく顔を横に降る。群れていただけで殴られるんだからこんなに理不尽なことはないだろう。
『私、そろそろ行くね。お大事に。』
「あっ、星影先輩!」
私は椅子から立ち上がり、沢田君の横を通り過ぎようとした。しかし、彼は私の手を掴み、それを制止する。
「『!!』」
沢田君の手が私の手を掴んだ瞬間、今までに感じたことのないような何かが、体中を駆け巡った。思わず彼の手を払いのける。
『せ、静電気、かな…。』
「静電気…?あっ、すみません急に掴んじゃって!!あの、ほんと、すみませんでした!!」
沢田君は90°でお辞儀をして、走って保健室を出て行ってしまう。私はぽかんと口を開けて、その場で動かずにいた。今の感覚はなんだったのか。その正体がわからないまま、時間は17時を過ぎてしまった。応接室に戻ると、般若を背負った委員長が私を待ち受けていたなんてその時は思ってもみなかった。
そんな沢田綱吉と接触した日の話。
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