野生のポケモンにでも襲われたのだろう。怪我をして意識を失った女が倒れているのを偶然見つけたのだ。正確にはウォロが連れていたトゲピーが何かに興味を示し、それを追った先に倒れた人間がいた。
この時代にポケモンを持たない人間が一人で出歩くなど死ににゆくようなものである。そんなことはまだ幼い子供であっても理解できる話だ。
最初はコンゴウ団の者かとも思ったが長であるセキですら彼女を見たことがないという。コンゴウ団の関係者ではないとするとますますわからない。
そのまま捨て置いて死なれても後味が悪いからと仕方なく女を適当なギンガ団の者に預けてその場を去った。ウォロと女の関係はそれで終わり……の筈だったのだが。
「ギンガ団の方からイチョウ商会のウォロという人が助けてくださったのだと聞いたのです」
「はあ」
「その節は大変お世話になりました。あなたが見つけてくださらなければ死んでいただろう、と」
——ギンガ団の本部にて適切な治療を受けた女は奇跡的に一命を取り留め、コトブキムラでイチョウ商会の仕事をしていたウォロにこうして会いにきた。
律儀なものだ、とウォロは思う。何故あんな場所で倒れていたのかは知らないが自分はただ意識のない女をギンガ団に押し付けただけだ。イチョウ商会が仕入れた商品の中に薬の類はいくつかあったが、自分の手で女を治療するのは面倒だしそこまでしてやる義理もないから面倒ごとを他者に押し付けたに過ぎない。
呆れられることはあれども感謝される筋合いなどない。なんて、ウォロの心中など理解しようがない女には関係のないことだ。
「ジブンは当然のことをしたまでです。とはいえ発見したのはトゲピーですけどね」
「ポケモンをお持ちなのですね」
トゲピー、と女はポケモンの名を呟く。
人とポケモンが共に生きる道をまだ知らないヒスイ地方ではポケモンを持たない人間が大半だ。ポケモンを調査するギンガ団であればポケモンを捕まえて育てることもあるだろうが、どれだけ小さく臆病な性格のポケモンでもポケモンであるというだけで恐れる人もいる。
そもそもポケモンの名前なんて一切知らない、ということもあるだろう。だが、女の声色にポケモンに対する恐怖は感じられない。
「申し遅れました。わたし、レアと言います。アローラ地方からやってきました」
アローラ地方。
噂には聞いたことがある。ヒスイの地から遠く離れた場所にあって、複数の島からなる地方だとか。ヒスイ地方と比べれば遥かに暖かくて独自の文化が形成されている、というのはギンガ団のラベン博士から聞いた話だ。
「コトブキムラへの滞在の許可も得ましたし、よろしくお願いしますね」
屈託なく笑う女に理由の分からない苛立ちを覚えた。