山田二郎


※長編夢主
※オリキャラが多数出てきます。



昼休みを知らせるチャイムが鳴り、静かだった教室は一気に賑わいを見せた。
リュックからお弁当を取り出すと親友のみかちゃんとりっちゃんがお腹空いたと嘆きながら椅子を持ってやって来たので、早速ランチタイムに興じる。


「そういえば名前の好きなクマのやつ、今ポッティーとコラボしてるんだってね」
「あー…うん…」
「どしたん? めっちゃ暗いよ?」
「そのコラボね、今日からだから朝イチで色んなコンビニ行ったんだけど全然無くって…」
「なるほど、だから朝から元気なかったんだ〜」
「おまけでついてるシールがすっごく可愛くってね、すぐ手元に欲しかったんだけどなぁ…」
「そんなに人気だったんだ、あのクマ」


みかちゃんは興味無さげにメロンパンをもくもくと食べている。みかちゃんは可愛いものよりかっこいいものが好きだからなぁ。以前ちゃいろの子グマの可愛さを語ったことがあるが半分空返事だった。


「元気出しなって〜、きっと明日にはあるよ」
「ありがとう、りっちゃん」


泣きそうになる私の頭をよしよしと撫でてくれるりっちゃん。りっちゃんの優しさが胸に染み渡って逆に涙が出てきそうだ…。


「放課後も見てみようかな…」
「というかあんたコンビニでバイトしてるでしょ? 取り置きとかできないの?」
「それは他の子グマファンの人達に申し訳ないから…!」
「あ、そう…」


そうと決まれば放課後はいつも行かない方のコンビニに行ってみよう。駅前ばかり責めてたからなぁ、デパート裏の方とかあるかなぁ…。愛しの子グマを手に入れる為色々なコンビニの場所を思い出していると、突然頭を叩かれた。軽くだったのでそこまで痛くはなかったけれど反射的に声を出してしまった。


「ギョアッ?!」
「何だその声、カエルみてぇ」


馬鹿にしたような笑みを浮かべて此方を見下ろす二郎に内心ムカっとしてしまったのは必然的だと思う。誰だって突然頭叩かれてこんな馬鹿にされたら腹立っちゃうよ。


「そっちが急に叩いてくるからでしょ! 用があるなら普通に話しかけてきてよね」
「これ、先公から」


待って言葉のキャッチボール。取り敢えず二郎から渡されたノートを受け取った。
つい先日、数学で分からないところがあったので先生に質問しに行ったのだが、教えたついでにと宿題を出されてしまった。その解答を書いたノートを今朝先生に出しに行ったので、採点が終わったのだろう。
でもあれだな…前まで先生の言うことなんて全く聞く耳持たずだったのに、こうして頼まれごとを引き受ける様になったのは何だか嬉しい気持ちになる。


「届けてくれてありがとう」
「お、おう…」


お礼を言うと何故か二郎は声を吃らせ、目も少し泳がせた。どうしたんだろう…知らない間に私何かしちゃった? こんな短時間で?


「あと、これ」
「 あーーっ! 子グマ! ポッティー!」


次に二郎から渡されたのは先程まで話題に上がっていた、私が欲しくてたまらなかったちゃいろの子グマのコラボポッティーだった。


「偶々コンビニ行って見かけたから、お前にやるよ」
「あっありがとう…! 本当に嬉しいよ、ありがとう二郎!大好き!」
「す?! お、お前、そんな、気軽にそんな事言うんじゃねーよ!」
「そう言われても今すっごく二郎の事好きだもん…好きって気持ち抑えきれない…」
「いっ意味わかんねぇ事言うな気持ち悪ぃな!」


えへへ、今すっごく気分いいから二郎からの罵倒にも全然怒る気持ちが湧かないよ。
二郎が優しい子に育って私は嬉しいよ…これが母性もいうものなのかな。


「…ねぇみかちん」
「何だいりつ子」
「このカップルはいつになったらくっつくの?」
「うーんいつになるかねぇ(カップルがくっつくっておかしな日本語よね)」
「? 2人共何の話してるの?」
「ナンデモナイヨー、ねっみかちん」
「うん」


二郎と話しているとこうして2人でヒソヒソ話を始めるので最初の頃は気になりしつこく聞いてしまっていたが、何の話か教えてくれないので今では軽く流している。気になるの気持ちはあるけどね。


「二郎も一緒にポッティー食べよう」
「は? いや、俺は…」
「あっじゃあ俺もーらい!」
「苗字さん俺にも〜」
「うん、いいよ」


二郎を押し退けたのはいつも一緒にいる小山君と中谷君だ。そんな2人に対して二郎は「お前らマジ潰すぞ?」とキレかけてるがそんな事御構い無しにポッティーをぽりぽりと食べている。


「私にもちょーだい!」
「いいよー…あーーっ!!」
「今度は何?」
「シ、シール、これ、シークレットだ…!」


何気なくおまけのシールを確認してみるとパッケージには載っていないもので、ちゃいろの子グマの友達であるしろい子グマと2匹で遊んでいる絵だった。


「わ〜やったじゃん!」
「うう…可愛い…っ今最高に幸せ…」
「良かったな二郎…朝早く起きて買った甲斐あったな」
「おっ起きてねーし! 偶々だっつーの!」
「(そういえば山田君今日は来るのめちゃくちゃ早かったな、いつもは予鈴ギリギリなのに。愛の力は凄いわね)」
「本当にありがとうね、今度何か二郎の好きなもの奢らせて」
「いや、別にいいって」
「ダメ! 奢らせてくれないと私の気が済まない!」
「強引かよ〜」


隣に座るりっちゃんはポッティーを食べながら笑っている。二郎は私の頑固さを知っているので言い返そうとしたのをやめて考え込んだ。 あ、でもあんまり高いの頼まれたらどうしよう。…貯金切り崩すしかないか。


「…じゃあ前に作ってくれた唐揚げ、また食いたい」
「えっそんなのでいいの?」
「おう」
「いや、本当遠慮しなくていいよ? バイト代貯まってるしラーメンでも、何なら何か欲しいものあれば買うよ?」
「唐揚げがいい」
「お、おお…」


二郎の事だから色々要求してくると思ってたのに。予想が外れたので拍子抜けしてしまったが、気に入ってくれていたのかなと思うとにやけてしまう。


「それなら弁当作ってこよっか?」
「…は?」
「余った分お弁当のおかずに入れようと思ったけど、それならいっその事二郎の分も作っちゃっおうかなーと思って。ほら、唐揚げだけだと栄養バランス悪いし飽きちゃうかなーと思って…でも嫌だったら「あ?! 嫌じゃねぇし!」あ、うん」


何でキレたんだろう。でもまぁ嫌じゃないのなら良かった。


「愛妻弁当じゃんか!」
「うっせぇ黙ってろ」


小山君は二郎の拳骨によって沈められた。 凄く鈍い音したけど大丈夫だよね? 小山君全然起きないけど大丈夫だよね?


「小山、安らかに眠れ…お前の勇姿(笑)は忘れない…」
「ここにお墓を立てよう…」
「二郎、こいつの墓石に刻むライムをくれてやってくれ」
「勝手に殺さないで?! 俺まだ生きてるから!!」
「毎日ポッティーお供えしにいくね…」
「だから俺生きてるって! ていうかそれ程ポッティー好きじゃないから! 気持ちは嬉しいけど!」


すると昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、各々自分の席へと戻っていく。


「二郎、明日腕によりをかけて作るから楽しみにしててね」
「…ま、期待せずに待っててやるよ」
「ふふ、絶対美味いって言わせてやるよ!」


二郎の口調を少し真似て返すと軽くデコピンされた。 うん、明日二郎の嫌いな野菜も入れてやろう。



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