「どうしてアナタがここにいるのです」
ウォロを探し続けて季節が何度巡っただろうか。
本来ならアローラ地方へ帰還して元の生活に戻っていた筈だった。それがたった一度、命を救われたことをきっかけに運命は大きく変わってしまった。
彼にとっては本当に気紛れで助けただけの女だったのだろう。目の前で死なれては目覚めが悪いから。自分が見て見ぬ振りをしたことで女が一人死んだなどとなれば流石に引っかかるものはある。
——そこに優しさも人間らしい情も含まれていなかったとしても、その結果救われた女は確かに彼に感謝したし特別な想いを抱くには充分だったのだ。
「せめてウォロさんに一言別れを告げたいと思って探していました」
「別れ?」
その為だけにどこにいるのか定かではない人間を探して広大なヒスイを旅するだなんてあり得ない、と困惑の色を浮かべるウォロの表情が少し珍しくて——この反応を見られただけでも彼を探して良かったと思う。
ヒスイ地方を離れてしまっていたら探しようがなかったけれどヒスイに残る神話を好んでいたウォロが簡単にヒスイを離れるとはどうしても思えなかったのだ。
無論、他の地域の神話や歴史を紐解くことでヒスイの神話に関する謎が明らかになる、という可能性もないわけではないのだろうけれど。
「レアさんがそこまでする必要はないはずですが」
「ええ、ないでしょうね。ウォロさんはアルセウス、と呼ばれる創造の神を従えるつもりだったとテルさんから聞きました」
「それを知っていて、何故」
「ウォロさんと話していた日々が楽しかったから。何もなかったみたいに別れてしまったらきっと後悔してしまう、と思う程度には」
故郷へ戻れば、生きている間にヒスイの土を踏むことはないだろう。
アローラはずっと遠く、海の向こうにある島だし船での移動だって何日も何十日もかかる。海に住んでいるポケモンたちだっているし彼らが船に危害を加えない保証もない。ポケモンが絡まない事故で船が沈没、なんて話すら聞いたことがある。
今の時代、船旅は決して安全で楽しいものではない。だから人生で一度だけ、ヒスイ地方へ行ってみようと決めていた。ジョウト地方やガラル地方なども候補ではあったが最終的にはヒスイの歴史に興味を持ち、ここを旅の目的地とした。
「やっぱりウォロさんもアローラに来ませんか」
「お断りします」
「……そう言われると思いました」
「分かっていながら誘うなんて意味が分かりませんね」
「自分でもそう思います」
ウォロの願いは恐らく、世界にとってよくないものだ。
この世界を作った存在を従えることが出来たとして、それだけの力を行使せねばなし得ないことなど、どうせ碌なことではない。争いのない世界、誰もが幸せに生きられる場所、そのような願いを抱いても今の世界の形を維持したまま願いが叶えられる筈がないのだ。
だから彼がその願いを捨ててくれたら、なんて酷いことを思ったのは否定できない。その為にアローラに来ないか、と。
わかっている。ウォロがその程度で創造神への興味を失うような人であればテルと敵対することもなかったし、コトブキムラから姿を消すこともなかった。
「もう二度とウォロさんと会うことはないかもしれませんけど、もしも疲れたときは是非わたしの故郷へいらしてください」
「……考えておきます」
「あんまり遅いとおばあちゃんになってしまうかもしれませんけれどね?」
またいつか、なんて約束は出来ない。
だけど何となく、ウォロとはこれが最後ではないような気がしたのだ。