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すぅすぅと、小さな寝息をたてるなまえ。
首の傷はもうふさがっていて、毒のほうも寝ていれば抜けるはずだ。
軽く噛まれた肩が、少し疼く。
それと同時に、先刻までのことが色々と────忘れよう、そうしよう。
思わず眉間を抑えたとき、ドアノッカーが鳴った。
ベッドを揺らさないように降りて、ドアを開けに向かう。

「どーもー……あれ石田サン、さっきよりむしろげっそりしてません?」
「ほっといてください……」

浦原さんを部屋に通すと、手近なテーブルに、手に持っていたものを並べはじめた。
液体の瓶がひとつと、錠剤の瓶がひとつ。
それから、何やら資料のようなものも。

「こっちの液体は、鉄剤みたいなもんです。彼女の目が覚めたら飲ませてあげてくださいね。錠剤は、万が一毒が抜けていなかったときのための解毒剤っス」

そこまで言うと、ニヤリと浦原さんの唇がつり上がる。

「毒にかこつけて、あーんなことやこんなことしちゃう吸血鬼も多い中で、石田サンはさすが石田サンと言うべきっスかねぇ」
「ほ、ほっといてくださいって!!」
「しー、彼女が起きちゃいますよ」

騒がせたのはそっちだと若干憤りつつ、咳払いして、資料の説明を促した。
つり上がっていた唇がもとの位置に戻って、空気も少し変わった、ような。

「最近、吸血鬼の仕業と言われてる事件が急増してましてねぇ。ちょっと調査を命じられてるんス」
「吸血鬼、ですか」
「まぁ、モンスターの仕業だとされる事件の十中八九は、そう見せかけたい人間の仕業なんスけどね」

資料の1枚目をめくると、事件の概略が書いてある。
どうも、首筋にふたつ──ちょうど牙を刺されたような傷のある死体が見つかるのが相次いでいるらしい。

「ご存知のとおり、吸血鬼の牙の痕ってのは、唾液の効能ですぐふさがるはずなんスよ。傷は人間が注射器か何かを使って偽装しただけで、どれか1件を起点とした、模倣犯の犯行なんじゃないかと思ってたんスけど」
「それにしては、事件の起きた地域の範囲が広いような……」
「そう。1件1件は小規模な事件っスから、模倣犯が出るにしても、ここまで広範囲に情報が及ぶとは考えにくい。吸血鬼がわざと痕を消さずに、なんらかの意図を伝えようとしている、とか」

心当たりは?と問われても、何も返しようがない。
純血統吸血鬼はもう僕の家系くらいしかおらず、ほとんどは混血統だ。
完全に人間に混じって生活している吸血鬼がいないとも限らないし、僕はそんなあたりまで把握していない。
一瞬自分の父親の顔が頭を過るが、あいつならもっと要領よく片付けるに違いないだろう。

「まあ偶然って可能性がないわけじゃないんですが……どちらにせよ気を付けて」

事件のあった場所を示す円は、この近辺に密集しつつある。

「本物の吸血鬼なら、いずれアナタの存在──ひいては、彼女の存在を嗅ぎ付けて、狙ってくるかもしれませんから」
「……はい、用心します」
「そんじゃ、また何かあったら呼んでくださいねー」

浦原さんは、1番大きな窓を開け放つと、飛び下りて消えた。
毎度毎度心臓に悪いから、正直やめてもらいたい。
眠り続けるなまえの手を、そっと握る。
少し荒れの目立つ指に、自分のそれを絡めて、誓った。
誰かがこの子を害そうとするならば、僕はそれを阻む。
必ず、守り抜く。


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