「ウォロさんはヒスイの神話に詳しいんですね」
「詳しいというほどではありませんよ。ただ昔から興味を惹かれる対象ではありまして、自ら調べたり詳しい方から教わったりしていたのです」

 創造神アルセウスがこの世界を創り出し、時間と空間、心を司る神々を生み出した。
 そのような神話がヒスイの各地に残されている。とはいえ、気が遠くなるほど昔の話である。アルセウスという神の名前さえ現代には殆ど伝わっていない。辛うじてコンゴウ団とシンジュ団が崇めている「シンオウさま」という形で神の存在が伝えられているくらいだ。
 ウォロがアルセウスという名前を知り、その存在を確信したのはもう何年も前のこと。世界を創造した神を従えて、その力で今よりもよい世界を創ってみたいと思うようになった。
 万が一そのようなことが叶うのであれば、その時は今の世界など最初から無かったことになるのだろうけれどそれでも構わないと思っている。
 ——などというウォロの目的を知る者は現時点では誰もいない。多少、他の人より神話に詳しくとも仕事の傍ら趣味で調べていると説明すれば大抵は「そういう人もいるのか」と納得してもらえるので不審がられることもない。

「時間を創ったシンオウさまに、空間を創ったシンオウさま……。コンゴウ団とシンジュ団の長が言い争っているように、どちらかは偽物なのでしょうか」
「さあ、そこまではジブンにも。時間や空間を創れるような存在ですから規格外な存在でしょうし、片方が偽物だとすれば本物だと信じられてこの時代まで信仰が続いていることが不思議ではありますが」
「なるほど……。アローラには太陽を喰らいし獣、月を誘いし獣と呼ばれる伝説上の存在が伝わっていますが規格外の存在はどんな神話にも当たり前に出てくるものですからね」

 ……相変わらずペラペラとよく喋る女だ。
 故郷でも神話や歴史に興味があって趣味で調べていたらしく、ウォロがアルセウスの存在を伏せつつ語った断片的な神話の内容にも強い興味を示している。
 倒れていたところを保護して(正確には他人に預けただけだが)絡まれるようになったときには内心うんざりしていた部分もあるが、彼女が語るアローラ地方の神話の話も興味を惹かれるところではある。
 尤も、それらの話への興味もウォロにとってこの世界を創造したアルセウスほどではないのだが。

「ウォロさんも是非いつかアローラに来てください。ヒスイほどではないかもしれませんが面白い話がたくさんありますよ」
「レアさんが連れて行ってくれるのですか?」
「え?」
「——冗談です。ですがアローラ地方の神話も面白そうです!」

 アルセウスを従える。世界を再構築する。そんな目的が達成された暁には目の前の女も、彼女が愛した故郷も消えてなくなる。それを惜しいと感じるほどの情は自分にはないのだ、とウォロは思う。
 アルセウスの存在を知るよりも前に彼女と出会っていれば或いはそのような未来もあったのかもしれない。

「故郷には美味しい食べ物も綺麗な景色もあるので、ウォロさんも癒されると思うのです」

 屈託なく笑う女に、明るい未来など与えてやらない。

全てが無に帰すよりも前に