何でも彼女はヒスイ地方の歴史を調べる為にやってきたらしい。故郷では相棒ポケモンと一緒に暮らしていたが、そのポケモンは彼女が生まれるよりもずっと前から生きているポケモンでかなりの高齢だった為に無茶をさせるわけにもいかず留守番させているのだとか。
「ウォロさんはライチュウというポケモンをご存知ですか。わたしの相棒がライチュウなんですけど」
「ライチュウ、というと確かピカチュウの進化系ですよね。でんきタイプの……」
「アローラのライチュウは少し違っていてですね、尻尾で浮遊するんですよ」
ギンガ団の調査隊に所属しているショウがピカチュウをパートナーとしていた記憶がある。赤い頬からばちばちと電気を放つ、好戦的な部分はあるが比較的小型の愛らしいポケモンだ。
ウォロもポケモンを扱っている以上、人よりはポケモンの知識に長けている自信がある。リージョンフォーム、と呼ばれる環境に合わせて独自の変化を遂げたポケモンたちのことも知っている。
例えばヒスイ地方のヌメラは進化するとはがねタイプを獲得するがこれはヒスイのヌメラ……ヌメイル特有のもので、カロス地方のヌメイルはドラゴンタイプのみを持つポケモンらしい。
だが、尻尾で浮遊するライチュウというのは初めて聞いた。ヒスイのライチュウは飛び跳ねることはあるかもしれないが浮遊することなどないので想像しにくい。
見たことのないポケモンに好奇心をそそられない、といえば嘘になる。
「超能力を操るエスパータイプなんですよ。もちろんでんきタイプの技も使えますけど」
「なんと、エスパータイプ!」
「ヒスイの子と比べると耳や尻尾の形も丸くて色は茶色っぽいですね。わたしはこっちに来て初めてアローラとは違う姿のライチュウを見てびっくりしました」
アローラ地方特有のポケモンたちについてもっと知りたい、というラベン博士の計らいで今は一時的にギンガ団に身を置いているというこの女は本当によく喋る。決して喧しい、ということはないのだが。
ポケモンを連れずにヒスイの地を歩き回っている、など最初は死にたいのかと思っていたがどうやらそのつもりはないらしい。
「ライドポケモンって知ってます?」
「コンゴウ団やシンジュ団がお世話をしているポケモン——アヤシシやガチグマが自分の認めた人間を背に乗せてくれる、という話は聞いたことがありますが」
「アローラではヒスイよりもライドポケモンが身近な存在なんですよね。例えばケンタロスというポケモンがいて、人を背中に乗せてくれるし硬い岩も砕いてくれたりします」
既にポケモンが生活の一部となっている、という辺りはヒスイ地方とアローラ地方の大きな違いなのかもしれないと女は語る。
全ての人間がポケモンと友や家族のように接する、というのは流石に難しいがアローラではヒスイよりポケモンと一緒に生きている人が多いし野生のポケモンも人間を見かけるなり襲いかかってくるのは元からかなり凶暴なポケモンが殆どである。
だからこそ、ヒスイ地方でも故郷と同じ感覚で出歩いて襲われたのだと彼女は苦笑する。それで死んでしまったらこの女はどうするつもりだったのだろう。
「わたしはヒスイの歴史をある程度調べたら故郷へ帰らないといけませんけど、帰るまでウォロさんに会いにきてもいいですか?」
「ジブンに、ですか?」
「はい。ウォロさんはポケモンの話を興味深そうに聞いてくれますし、ヒスイのポケモンや歴史についても詳しそうなので、わたしとしても楽しいのです」
「……レアさんが望むのであれば、是非」
——この女は何も知らない。知らなくていい。